介護現場での珍しいニュースが流れてきました。
「グループホーム入所中の83歳の女性利用者が、入浴介助を受けている時に女性職員が着ていたパーカーの紐を引っ張り首を絞めたことで殺人未遂の疑いで逮捕された」というニュースです。
何が「珍しい」のかと言うと「利用者から職員への加害行為によって逮捕に至ったから」になります。
今まで、介護現場での事件の多くは、「職員が利用者や入所者に危害を加えた場合」が多く、反対に「利用者から職員に危害を加えた場合」のニュースは殆ど目にすることがありませんでした。
時々はそういうニュースもありましたが、利用者から職員への加害行為がニュースで流れる時には、3つの共通項がありました。
今回は「入所者が介護職員に犯罪行為を行い逮捕された事件」について記事を書きたいと思います。
利用者からの犯罪行為がニュースで報道される3つの共通項
利用者から職員への加害行為は、全国の介護事業所で大なり小なり毎日のように行われているのは間違いありません。
しかし、あまりにも多すぎて全てを報道できるわけではありませんし、そもそも
「利用者から危害を受けるのはケア方法が悪いからだ」
「利用者はお客様であり、支援が必要な人であるから、加害行為も受け入れる必要がある」
「加害行為を受けるのがイヤなら介護職員を辞めればいい」
などということが常識であるかのように言われてきた業界です。
ですから、内部的・組織的に「隠蔽」されているのです。
その中のごく僅かな「氷山の一角」がたまにニュースで報道されるのですが、報道される際の共通項が3つあるのでご紹介したいと思います。
共通項①「生命に関わる場合」
介護職員だって人間です。
危害行為を受けていいはずはありませんが、少々の怪我や器物損壊(備品や職員のメガネ等の破壊)は「概ね隠蔽」されます。
介護職員は現場ではそのような非人道的な扱いを日常的に受けていても、上司や事業所は守ってくれませんし、報道されることもありません。
しかし、「生命に関わる場合」は別です。
過去にも、入所者からハサミで胸を刺された介護職員のニュース報道もありました。
つまり、「日常的なパワハラや加害行為は仕方がないけど、生命に危険が生じたら報道してあげるね」というスタンスなのです。
共通項②「職員が反撃した場合」
大切なことなので何度も言いますが、介護職員だって人間です。
他者から危害を加えられたら防衛もしますし避難もします。
パン切り包丁を持って歩いている認知症者を介護職員が取り押さえた際に相手に怪我をさせてしまった、という報道も過去にありました。
「認知症者はパン切り包丁を持っていただけでまだ何もしていないではないか」
と思われるかもしれませんが、街中やレジャー施設などで同じ状況があったらどうなるでしょうか。
間違いなく、取り押さえられます。
「介護施設だから」と言っても、「介護施設は加害行為をする人の集合体ではないはず」です。
あくまで、「高齢者が集団生活をする場所」であり、「ひとつの社会的コミュニティ」なのです。
その社会的コミュニティに加害者や犯罪行為をする人がいていいはずはありません。
職員としても、職責を全うするために取り押さえたのでしょうが、この報道の肝は「取り押さえたら虐待認定をされたり傷害の疑いで逆に逮捕され、結果的に介護職員が悪い」という結論に持っていかれてしまったことです。
職員にとっては「刺せば監獄、刺されば地獄」の究極の二択しかないのが介護業界だと言えます。
共通項③「警察が介入した場合」
大なり小なり、介護現場の事件において「警察が介入すれば報道される確率が上がる」と言えます。
どの報道も警察が介入しています。
報道されるには「警察の介入が必須」だということになります。
逆に「警察が介入しないと報道されることはない」という点にも留意しておきたいところです。
ニュース概要
前置きが長くなってしまいましたが、今回のニュース報道に触れていこうと思います。
入浴介護中に…グループホームで入所者の83歳女が女性職員の首絞める 殺人未遂容疑で逮捕
愛知県あま市のグループホームで、2日午後、入所していた83歳の女が女性職員の首をしめ、ケガをさせたとして殺人未遂の疑いで逮捕されました。
逮捕されたのは、愛知県あま市の無職・水谷一枝容疑者(83)です。
水谷容疑者は2日午後3時10分頃、あま市七宝町の「グループホームきららあま七宝町」で、入浴中に介護をしていた女性職員(22)が着ていたパーカーのひもを引っ張り首を絞めた、殺人未遂の疑いが持たれています。
女性職員は駆けつけた救急隊員によって、病院に運ばれましたが、首を擦る軽傷です。
警察の調べに対し、水谷容疑者は「そうだね、体調が悪かった」などと話していますが、容疑の認否については不明だということです。
警察は犯行の動機や経緯などを詳しく調べています。
【引用元】東海テレビ
逮捕が当然?
