介護施設などの介護サービスを利用する際は「共通健康診断書」という名の健康診断結果の提出が求められます。
その理由は
- 利用者の健康状態
- ケア上の留意点
- 利用者の感染症の有無
などを確認するためです。
特殊な医療処置や日常的な急性期の治療が必要な場合を除き、感染症に罹患していようが大体の場合は受け入れ可能です。
あくまで、利用者本人の状態の把握と、感染症がある場合はケアにける感染症対応をする為の情報であり、余程のことが無い限り受け入れを断られることはないはずです。
但し、感染症の中でも結核症状があり排菌状態にある場合は、介護事業所を利用している場合ではなく、専門機関での治療と感染拡大を防止する対応が必要な為、普通に考えて利用できません。
そういった感染症の中で、高齢者に意外に多いと感じるのが「C型肝炎」です(但し、厚労省の「高齢者施設における肝炎対策のガイドライン(PDF)」では、「高齢者ほどB型C型肝炎ウイルスの感染者の割合が高いとされている」としつつも、アンケートの調査結果から「高齢者施設でB型C型ともに肝炎ウイルスに持続感染している人は少数であることが伺える」とされています)。
C型肝炎ウイルスが陽性であっても介護サービスの利用は出来ますが、介護事業所としても感染症対策が必要になってきます。
今回は、高齢者にC型肝炎陽性の人が多い理由とケア上の注意点について記事を書きたいと思います。
C型肝炎について
まずは、「C型肝炎」について説明をしておきたいと思います。
C型肝炎とは
1. C型肝炎およびC型肝炎ウイルスとは
C型肝炎とはC型肝炎ウイルス(HCV)の感染により起こる肝臓の病気です。HCVに感染すると約70%の人が持続感染者となり、慢性肝炎、肝硬変、肝がんと進行する場合があります。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ予備能力が高く、自覚症状がないまま病気が進むことがあり、HCVの感染がわかれば、症状がなくても必ず詳しい検査(精密検査)をして、治療を含めて対処を検討する必要があります。
現在日本では約100万人程度のHCV感染者がいると考えられています。その中には感染がわかっていない人やわかっていても通院されていない人が多いのが現状です。慢性肝炎、肝硬変、肝がん患者の60%がHCV感染者であり、年間3万人が肝がんにより亡くなっているため、多くの人にC型肝炎についての正しい情報を知っていただくことが大切です。
【引用元】国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 肝炎情報センター
C型肝炎は「HCV」という表記をされます。
我々が常日頃受けている健康診断の血液検査にも「HCV」という項目があるかと思います。
その項目が「+(プラス)」となっていれば陽性(感染している可能性大)で、「-(マイナス)」となっていれば陰性(感染していない)ということになります。
当然、利用者の「共通健康診断書」にも同じ項目と表記があります。
C型肝炎の症状や治療方法などは割愛しますが、もし感染してしまい治療するとなると長期間掛かり治療費も高額となります。
治療を怠れば命にも関わってきます。
ですから、我々職員も含め、他利用者に感染させない対応が必要になってきます(但し、感染力はそれほど高くありません)。
感染経路
C型肝炎の感染経路の多くは「血液感染」になります。
他にも
- 母子感染
- 性行為
なども感染経路として考えられていますが「感染率は低い」とされています。
血液感染の多くは以下による感染が多いようです。
①針刺し事故
看護師等の医療従事者が、感染者に注射針を刺した後の針を処理する際に誤って自分に刺してしまうことで感染リスクが高まります。
②入れ墨やタトゥーを入れる
入れ墨やタトゥーは針を刺して入れていきますが、その針が滅菌されていない状態で使い回した場合に感染する可能性があります。
現在は、衛生管理がちゃんとできている場合が多く、針を一人一人使い捨てするような対応もされているので、感染リスクは昔よりは低くなっていると言われています。
しかし、全ての彫師や業者がそうとは限りませんので注意が必要です。
③ピアス針の使い回し
これも入れ墨やタトゥーと同じで、ピアス穴を開ける器具が十分に消毒滅菌されていないと、感染リスクが高まります。
日常生活では過度に恐れる必要はなし
「血液感染することは怖いこと」ですが、他人の血液を直接触るようなことが無い常識的な社会生活や日常生活では過度に恐れる必要はありません。
