インフルエンザの施設内集団感染を防ぐには初期段階の「生贄対応」が重要

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徐々に残暑も和らぎ過ごしやすい気候になってきました。

これから冬に向けてインフルエンザが流行しやすい季節になります。

昨年(2018年から2019年にかけてのインフルエンザシーズン)は、インフルエンザが猛威をふるい全国各地の介護施設での施設内の集団感染のニュース報道が相次いだのは記憶に新しいかと思います。

今回は、インフルエンザの施設内集団感染を防ぐには初期段階の「生贄対応」が重要であるということについて記事を書きたいと思います。

施設内の集団感染を防ぐための「生贄対応」とは

介護施設において、インフルエンザが流行してしまう原因は沢山ありますが、最大の原因は「職員又は利用者の誰か1人が罹患してしまう」ことで始まります。

職員の場合は、プライベートな時間にどこかで誰かから感染してしまい、そのことに気づかずに職場(介護施設)に出勤することで施設内にインフルエンザウイルスを持ち込むことになります。

利用者の場合は、多くの場合が施設内でしか生活をしていないために、感染経路としては面会者(家族等)が感染していることに気づかぬまま面会することで、利用者に感染してしまうことになります。

「感染に気付かない」というのは、インフルエンザは潜伏期間が1日~3日ほどあるために、高熱等のインフルエンザ特有の症状が現れないその期間に「自分がインフルエンザに感染していることに気づかないまま普段通り社会活動をしたり日常生活を送ってしまう」という意味になります。

インフルエンザ特有の症状が無い(又はごく軽度)潜伏期間でも「感染力」があるために、知らず知らずのうちに他の誰かに感染させてしまうことでインフルエンザが流行してしまうのです。

職員が罹患してしまった場合は「出勤停止」などを行い、軽快するまで休んでもらう判断が最重要です。

問題は、利用者が罹患してしまった場合ですが、入所を停止することはできないのでそのまま介護施設で療養しながら生活することになります。

共同生活の場に罹患者がいるわけですから、集団感染のリスクは高くなります。

では、施設内の集団感染を防ぐためにはどうすればいいのでしょうか。

常に人員不足の介護現場ですから、「これ以上職員が減ってもらったら困る」ということにやっと気づき出した事業所や上司もいるのではないかと...

まずは隔離対応

利用者(入所者)がインフルエンザに罹患してしまった場合、殆どの介護施設では「隔離対応」をするかと思います。

隔離対応とは、1日中居室内で生活をしてもらい、居室外に極力ウイルスを持ち出さず他者との接触もしないような対応をすることです。

しかし、問題点が2つあります。

  1. 認知症のために意思疎通が図れない徘徊利用者の場合
  2. 介護や介助のために介護職員は接触しなければならない

という問題です。

1.徘徊利用者の問題

徘徊するような利用者でなければ問題はありませんが、日常的に徘徊する利用者の場合、「自分がインフルエンザに罹患している」ということも認識できないため、高熱があろうがインフルエンザであろうが関係なく居室から出て来ます。

