先日より、介護付き有料老人ホームで発生した事件が連日報道されています。
当ブログでもその事件について記事を書きました。
実は、約1年半前にも、似たような介護事件がありました。
2017年11月に報道されたものなので、古い情報が含まれているかもしれませんが、「東京都の介護付き有料老人ホームの元職員が、当時83歳の入所者を殺害し逮捕された」という事件です。
今回は、このニチイの介護事件と先日のサニーライフの介護事件の共通点に触れながら、その内容について考察していきたいと思います。
ニュース概要
「布団何度も汚された」 ニチイ入所者殺害容疑の元職員
東京都中野区白鷺1丁目の介護付き有料老人ホーム「ニチイホーム鷺ノ宮」で、入所者の男性(当時83)を殺害したとして、警視庁は14日、ホームの元職員で別の障害者支援施設職員の皆川久容疑者(25)=東京都杉並区方南2丁目=を殺人の疑いで逮捕し、発表した。
「布団を何回も汚され、いい加減にしろと思ってやった」と述べ、容疑を認めているという。
捜査1課によると、皆川容疑者は8月22日早朝、ホーム1階浴室で入所者の藤沢皖(かん)さんを空の浴槽に投げ入れ、お湯を張って沈めて殺害した疑いがある。司法解剖の結果、死因は溺死(できし)で、首には絞められたような痕があった。
同課は、難病があり日常的に介護が必要な藤沢さんが浴槽内で自力で体を動かして顔を湯につける可能性は極めて低いと判断。首付近の骨も折れていたことから、殺人事件として捜査していた。当時、皆川容疑者ら職員2人が当直勤務中だったが、もう一人の職員は別の階から移動した形跡がなかったという。
皆川容疑者は藤沢さんが入居する3階と1階を担当。調べに対し、8月21日午後10時~22日午前4時ごろの間に計3回、藤沢さんが布団を汚したと説明し「いい加減にしろよと思いベッドで一度首を絞めた」と供述。「その後、シャワーを浴びさせるために車いすで浴室へ移動させたが浴室内も汚したので、腹が立って浴槽に投げ入れた」と話しているという。皆川容疑者がもう一人の職員を通じ、同日午前4時47分に119番通報していた。
【引用元】朝日新聞社
事件の共通点
今回取り上げたのは「ニチイ」の事件で、先日は「サニーライフ」の事件です。
この2つの事件には共通点が沢山あります。
共通点①「東京都」
介護施設の所在地が両方とも東京都です。
しかしこれは「たまたま」「偶然」ですが、「奇遇」とも言えます。
共通点②「介護付き有料老人ホーム」
施設形態が両方とも介護付き有料老人ホームでした。
介護付き有料老人ホームは主に民間企業が運営する入所条件が比較的緩めの介護施設です。
詳しくは下記の記事に書いています。
これもたまたま偶然でしょうが共通点のひとつです。
共通点③「容疑者が20代の男性職員、被害者が80代の男性入所者」
両方の事件とも、容疑者が20歳代の男性(元)職員です。
被害者も当時80歳代の男性入所者です。
入所者が80歳代なのは高齢者施設なのですから確率的にもあり得る偶然ですが、「20歳代の男性職員」「男性入所者」が絡んだ介護事件は他にも頻繁に目にした印象があります。
共通点④「被害入所者は日常的に介護が必要だった」
両方の事件とも、被害入所者は常に付き添いが必要だったり、日常的な介護が必要な状態でした。
そういう状態の入所者がいる場合には、施設側が人員配置を増やすなどの配慮があれば事件にならなかった可能性については何度も言われてきていますが、相変わらず変わっていないようです。
共通点⑤「夜間帯、マンツーマン対応での出来事」
両方の事件とも「夜間帯」「マンツーマン対応」での出来事です。
この2つが揃った介護事件が多いように感じています。
共通点⑥「殺人容疑」
両方の事件とも、入所者がお亡くなりになり、男性職員は殺人容疑で逮捕されています。
傷害致死との違いは「殺意を持って起こした行動かどうか」という点です。
「殺意」が渦巻く介護現場は異常な世界だと言えます。
共通点⑦「自分で119番通報」
ニチイの事件では「もう一人の職員を通じて」とありますが、容疑者自身が救急要請が必要だと判断したからでしょう。
サニーライフの事件では、自ら救急要請しています。
行動も似ていますが、恐らくこの時の両者の心理も同じような感情だったのではないでしょうか。
事件考察
ニチイの事件とサニーライフの事件は多くの共通点があることがわかりました。
では次に、ニチイの事件をもっと掘り下げて考えてみたいと思います。
「なにで」布団を汚したのか
一体「なにで」布団を汚したのでしょうか。
ニュースには詳細が書かれていませんが、恐らく「大便」だと推測します。
「浴室内も汚された」という記述から、「小便」は浴室内であれば流してしまえば「汚れ」としては目に見えにくいですし、夜間に浴室まで誘導してまで「汚れ」を洗い流そうとしたのだから、やはり「大便」が濃厚です。
嘔吐での「吐物」の可能性もありますが、「何度も」という記述があるので違うでしょう。
何度も嘔吐をしているなら、医療機関へ繋ぐべき「異常」だからです。
自傷行為での「血液汚染」の可能性もありますが、それならニュースに記述があるかと思います。
上記理由により、「何度も大便で布団を汚された」から殺害に至ったのではないでしょうか。
何故「何度も」汚したのか
何故、殺害された入所者は「何度も」大便で布団を汚したのでしょうか?
