嘘をつく事は「騙す」というイメージがあるためいけない事のように捉えられがちですが、 介護をする中で嘘をついた方が結果として「上手くいく」という場面が多々あります。
特に認知症があり周辺症状で不穏な状態になっている場合などは、 正論や真実を突きつけるよりも「優しい嘘」でお茶を濁したり安心感を与えてあげる事で利用者もスタッフも幸せになれることもあります。
しかし中には、「絶対に嘘はよくない」「もっと利用者に寄り添い傾聴をして不安や困りごとやニーズを引き出すことで嘘をつかなくても対応できるはずだ」というようなことを言う人もいます。
今回は、介護現場では嘘も方便という考え方がありなのかなしなのかについて記事を書きたいと思います。
「介護現場での嘘も方便」あり?なし?
嘘も方便とは、物事を円滑に運んだりスムーズに進め目的を達成するためには便宜的な嘘も必要であるという意味です。
もちろん「嘘だらけの対応がいい」「常に誤魔化すだけのいい加減なケアでいい」と言っているわけではありません。
この場合、「嘘の目的」によってありかなしかを考えていく必要があります。
嘘の目的を見極める
「嘘は良くない」と言う場合の嘘の目的は、「相手を騙すこと」です。
要は、自分が利益を得るために相手に損失や損害を与える可能性がある場合の嘘は誰が考えても良くありません。
しかし、介護現場で使われる嘘の目的は、「相手を安心させること」です。
要は、自分にも相手にもメリットがあるのです。
「嘘は絶対にダメ」と言い切ってしまう人は、この嘘の目的を混同してしまっているのではないでしょうか。
介護現場の「優しい嘘の目的」をしっかりと見極めることができれば「利用者に対する嘘はあり」という結論が出るはずです。
嘘は寄り添っていない?
「嘘をつくのは誤魔化しでしかなく、利用者のニーズを引き出すなどの寄り添い方や介護技術が未熟だからだ」という言い分もあることでしょう。
介護現場では頻繁に「寄り添う」という言葉が出てきますが、この寄り添うという言葉は非常に抽象的で、具体的にはどういうことを指すのでしょうか。
例えば、
- 相手を受け入れて共感すること
- 相手と同じ目線に立って気持ちを理解すること
などが寄り添うことだとするならば、亡くなったご主人をまだ生きていると思い込んで探し回っている女性利用者がいた場合、どう受け入れて共感し気持ちを理解してあげることが良いでしょうか。
もちろん、利用者の状態や生活歴などによって対応は変わってくるでしょうが、まずは「真実を言わない」という選択をする介護職員が多いのではないでしょうか。
つまり、真実(お亡くなりになっていること)を知っているのに「ご主人はもうお亡くなりになっていますよ」ということは言わないことが既に嘘をついていることであり「消極的な嘘」だと言えます。
更には、「今ご主人はお仕事に行っておられるようですから帰ってこられるまでお茶でも飲んで待ってみてはいかがでしょう」などという言葉掛けをすることは「積極的な嘘」になります。
どちらも嘘をついていることになりますが、介護現場では相手を思いやった結果の必要な嘘と言えるのではないでしょうか。
ここで「自分の伴侶が亡くなったことを知らされないまま生きていくことは人権無視だ」「ご主人が亡くなっていることを伝えないことは尊厳を軽視している」という主張をする人も出てきたりします。
しかし、それは詭弁であり思慮不足です。
何故なら、益々不穏な状態になる可能性も高く、また、本人はご主人が亡くなっていることを既に知っている場合が多いからです。
つまり、
- わかってはいるが認知症のため忘れてしまった
- 過去の悲しい出来事を受け入れられない
- 自己防衛本能で敢えて思い出さないようにしている
という場合も往々にしてあるのです。
そういう状況も考えずに「嘘は絶対ダメ」「真実を伝えることこそが尊厳を守ることだ」と言えてしまうのは、自分のエゴを押し付けているだけなのです。
嘘をつくことは寄り添っていないのではなく、「寄り添うためには嘘も必要」なのではないでしょうか。
最後に
今回は、介護現場での嘘は有りなのか無しなのかということについて記事を書きました。
利用者に嘘ばかりついていればいいというわけではないことは介護職員であれば誰でもわかっています。
その上で、「嘘の目的や場面や状況」を考えた結果、利用者に対して優しい嘘をつくことも方便であり介護技術のひとつであると言えます。
この記事の結論は、「介護現場において嘘も方便はあり」ということになります。