愛媛県今治市の介護老人福祉施設(併設のデイサービス)で送迎の際に80歳代の女性利用者を降ろし忘れて、21時間後に施設の敷地内で発見されたという介護事故の報道がありました。
利用者は自力で動ける人のようですし、現在のところ体調不良など無いとのことですので、その点は不幸中の幸いに思います。
今回は、この送迎での介護事件について考察していきたいと思います。
ニュース概要
施設職員が80代女性“降ろし忘れ” 車内に放置
デイサービスの送迎者に放置された80代の女性。21時間後に施設の敷地内で見つかりました。
老人福祉施設「阿育苑」・村上貴夫施設長:「地域の皆様、関係機関の皆様に深くおわび申し上げます」
愛媛県今治市の老人福祉施設「阿育苑」は3日、職員が利用者6人を車で送迎した際、80代の女性を降ろし忘れ、車内に放置しました。女性は自分で車を降りたとみられ、翌日、施設の敷地内を歩いているところを発見されました。約21時間が経過していましたが、体調不良などはなかったということです。施設側は「再発防止に努めたい」としています。
【出典】テレ朝news
介護事故考察
今回の送迎ミスによる介護事故について考察していきたいと思います。
施設長の発言に違和感
揚げ足を取るつもりも他意もないのですが、ニュース記事にもある通り(実際にニュース報道先の映像でも確認しました)施設長の発言が「地域の皆様、関係機関の皆様に深くおわび申し上げます」というものでした。
個人的には「まずは置き去りにされた利用者本人とその家族に対して謝罪の言葉を発するのが先なのでは?」と思ってしまいました(もちろん、既に直接的にはされているかとは思いますが)。
地域や関係機関の皆様へのお詫びや信頼回復も大切でしょうが、まずは本人です(仮に認知症等があって意思疎通が図れない人であっても)。
いや、私があまりにも穿った見方をしているだけで、マスコミが報道する段階で「部分的に切り取られてしまった可能性」も十分にあり得るので、特に気にする必要はないのかもしれませんが、私は少々気になってしまいました。
問題はワンオペ送迎
送迎を担当したのは40歳代の女性職員とのことでした。
社会福祉法人「大島福祉会」(今治市吉海町仁江)が運営する「デイサービスセンター 阿育苑(あしょかえん)」の40代女性職員が3日午後、認知症の80代の女性利用者を自宅に送り届け忘れ、入庫した送迎車内に置き去りにしていたことが13日、施設などへの取材で分かった。
【引用元】愛媛新聞
最終的に車内の確認を怠ってしまった「職員のヒューマンエラーの問題」となりますが、それ以前に「利用者6人の送迎を職員一人で行っている体制にも問題がある」と感じました。
今回の介護事故もワンオペ送迎でなければ発生確率は相当低かったのではないでしょうか。
運転手以外にもう1人職員を添乗員として配置することで、今回のような「利用者の降ろし忘れ」はまずあり得ません。
「2人の職員の目で確認」することが重要です。
6人の利用者が同乗していたということはキャラバン等の大きなワゴン車でしょうから、2人の職員を1台の送迎車に配置することで、「送迎中の利用者の見守りや状態確認や何かあった時の対応もスムーズ」にいきます。
当然ながら運転手は運転に集中する必要があります。
利用者に気を取られ交通事故を起こしてしまえば本末転倒です。
運転をしながら利用者の様子を確認したり、立ち上がりや何かあった場合などの対応全てを押し付けてしまうのは非常に酷ですし、負担も責任も重すぎます。
もちろん、だからと言って「降ろし忘れは仕方がない」とは言いかねますが、送迎車には「運転手と添乗員の2人体制」とすることでヒューマンエラーの発生を最小限に抑えることが出来ます。
人員不足の問題もあるでしょうが、是非「再発防止策に採用」してみては如何でしょうか。
急に送迎を頼まれることがある現実
介護老人福祉施設(特養)併設のデイサービスでの介護事故ですが、私の経験上、人員不足やイレギュラーなことが発生した場合「急に送迎を頼まれること」があります。
「急に」というのは送迎に出発する30分前や10分前です。
特養などで利用者が急変して普段と違う対応や人員が必要となったり、別の利用者の病院受診の送迎が急に入ってしまったり、職員の急な欠員が出てしまった場合などは、本来送迎に行くはずだった送迎担当者からピンチヒッターで送迎を依頼されることがあります。