【考えられる可能性】
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弄便とは読んで字の如く、大便を弄(もてあそ)びます。
口に入れれば「異食」になりますが、そうでなくても、顔や服や布団やベッド柵など、至るところに大便を塗りたくります。
当然大便なので臭いですし、その茶色いものが至るところに塗りたくられている光景は、正に「地獄絵図」です。
その地獄絵図が「何度も」あったとしたら、 そしてその状態を「何度も1人の職員で処理しなければならない」としたら、誰でも「絶望」を感じてしまいます。
また、下剤を服用していた場合、その排泄物は軟便の場合もありますが、多くは水様の液体に近いシャバシャバ状態の便になります。
パッドやオムツの隙間から漏れ出しますし、衣服や布団やシーツの繊維の間にも入り込み、その物体は難なく貫通していきます。
その状態が「何度も」あったら、確かに参ってしまいます。
布団に防水性のラバーシーツを敷いたり、パッドの当て方を工夫することで、ある程度は防げます。
また、下剤を服用するなら服用する時間を調整するのも入所者のためであり、夜勤者のためでもあります。
ニュースの記述から読み取ると、 被害入所者が 「布団を汚してしまった」 と容疑者の職員に伝えていることから、 弄便ではないような印象を受けました。
たまたま便が弛かったというだけなのかもしれません。
介護の仕事は人間の本性が出る
何がどう転んでも、誰であっても、どういう理由があっても、人に手を出してはいけませんし、法律に抵触する行為はしてはいけません。
しかし、介護士のそういった犯罪が後を絶ちません。
その理由のひとつとして、「介護現場では人間としてのキャパシティを超えてしまう環境がある」のです。
劣悪な環境と待遇で、極限の業務を強いられます。
また、「入所者や利用者の犯罪行為は許される」という異常な世界なのですから尚更常識を見失いがちです。
自分のキャパシティを超えた状態に追い込まれると、人間の本性が出ます。
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介護現場では、そういう本性露わな人達が集まって仕事をしているので必然的にギスギスした人間関係や労働環境になります。
人間のキャパシティを試されるのが「介護現場」と言えます。
キャパシティを超えない環境づくり
「介護現場では人間のキャパシティが試される」と書きましたが、多くの介護職員は人間として普通以上のキャパシティを持っています。
そうでなければ介護職員など勤まりません。
今必要なのは、介護職員のキャパシティや自己犠牲に頼った体制を変えていくことです。
普通の人でもキャパシティを超えてしまうような現実があることは肝に銘じておく必要があります。
そしてそうなってしまった場合、大抵の人は「辞めていく」のです。
こういった事件に発展するような事はあってはなりませんが、現状での選択肢が
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という2つしかないのです。
犯罪行為をするわけにはいかないので介護職員を辞めていく人が後を絶ちません。
そうなるとまた人員不足となり、介護現場での負担が増えます。
負担が増えれば、「益々人間としてのキャパシティを超えやすい環境に拍車が掛かる」という悪循環が起こっています。
ですから、今介護現場に必要なのは「キャパシティを超えない環境づくり」なのです。
そういった環境が作られないままであれば、今後もキャパシティを超えてしまった本性露な介護士が新たなニュースに登場することでしょう。
最後に
今回は、2017年11月に報道されたニチイの介護事件の考察と、先日(2019年5月22日)報道されたサニーライフの介護事件の共通点について記事を書きました。
両者はとても多くの共通点がありました。
また、事件が発生した背景にあるものも「業務負担」「業務上のストレス」であることは間違いありませんし、介護現場ではキャパシティを超えない環境づくりが急務ではないでしょうか。
人に手を出したり、暴言や暴力、ましてや人をあやめるようなことは絶対に許されません。
そんなことは皆がわかっているからこそ「辞めていく職員」が多いのが現実です。
事業所単位での対応や環境づくりが難しい実情であるのなら、業界全体で立て直していく必要があります。