女性介護職員は一時意識を失い、救急搬送されました。
法治国家である日本の介護現場では大なり小なり利用者から職員の加害行為は毎日のように発生しているのは間違いありません。
今回は、上記共通項の「①首を絞められ生命に関わる」「③救急・警察が介入した」ということで、報道されたのでしょう。
加害者の女性入所者はグループホームに入所しているということなので、認知症の程度は不明ですが認知症があるのは間違いありません(※)。
(※グループホームの入居条件は「認知症診断があること」となっています。軽度~中度の認知症高齢者が対象。)
逮捕され起訴されるためには「責任能力」が問われてくるかと思います。
責任能力(せきにんのうりょく)とは、一般的に、自らの行った行為について責任を負うことのできる能力をいう。
刑法においては、事物の是非・善悪を弁別し、かつそれに従って行動する能力をいう。また、民法では、不法行為上の責任を判断しうる能力をいう。
【引用元】ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%AC%E4%BB%BB%E8%83%BD%E5%8A%9B
認知症でもない人が、介護職員のパーカーの紐を引っ張り首を絞めるなんて普通に考えてあり得ないことです。
認知症者であれば、責任能力が無いと判断され、「不起訴」となってしまう可能性があります。
行為自体は「逮捕が妥当な犯罪行為」なのは間違いありませんが、法治国家の下、介護現場では「責任能力の有無やお客様扱いによって利用者が優遇されている」という実情があります。
だからと言って、お客様でも犯罪行為はしてはなりませんし、介護職員の基本的人権や他者から危害を加えられない権利が侵害されていいはずはありません。
そこを見失うと「片手落ち」になります。
行為自体は「逮捕が当然」なのですが、仮に不起訴になったとしても「介護職員の人権をおざなりにしない」対応が必要なのです。
大切なのは「陽の目を見る」こと
「起訴できるか、できないか」という問題は検察や司法に任せるにしても、ここで一番大切なのは
「同じような出来事が今日も全国の介護施設で起こっていて、それらが報道されるどころか隠蔽されていること」
になります。
救急車を呼ぶようなことになることは稀にしても、利用者からの加害行為や殺人未遂事件は介護現場では日常茶飯事です。
そういった「現状をもっと広く世間に知ってもらい、介護職員の人権を考えてもらいたい」ということが一番私が伝えたいことになります。
その為にも、「生命の危機に陥る前にもっとニュースで報道して行って欲しい」と思う次第です。
大切なのは、「全国各地の排他的で隠蔽体質な介護現場が陽の目を見ること」になります。
最後に
今回の事件で介護職員側にひとつ疑問に思うのは「何故、女性介護職員は入浴介助でパーカーを着ていたんだろう」ということくらいでしょうか。
別にパーカーであろうとそうでなかろうと、他人の首を絞めることはあってはなりませんが、私自身が今までパーカーを着て入浴介助をしている職員を見たことが無かったので、少し疑問に思いました。
入所者に首を絞められ意識を失い救急搬送された女性介護職員のアフターケアも心配です。
この被害職員がもし、あなたの子供や孫や兄弟姉妹や身内だったらどう思うでしょうか。
このような危険な上に薄給で何の保障もない仕事が日本には存在しているのです。
まずは「介護現場の実情を世間に広め知ってもらう」という作業が必要不可欠だと思います。
もちろん、そうすることで「職員から利用者への加害行為等の介護現場の事件の解決」にも寄与できるでしょう。
排他的で隠蔽体質な介護業界が陽の目を見れるように、もっとメスで切り刻んでいき、バラ売りでも良いのでニュースで報道されていって欲しいと思います。
大切な事なので最後にもう一度、言わせて頂きます。
「介護職員も人間なのです」