それは介護士であったり生活相談員であったり事務員であったりします(つまり、どの職種であっても誰であっても送迎をすることはあり得ます)。
急なピンチヒッターを依頼された職員が、送迎をする利用者と普段から接していなければ、まず利用者の顔と名前が一致しません(介護士であっても併設事業所や他フロアや他ユニット等であればあまり接する機会がありません)。
もちろん、送迎先の自宅住所もわかっていません。
普通は利用者のことや自宅住所をある程度知っている職員を選ぶでしょうが、その判断がおかしかったり、そうできない状況が全くないとも限りません。
ただ「大きなワゴン車を運転することができる」「ワゴン車のリフトの操作ができる」という理由だけで白羽の矢が立つのです。
残された時間で、利用者の情報や住所などを精一杯調べたり頭に叩き込んだり地図をコピーしたりします。
もう慌ただしくて「てんやわんや」になります。
今回の送迎での介護事故の詳しい状況はわかりませんが、もし仮にこういった状況があったのだとすると「ひょっとしたら降ろし忘れてしまうこともあり得るのかな」とも思ってしまいます。
但し、仮にそうだったとしてもやはり「最終的な車内の確認は必要だった」のは間違いありません。
そもそも、車内に人影や存在が見えなかったのでしょうか(どちらにしても見落としたから発生してしまったのですが)。
もしこういった場合であっても「大きいワゴン車(又は利用者を4人以上乗せる場合等)で送迎する場合は職員を2人配置する」という取り決めやマニュアルがあれば防げた可能性が大きいと言えます。
気づいた家族は事業所には連絡しなかった?
送迎車からの降ろし忘れで放置され、21時間も発見されなかった利用者は「家族と同居していない一人暮らし高齢者」かと思っていたら、「家族は利用者本人が帰宅したと思ったが居ないために、周辺を捜索後に警察署にも連絡をしていた」とのことです。
家族は女性が帰宅したと思い、家の周辺を捜し、伯方署にも連絡していた。
【引用元】愛媛新聞
警察への連絡も大切ですが、「施設(デイサービス)」や「担当居宅ケアマネ(介護支援専門員)」にも連絡や報告をしていれば、もっと早い段階で発見できた可能性が高いです。
しかし、「確実に送迎して送り届けてもらっているはず」という思い込みや施設に対する信頼感も当然あったのでしょうから、致し方ない部分もあるかと思います。
もっと突っ込んで考えれば「この利用者は普段から知らぬ間に家から出て行ってしまうような行動があった人なのかな」という推察もできます。
最後に
今回は、愛媛県今治市の介護老人福祉施設併設のデイサービスで発生した送迎での介護事故について考察しました。
毎日酷暑が続いていますので、一歩間違えれば生命に関わる重大な事故です。
最大の原因は「職員のヒューマンエラー」ではありますが、「ワゴン車等で複数の利用者を一度に送迎する場合は職員を二人配置する」ということで再発はほぼ防止できると考えます。
その為には、やはり「人員の確保」が重要ですね。
コメント
返信ありがとうございます。
長々と書いてしまいますが、面倒だと思いますので読んでいただくだけでありがたいです。
障害福祉分野でもリスクを減らすという意味でも「対応が大変な利用者は受け入れない」傾向が出てきています。
反対に寝たきりのような場合は、障害支援区分も最高の6が出るので、介護系の施設は喜んで(?)受けられるようです。
障害者グループホームだと入居費用総額で最高8万5千円以内(障害年金)で収めようとする暗黙の了解がありますが、ある利用者は突然寝たきりになってしまい受け入れのできる障害者施設も障害者GHもなかったのですが、ある有料老人ホームでは受け入れていただけました。ただし、入居費用は月額20万円…!正直びっくりしたと同時に裕福な家庭しか入れないなあと。まあ、障害年金を1級として20歳から全く手つかずで残していて35歳になればおよそ1500万前後の貯蓄があるはずですから。ただし、10年程度で底をついてしまいますが…。
あ、ついいらんことを書いてしまいました。
Aさんがおしゃっていたように、介護職員含め福祉に携わる人間が団結してロビー活動や、団体を作るなどして訴えていかなければ地位や賃金も上がらないように思います。
正直なところ、矛先を法人や事業所に向ける前に、政策やそれを作っている政治家や役人に向けるべきだと思っています。
