在宅介護の大きな社会問題として「老老介護」の問題があります。
しかしあまり報じられていませんが、老老介護は在宅だけの問題だけではなくなってきています。
介護サービスを専門として提供する「介護施設を含む多くの介護事業所でも老老介護状態」になりつつあるのです。
そして、来たるべく「2025年問題」で要介護者が急増する頃には、その状態が益々深刻化していくのではないかと思っています。
今回は「老老介護は介護施設等の介護現場にも及んでいる」ということについて記事を書きたいと思います。
老老介護問題とは
まずは「老老介護」について具体的に見ていきたいと思います。
老老介護(ろうろうかいご)、あるいは老老看護(ろうろうかんご)とは、家庭の事情などにより高齢者が高齢者の介護をせざるをえない状況のことである。
【引用元】ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%80%81%E8%80%81%E4%BB%8B%E8%AD%B7
つまり、簡単に言えば「高齢者が高齢者を介護している状態」です。
高齢者が高齢者を介護することで、家庭や在宅での生活がお互いに限界を迎えてしまったり、悲しい事件が発生してしまうことがあるのが「老老介護問題」です。
肉体的な限界
高齢になればなるほど肉体的に衰えていきますし、持病を抱えている人も多くなります。
高齢となった介護をする側の肉体的な負担がとても大きくなり、腰痛になったり身体を壊したりする可能性が高くなります。
我々介護士の代表的な職業病が「腰痛」なのです。
家庭でも同じような状態となり在宅介護の限界を迎えてしまいます。
また、介護する側が何らかの原因で入院することになった場合は、介護をする人がいなくなり「共倒れ」となってしまいます。
解決策としては「介護サービスの適切な利用をする」ということになります。
訪問や通所サービスを利用したり、短期入所のショートステイなどを利用することで、肉体的な負担を軽減することができます。
精神的な限界
在宅介護は孤独で社会からも孤立しがちです。
また「いつまでこの状態が続くのか」という先が見えない状態が、益々精神的に追い詰められる原因にもなります。
そんな日々が何年も繰り返されると、時として精神を病んでしまうこともあります。
解決策としては「介護サービスの適切な利用」と併せて「地域ケア会議」などで同じような悩みを持っている家族と情報交換や共有する場に参加するという方法があります。
情報交換や共有をすることで、精神的な負担が軽減されたり新しい知識や情報を得ることができます。
生活資金が不足する問題
介護される側の状態によって、24時間365日付きっきりの介護が必要な場合も多くあります。
常時付きっきりの介護が必要でなくとも、定期的に食事を提供したり排泄の介助をする必要があるでしょう。
どちらにしても、在宅介護をしていると介護する側は「フルタイムの仕事」をすることができません。
長時間、家を空けられないのです。
そうなると「収入が無い、又は、もの凄く少なくなる」ことになり「生活資金が不足」してしまうのです。
解決策としては「介護サービスの適切な利用」と併せて「介護休業や休暇等の制度を利用していく」ということになります。
国が打ち出している「介護離職を防ぐ政策」として、他にも助成金制度などもあるので必要に応じて適切な利用をすることで、利用しない時よりも生活資金を確保することができます。
介護施設の老老介護問題
在宅介護における老老介護の問題は大きな社会問題となったことで、様々な政策や対策が検討されていますが、2025年に向けて今後新たな問題となってくるのが「介護施設や介護事業所での老老介護」ではないでしょうか。
つまり、「介護職員の高齢化が進んでいる」のです。
この背景には「若者が介護職員になりたがらない」という現実があります。
若者が入ってこなければ、介護職員の平均年齢は高くなっていくばかりです。
既に介護現場では中年や高齢の介護職員ばかりではないでしょうか。
20代、30代の若者もチラホラ見掛けますが、割合としては少ない印象です。
また、若者だけで見るとその離職率も高いのではないでしょうか。