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などでは感染することはまずありませんのでご安心下さい。
高齢者にC型肝炎が多い理由とケア上の注意点
では次に、高齢者にC型肝炎陽性が多い理由とケア上の注意点を見ていきたいと思います。
高齢者にC型肝炎が多い理由
高齢者は入れ墨やピアスを入れている人はあまり見掛けないのに、何故結構な高確率でC型肝炎感染者がいるのでしょうか。
高齢者にC型肝炎陽性の人が多い理由として
「昔は医療機関でも注射針を使い回していた」
という理由が大きいかと思います。
それは一切、本人の責任ではありません。
普通に病院等に行って注射や採血をされるだけで、感染してしまう時代だったのです。
手術などで輸血を受けた際は、針からの感染だけでなく、他人の血液から感染してしまうこと(輸血後肝炎)もありました。
それだけウイルスや細菌等の衛生管理に無頓着な時代があり、そういった時代を過ごしてきた結果であると言えます。
余談「B型肝炎について」
これは余談になりますが、C型肝炎だけでなく、医療機関での注射針等の使い回しにより「B型肝炎」も問題になっています。
1.国は注射器の使い回しの危険性を知っていました
外国では1940年代から1950年代にかけて、すでに被接種者ごとの注射器の交換が推奨されるなどしていたほか、国内文献においても注射器の針や筒の連続使用によって血清肝炎(B型肝炎)へ感染する危険性が指摘されていました。
そのため国は遅くとも予防接種法が施行された1948年(昭和23年)ころまでには、注射器の使い回しによる血清肝炎(B型肝炎)感染の危険性を認識することができました。
しかし、実際に集団予防接種の現場においては長い間注射器の針や筒の交換が徹底されることはなく、B型肝炎感染被害の拡大は放置され続けました。
【引用元】全国B型肝炎訴訟北海道弁護団
この集団予防接種等での注射針の使い回しでB型肝炎ウイルスに感染してしまった人を対象にして、国(厚生労働省)が給付金という名目で賠償に動いていますが、国家賠償請求訴訟を提起して国との和解を得る必要があります。
尚、集団予防接種等を受けた期間は「昭和23年7月1日から昭和63年1月27日までの間に限る」とされています。
では何故、高齢者はB型肝炎ではなくC型肝炎が多いのかと言うと、B型肝炎の場合は「初めてウイルスに感染したのが思春期以降である場合、多くは一過性感染となるから」だと考えられます。
どちらにしても、「B型」「C型」であっても「高齢者の感染率が高い」というのは間違いがなさそうです。
ケア上の注意点
普通の日常生活では、C型肝炎が感染する恐れは低いのですが、介護現場では「利用者の血液を直接的に触る場面」があったりします。
例えば
等々 |
になります。
そういった血液に触れたり処置したりする時は、必ず使い捨ての手袋(グローブ)が必須です。
もちろん、こちら(介護者や処置者)の傷口や体内の血液にC型肝炎に感染している血液が直接触れることが無ければ、感染リスクはさほど高くないので過剰に恐れることはありません。
しかし、指先等に「ささくれ」や「さかむけ」があったり、「傷がある」場合は特に注意が必要です。
ですから、「介護職員にとって指先の傷は感染リスクを増大させる」と言えます。
以前、「アラフォーになると指先に傷が出来やすくなった」という記事を書きましたが、介護職員として働いている以上、本当に注意しなくてはなりません。
利用者にとっても、同じユニットやフロアにC型肝炎感染者がいた場合、出血している利用者同士の接触を避けるような対応が必要です。
例えば、「入浴の順番を考慮する」等になります。
感染している利用者に褥瘡や切り傷などで出血がある場合は、大変申し訳ないのですが入浴の順番を一番最後にするなどの配慮も必要です。
もちろん、その目的は「他の利用者への感染リスクを最小限に抑えるため」です。
以上のように、C型肝炎ウイルスのキャリアの利用者がいた場合、ケアにおいても様々な配慮や注意が必要となってくるのです。
最後に
今回は、「高齢者にC型肝炎キャリアの人が多い理由とケア上の注意点」について記事を書きました。
C型肝炎ウイルスのキャリアであっても、多くの高齢者は特に症状も無く治療もされていないのにお元気で過ごされている場合がほとんどです。
感染しても自覚症状がない「不顕性感染」の人が多く、一見して感染者だとは誰もわかりません。
だからこそ「共通健康診断書」を確認して、プライバシーや個人情報に配慮しながら情報を共有し、適切な対応を取ることが介護現場の最前線で働く介護職員の専門性だと言えます。