今の福祉職の人たちはよほど優しいのか、それとも甘んじて受け入れているのか、何も考えないバカなのかわかりませんが…。
私もあまり好きではないのですが、市議、県議、衆議、参議と関係を作っており、以前ある議員から「国に今ある問題を上げていくので、言ってください!!明日行きますから!!」とおっしゃっていただいたので、急いで資料を作成し一緒に福祉職員の人材不足対策をお願いしたのですが、その方は次の日ですかね、その時の話題であった待機児童問題と保育士不足について、「ママの味方」として高らかにテレビでぶち上げて、その後すぐにある党の政調会長(幹事長かも)になっておられました。ま、その後はガソリンと不倫報道で撃沈でしたが…。ついたあだ名がガソリーヌ・フリン…。
あんまり書くと所在がばれそうですのでこれくらいで…。
今は巷で「福祉業界の出会い」みたいなものもあるようですが、そんなことより本気で待遇改善を考えるなら団結して訴えていかないといつまでたっても変わらないように思います。
基本報酬が低いので、加算で何とかしようとするってのは、基本給与が低いので手当で何とかして基本給を基にした賞与で少しの穴埋めをする構図と似ていますね。
私も基本報酬を高くして、事務処理をもっと減らさないと(猥雑な加算申請業務)今後も良くならないと思いますし、もっと言えば公務員化すればよいと思っています。
国に決められた枠のあるお金の中でどれだけもがいてもその枠からは出れませんからね。
徒然と書き連ねて読み苦しいですね。すいません。つい愚痴ってしまいました。
またこれからもブログの掲載を楽しみにしております。まずは、過去分を読ませていただきますね。
>とある社会福祉法人の施設長兼理事さん
こんばんは~
ご返信ありがとうございます^^
私は障害福祉分野にはあまり詳しくないのですが、障害年金内で収めようとする暗黙の了解が興味深いですね。
どちらにしても、福祉事業所であれ介護職であれ、残念ながら1人の力や行動で出来ることは限られています。
団結が必須ではありますが、興味が無かったり現状を甘んじて受け入れてしまっていたり「そもそもどうすればいいのか」さえわからない介護職が少なからずいるのも事実です。
加算でばかり底上げされても非常に不安定ですから、給与ベースの底上げが必須ですね。
また、給与ベースだけでなく「昇給率」や「退職金」や「諸々の福利厚生」の水準を上げていかなければ本当にもろいべニア板の上に乗っている状態でしかありません。
介護福祉士資格者の公務員化はありだと思います(無資格者の介護職まで含めると現状でハードルの低さがあるために資質の担保が困難かと)。
貴重なご意見、また、ブログへのご訪問ありがとうございました^^
心より感謝申し上げます。
またいつでもおいで下さいませ。
初めまして、私は障害福祉(知的が主)に携わっており、この業界も24年目を迎えます。
ただ、長くやっていればいるほど、いろいろ思うところがあり、福祉や介護に関するサイトをよく観ております。
そんな中こちらのブログにたどり着きました。
はっきり言いまして、「ありがとうございます」という感じです。私が疑問に感じていることや、言いたくても、表立って言っていないことを書き綴っていただき、感謝しております。福祉の良い面、悪い面に関して非常にわかりやすく書かれているので、ほんとに感心しております。
福祉業界の「闇」と言えば言いすぎでしょうけれど、今引き起こされている問題や、あえて表に出てこないことを冷静に、実体験を持って書かれているのがよくわかります。
私もこういったことを書きたいとは思うのですが、正直文才もありませんし、どちらかというと暴言気味になってしまうので書けません…。
ですので、介護職員Aさんのブログを時折のぞかせていただきつつ、自分で発信できるところは発信していきたいと思っております。
ありがとございます。
>とある社会福祉法人の施設長兼理事さん
はじめまして、こんにちは~
コメントありがとうございます^^
長年福祉業界に携わり施設運営もされているのですね。
今露出している問題も山積みですし「あえて表に出てこない問題」が非常に闇深いと思っています。
「守秘義務」という大義名分によって覆い隠されている部分が多いため、なかなか情報発信しづらい風潮があるのも「ひとつの闇」ですね。
是非、とある社会福祉法人の施設長兼理事さんも色々な情報発信をされて下さい^^
大変うれしく思うお言葉を頂き、こちらこそありがとうございました^^