介護現場には「見守り」という業務があります。
入職して間もない新人職員や応援に来た職員にやってもらうことの代表的な業務になるのではないかと思います。
何故かというと、利用者のことをよく知らない状態で
- 食事介助
- 入浴介助
- 排泄介助
などの直接的な介助は介護技術も必要となるので「職員にとっても利用者にとっても負担」となりリスクにも繋がりかねないためです。
一時的、スポット的又は不慣れな職員の場合は、そういった理由で
「見守りをお願いします」
と依頼をすることが多いのです。
もっと言えば、見守りは
- 他の介助より楽
- 他の介助よりやりやすい
- 介護業務のスタートライン
という認識があるものと感じています。
しかし介護現場で働いていると「見守りって意外と難しい」「結構奥が深い」と感じることがあったので、今回はそのことについて記事を書きたいと思います。
介護現場の見守りとは?
見守りとは
見守ること。気をつけて見ること。特に、子供や高齢者に対し、安全な状態にあるかどうかについて注意をはらうこと。
【引用元】コトバンク デジタル大辞泉
という意味です。
「注意をはらう」ということが抽象的であるために介護現場の見守りは「とても難しくて奥が深い」のです。
①利用者のことを知っておく必要がある
見守りは「利用者のことを知らなくても、状態を把握していなくてもできる業務」という印象がありますが、実際は利用者のことも状態も把握しておかなければ正常な見守りはできません。
「どういう見守りをして、どういう対応をしなければなければならないか」ということについては、依頼する前に具体的に補足したり説明したり言及しておく必要があります。
例えば
「Aさんという利用者が立ちあがったら声掛けして訴えを聞いて、トイレだったら誘導して下さい」
「Bさんという利用者が立ちあがったら、転倒の危険があるので介助をするか他職員を呼んで下さい」
「Cさんはほぼ自立されているので、歩き出されたら居場所の確認だけして下さい」
などを事前に伝えておきます。
見守りの対象者である利用者ひとりひとりの状態とこういう時はどういう対応をして欲しいかを伝えずに「見守りをお願いします」とだけお願いして暫くすると「あれ、Bさんがいない!」ということがありました。
見守りをしていた職員に確認をすると
「注意深く見守りをしていたところ、Bさんは先程ご自分で歩いてお部屋へ戻られました」
という報告を受けたりします。
急いでBさんの居室を確認すると「転倒していた」ということもあり得るのです。
これでは何のための「見守り」なのかわかりません。
- 利用者個々の対応方法を伝えていなかった見守りを依頼した職員
- 利用者の対応を知らなかった見守りを依頼された職員
両方のミスだと言えます。
介護現場の見守りとは「目の届く範囲で何かあったら対応や支援を行うもの」なのですが、大切なのは
「利用者個々の状態を事前に知っておく」
「立ち上がっただけでも対応が必要な場合がある」
という具体的な情報と支援が必要だということになります。
②監視になりがち
介護現場の見守りは「具体的な対応が必要」になってくるので、過度に干渉したり極端な対応をしてしまい「見守りではなく監視」になってしまう時があります。
「見守り」という意味の中には「監視」という意味も含まれているので、定義上は間違ってはいませんが、介護業界では利用者の尊厳だとかプライバシーを特に重んじているので「監視はよくない」という言葉狩りをされているようにも感じます。
但し、確かに過度な対応をしている人も中にはいます。
「立たずに座ってて下さい」
「どこに行くの?そっちは行かないで」
「やめて、そんなことはしないで」
というような否定や拒否的な言葉で利用者を制すると監視のようになってしまいますし、利用者も不穏になりかねません。
もちろん、その言葉の目的は「利用者の安全を確保するため」ではあるのですが、言葉遣いや対応方法で印象は全く変わってきます。
「どちらに行かれますか?ご案内しましょうか?」
「そちらは暗くなっているのでこちらでお話をお伺いしますよ」
「他の職員を呼びますので、少々お待ち下さいね」
という言い方をすれば相手や周囲に与える印象も違ってきます。
そもそも、介護現場は「監視のオンパレード」です。
見守りや付き添いや介助が必要な利用者にはトイレ内でも同室します。
介護者が見ている前で排泄をするのです。
自分だったら「他人が見ている前で排泄なんて絶対にムリ!」と思うのですが、介護現場では安全確保の為に当たり前のように行われています。
ただ安易に「監視」という言葉を狩る前に現場の現状を知る必要があります。
③一人の職員が多人数の利用者を見守る
学童などの見守りも同じような状況で、一人の見守りスタッフが多くの学童を見守っているのですが、介護現場の場合は具体的直接的に対応する頻度が違ってきます。
利用者が立ち上がっただけで対応が必要になることも多いので、同時に数名の利用者の対応が必要になる時が多々あります。
利用者の状態や行動を把握しているベテラン職員なら、瞬時に対応する優先順位を頭の中で整理し順次(若しくは同時)に対応可能です。
しかし、不慣れな職員や利用者の状態を把握できていない職員の場合は、対応に苦慮することになるでしょう。
すぐに他職員を呼んでヘルプを求めます。
自分一人で対応不可能なことは、無理をせず他職員を呼ぶ対応で間違ってはいないのですが
「何回も呼ばれると呼ばれた職員が他の業務をできない」
「何度も呼ばれるくらいなら自分が見守りをした方がマシ」
ということになってしまいます。
「介護現場の見守りは簡単で誰でもできる業務ではない」のです。
介護現場の見守りは一人で多数の利用者の対応をしなければならなくなる状況が発生する可能性があるため「介護の総合力が試される業務」だと言えます。
最後に
今回は「介護現場の見守りは結構奥が深い」ということについて記事を書きました。
見守り業務を介護の導入的初歩的な業務だと思っている人もいるかもしれませんが、そういう人はひょっとしたら見守りを依頼する人のことを「見守りセンサー的な存在」にしか思っていない可能性もあります。
それはそれで問題なのですが、利用者の安全確保という責任を負っている以上、ある程度の対応をしてもらわないと「それこそ本当に見守りセンサーを導入すればいいのでは?」ということになりかねません。
ただ立って見ているだけや眺めているだけではなく、直接的具体的な対応が必要になりますし、言葉遣いや対応方法にも配慮が必要です。
介護現場の見守りは、「危険を事前に察知して回避」したり、「コミュニケーションを取りながら利用者を安心」させたり、「顔色や状態や行動を観察することで異常の早期発見」を行うという介護の総合力が必要な大切な業務になります。