職員がその都度対応することになりますが、対応をするたびに利用者に接触することになり感染リスクが高くなります。

また、何度も出て来ようとするために、その利用者の対応だけに手を取られてしまって通常の業務ができなくなり、他の利用者に迷惑を掛けてしまう可能性も高くなります。

気づかないうちに居室から出て行ってしまい徘徊することで、ウイルスをまき散らすことにもなり集団感染のリスクも高くなります。

高熱等の症状があっても徘徊することで転倒のリスクも高くなります。

2.介護や介助のために何度も接触

徘徊しない利用者であっても、日常生活上の介護や介助が必要なので、介護職員は適宜訪室することになります。

  • 様子確認
  • 食事の提供
  • 排泄介助
  • バイタル測定

などのために利用者に接触することになるので、職員への感染リスクが高まります。

もちろん、訪室のたびに

  • マスクのつけ替え
  • 使い捨て手袋の着用
  • 履物の履き替え
  • 防護エプロン着用
  • 消毒
  • 手洗い
  • うがい

を行うことになりますが、相当な手間であるのは間違いありませんし、そもそもそれでも感染リスクの余地は十分にあります。

施設内の集団感染の原因の多くは「職員が媒介」してしまっているということは間違いないでしょう。

初期段階の「生贄対応」が重要

やっとここからが本題になります。

施設内の集団感染を防ぐ為には、初期段階の「生贄対応」が重要です。

罹患者が1人出た段階(初期段階)で、「それ以上絶対に感染を拡大させない対応」が必要になってきます。

その為に、言葉は悪いですが「職員1人を生贄として1日中罹患している利用者の対応だけをしてもらう(マンツーマン対応)」という対応方法です。

そして、その職員は極力他の利用者や職員とは接触しないようにします。

これであれば、仮に罹患者が徘徊利用者であっても対応可能になります。

この「生贄対応」をインフルエンザ罹患者が軽快するまで続けることで、施設内の集団感染のリスクを最小限に抑えることが可能になります。

しかし、この生贄対応には3つの問題があります。

1.誰もやりたくない

介護職員であっても「確実に感染力の高いウイルスの中に飛び込んで業務を行う」ということには抵抗があります。

自分が感染してしまう可能性が相当高くなるわけですから「生贄」なのです。

自分が感染してしまうと、仕事を休まなくてはならなくなりますし、家に帰って家族に感染させてしまう可能性もあります。

ですから、多くの場合「誰も生贄にはなりたくない」のです。

しかし、誰かが生贄にならなければ、初期段階でのウイルス封じ込めに失敗してしまいます。

感染拡大のリスクを減らすために「独り暮らしの独身職員」に白羽の矢が立ちやすいと言えます。

2.人員不足で生贄対応ができない

生贄対応をするには、罹患利用者と生贄職員がマンツーマンとなります。

生贄職員は、他の利用者と接触したり介助などの対応をしては生贄になった意味がないので出来ません。

しかし、人員不足の介護施設では、この「マンツーマン対応をしていたら業務が回らない」という問題があります。

つまり、生贄職員を作ってしまうと他の利用者の対応をする介護職員が居ない(又は足りない)ために、現場が回らず生贄対応を断念せざるを得ないということになってしまいます。

そうなると、インフルエンザ罹患者に対する初動が甘くなってしまい、結果的には集団感染となり「余計に地獄絵図になってしまう」という悪循環に陥ってしまいます。

人員不足の介護施設では、初動の選択肢も少なくなってしまい詰めが甘く、集団感染を引き起こしやすいと言えます。

3.ワンオペ夜勤では生贄対応ができない

ワンオペ夜勤は「職員1人で多数の利用者の介護を行う夜勤」のことです。

夜勤者が1人しか居ない時点で、マンツーマン対応や生贄対応は不可能です。

罹患している利用者の対応を行った後に、他の利用者の対応も行わなくてはなりません。

インフルエンザ罹患者が出てもなお、ワンオペ夜勤体制を継続する以上、生贄対応ができず集団感染のリスクが排除できません。

人員さえ不足していなければ、罹患者が軽快するまでは「プラスの夜勤者」を配置するような対応が必要です。

しかし、多くの介護施設は人員不足であることが多く、プラスの夜勤者も配置できず生贄対応も出来ず、結局はそこで防波堤が崩れてしまうことになります。

抗インフル薬の有効活用を(※予防接種のことではないです)

抗インフルエンザ薬(タミフル等)には、インフルエンザに罹患した場合に効果が期待できますが、実は予防効果もあります。

昨年のニュース報道で介護施設での集団感染が後手になってしまったのは「職員が媒介した可能性」と「初動での抗インフル薬の予防投与の遅れ」という内容のものもありました。

インフル集団感染、職員が媒介? 淡路の施設

同事務所の立ち入り調査を受け、施設は11日にまだ発症していない職員に抗インフル薬を予防投与した。一方で入所者への予防投薬は行わず、12日に新たな発症は20人へ拡大した。

県の再指導を受け、施設が入所者への予防投薬に踏み切ったのは1週間後の19日。その後、感染拡大は収束に向かった。

【引用元】神戸新聞NEXT

抗インフル薬はインフルエンザウイルスの増殖を抑える効果があるため、感染していない段階で予防薬として服薬すると、仮にウイルスが体内に入ってきても増殖しないために発症を予防できるのです。

しかし、抗インフル薬を予防投与する場合には、「保険適用外(自費)」となる上に、原則として

  1. 家族など同居する人がインフルエンザにかかっていること
  2. 1に加えて、かかった場合に重症になりやすい人であること

とされています。

この抗インフル薬を予防として「罹患者が発生した場合の初期段階」で職員や利用者にも効果的に投与(処方)していくことが出来れば、施設内の集団感染が未然に防げます。

しかし、何故か現状では「集団感染が収まらずにもう手の打ちようが無い」というところまで行って初めて投与されているために、実情に沿ってもっと早い段階で予防投与を有効活用できるようにしていって欲しいところです。

初期段階で、利用者や介護職員等に対して抗インフル薬の予防投与が可能であれば「生贄対応をする職員の感染リスクも低減」することができますし、人員不足で生贄対応ができない介護施設であってもウイルスを職員が媒介するリスクが低減するので集団感染を防ぐことが可能になります。

インフルエンザの施設内の集団感染を防ぐためには「初期段階で抑え込む」ということがとても重要なのです。

最後に

今回は、インフルエンザの施設内集団感染を防ぐためには初期段階の「生贄対応」が重要であるということについて記事を書きました。

マスクや手袋や消毒などの徹底対応も大切ですが、目に見えないウイルスが相手だと共同生活の場では「気休め程度」と言えます(一人でも徹底していないと総崩れしますし)。

介護施設において、インフルエンザの集団感染を防ぐためには「初動の生贄対応」と「抗インフル薬の予防投与」が重要です。

もっと言えば、生贄対応よりも「初期段階での抗インフル薬の予防投与」が最強ではないでしょうか(生贄職員にだけ最初から予防投与するという選択肢もありかと思います)。

集団感染を防止し早期に収束できる策があるのですから、抗インフル薬の「備蓄量」や「お金の問題」もあるのでしょうが、介護現場の実情に沿った効果的な対策をしていって欲しいと思います。

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