※厚生労働省が公表している「平成 29 年雇用動向調査結果の概況(PDF)」では「産業別」「年代別」の入職率や離職率の統計はありますが、「医療・福祉分野の年代別の入職率・離職率」までは確認できていません。
現状として以下のような問題があります。
問題①「若者に人気がない仕事」
介護の仕事は若者に人気がありません。
なりたい職業ランキングにノミネートされることもありません。
その詳しい理由は過去記事でも書きました。
問題②「介護現場の現実を世間が広く知っている」
介護現場の過酷さや将来性の現実について、世間の人も情報を得ることができる時代になりました。
口コミはもちろん、特に若者はSNSやブログなどのインターネットを通じて情報交換や情報共有が可能です。
業界にとっては「介護現場の現状を世間の人が認知していない方が若者を集めやすかった」のかもしれませんが、「現実をしっかり伝えていく」ことの方が大切ですし、そもそも「そういう隠蔽体質な業界に嫌気が差してしまう」という人も少なくありません。
問題③「人材不足により高齢の人が入職しやすい」
介護業界は人材不足により誰でも雇い入れます。
仕事が見つからない人にとってはありがたい仕事になるのかもしれませんが、それ故に「あえて若者が入職を敬遠する業界」になってしまっています。
50歳や60歳になってもフルタイムの正職員として入職できるのですから、極端な話、「それくらいの年齢になってから入職しても遅くない業界」だと言えます。
そうすると入職希望者の大半は「中年以上」の人になってきます。
「40歳代は若手」と言われる業界です。
問題④「高齢職員が定着しやすい環境」
職員の定着率が高いことは喜ばしいことですが、「高齢職員だけ」が定着しやすい環境に問題があります。
高齢になると体にガタがきますし、介護職員を長く続けていれば腰痛になるリスクも高くなります。
一見、そうなれば退職していくかと思われますが、現状の介護現場では人員不足が故に「業務を免除」されます。
利用者を抱える移乗や排泄、入浴介助であったり夜勤を免除されて働き続けることが可能です。
しかし、免除されている人ばかりでは現場が回らないので、その負担が若い職員に回ってきます。
ただでさえ人員不足で業務過多な状態なのに、高齢職員の業務まで押し付けられることで体を壊したり不満を募らせて辞めていくことになります。
高齢者のお世話は利用者だけで手一杯なのに、高齢職員のお世話までしなければならないのが介護現場の実情です。
2025年にはどうなる?
現状で介護現場にも、「高齢の職員が高齢の利用者を介護する」という老老介護問題があるわけですが、2025年になると現在「団塊の世代」の人達が後期高齢者(75歳以上)になります。
2019年現在で54歳の職員も2025年には60歳に到達します。
2025年以降は、介護施設等の介護事業所で「益々、老老介護が深刻化していく」ということが考えられます。
70歳を超えても元気な人は元気です。
現在でも70歳を超えても介護現場で働き続けている職員もいます。
80歳まで現役で働き続けるとしたら、「80歳の介護職員が70歳の利用者を介護する」という年代の逆転も考えられます。
高齢になった介護職員が認知症となり自覚のないまま働く「介護現場の認認介護問題」も出てくるかもしれません。
高齢職員が独居等で家族が本人の認知症に気づけない場合は「事業所が適切な判断をする」ことが求められます。
そして、若い世代の職員への業務負担は益々増えていくのではないでしょうか。
最後に
今回は「介護現場の老老介護問題」について記事を書きました。
このまま介護現場に若者世代が入職をしてこなければ、2025年以降は介護現場も老老介護となり様々な問題が発生してくることが予想されます。
まずは「若者が入職しやすい環境」を整備していくことが急務です。
「入職しやすい」とは敷居を益々下げることではありません。
「職場環境の整った将来性のある仕事」にしていかなければ人材不足が解消することはないでしょう。
そういった意味で「なりたい職業ランキング」の上位を飾れるような仕事になっていって欲しいと思います。