「地裁が泣いた」京都の介護殺人事件の結末は?

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今回は、2006年に京都で起こった在宅介護での殺人事件の話に触れようかと思います。

有名なニュースなので知っている人も多いかと思います。

認知症になってしまった母親との在宅介護に行き詰ってしまった末に、母親とともに心中しようとしたのですが、息子だけ生き残ってしまったという事件です。

事件の概要と、判決、そして刑が確定したあとの息子の人生について書いていきたいと思います。

事件の概要

一家は両親と息子の3人家族だった。

1995年、父親が病死後、母親が認知症を発症。症状は徐々に進み、10年後には週の3~4日は夜間に寝付かなくなり、徘徊して警察に保護されるようにもなった。

長男はどうにか続けていた仕事も休職して介護にあたり、収入が無くなったことから生活保護を申請したが、「休職」を理由に認められなかった。

母親の症状がさらに進み、止む無く退職。再度の生活保護の相談も失業保険を理由に受け入れられなかった。

母親の介護サービスの利用料や生活費も切り詰めたが、カードローンを利用してもアパートの家賃などが払えなくなった。

長男は母親との心中を考えるようになる。

そして2006年真冬のその日、手元のわずかな小銭を使ってコンビニでいつものパンとジュースを購入。

母親との最後の食事を済ませ、思い出のある場所を見せておこうと母親の車椅子を押しながら河原町界隈を歩く。

やがて死に場所を探して河川敷へと向かった。

「もう生きられへんのやで。ここで終わりや」

という息子の力ない声に、母親は「そうか、あかんのか」とつぶやく。

そして「一緒やで。お前と一緒や」と言うと、傍ですすり泣く息子にさらに続けて語った。

「こっちに来い。お前はわしの子や。わしがやったる」。

その言葉で心を決めた長男は、母親の首を絞めるなどで殺害。

自分も包丁で自らを切りつけて、さらに近くの木で首を吊ろうと、巻きつけたロープがほどけてしまったところで意識を失った。

それから約2時間後の午前8時ごろ、通行人が2人を発見し、長男だけが命を取り留めた。

京都地裁は2006年7月、長男に懲役2年6月、執行猶予3年(求刑は懲役3年)を言い渡した。

裁判では検察官が、長男が献身的な介護を続けながら、金銭的に追い詰められていった過程を述べた。

殺害時の2人のやりとりや、「母の命を奪ったが、もう一度母の子に生まれたい」という供述も紹介すると、目を赤くした裁判官が言葉を詰まらせ、刑務官も涙をこらえるようにまばたきするなど、法廷は静まり返った。

判決を言い渡した後、裁判官は「裁かれているのは被告だけではない。介護制度や生活保護のあり方も問われている」と長男に同情した。

そして「お母さんのためにも、幸せに生きていくように努力してください」との言葉には、長男が「ありがとうございます」と応え、涙をぬぐった。

【引用元】デイリー新潮

https://www.dailyshincho.jp/article/2016/11161130/?all=1

「認知症の母親の介護に疲れてしまった」という理由だけでなく「介護をすることによって働くことが出来ず生活が出来なくなってしまった」という在宅介護の闇がここにあります。

こういった問題を防ぐために「介護離職を防ぐ」「新オレンジプラン」という政策が打ち出され、仕事と介護の両立が出来るよう、また、社会全体で支えていけるような取り組みが推進されています。

最近は徐々に在宅介護を支える取り組みが活発化してきています。 被介護者が認知症の場合は、特に家族の負担は大きいと言えます。 ...

2006年の事件ですから、 今から約13年前の出来事です。

13年前は私はまだ介護業界に足を踏み入れていませんでした。

そして恥ずかしながら介護業界で就職するまでこの事件のことを知りませんでした。

自分の親を殺さざるを得ないという世間の在宅介護の現実を痛感し衝撃を受けたニュースでした。

親子の絆や愛があるからこそ起こってしまった事件とも言えます。

殺人事件にも関わらず、その実情に裁判官や刑務官さえも涙を流すような事件であったために「情状酌量の余地あり」という判断で「執行猶予つきの判決」となったのでしょう(懲役2年6月、執行猶予3年)。

裁判官の「裁かれているのは被告だけではない。介護制度や生活保護のあり方も問われている」という発言も、とても的を得ていると感じました。

情状酌量された長男のその後

同じ記事に約10年後の息子の結末も書いてありました。

それから約10年後の2015年。

毎日新聞大阪社会部の記者が、介護殺人に関するシリーズ記事の一環としてこの長男への取材を試みた。

しかし弁護にあたった弁護士も行方を知らず、数少ない親族を探し出して訪ねると、彼はすでに亡き人になっていた。

事件の後の足跡について親族は口が重く、なぜ亡くなったのかも不明のまま。

行き詰った末に探し当てた長男の知人という人に彼の死を告げると、絶句して、判決後に長男が落ち着いた先の住所を告げた。

やがて判明した死因は自殺だった。

琵琶湖大橋から身を投げたという。

所持金は数百円。

「一緒に焼いて欲しい」というメモを添えた母親と自分のへその緒が、身につけていた小さなポーチから見つかった。

地獄を味わった彼の言葉やその後の人生が、在宅介護に限界を感じ、絶望している人への何らかの助けになるのではないか。

そう考えて必死に動いた記者を待っていた、悲しすぎる結末だった。

【引用元】デイリー新潮

https://www.dailyshincho.jp/article/2016/11161130/?all=1

悲しいことに琵琶湖大橋から身を投げ亡くなられていました。

母親と自分の「へその緒」を持って…。

裁判官に

「お母さんのためにも、幸せに生きていくように努力してください」

と言われた言葉は届かなかったのでしょうか。

いやそんなはずはありません。

きっと届いていたのでしょうが、 自分と母親との絆が強かったからこそ、人間だからこそ、耐えきれなかったものがあるのではないでしょうか。

法治国家ですから人は法に裁かれますが、この長男は「人として自分を裁いてしまった」のだと思います。

「介護」とはそれほど多くの問題を抱え、熾烈を極めるものなのです。

私のブログは主に施設介護について書いていますが、形はどうであれこの事件で「介護というものの闇」を垣間見ることが出来ます。

2025年問題も目前に迫っており、今後益々介護が必要な人が増えます。

そうなると家族や介護従事者も含め、介護をする人がもっと必要になります。

「2025年問題」とは、団塊の世代(1947年(昭和22年)~1949年(昭和24年)生まれ)の人達が2025年頃に後期高齢者(75...

介護業界が健全でより良くなっていくために、生活保護の在り方や、介護職員の処遇改善も含め、必要な措置をもっともっと講じていく必要があるのです。

歯車が狂ってしまったあとのフォロー体制

どんなことでもそうですが、一度歯車が狂い始めてしまうと、修正をすることが困難になります。

今回ご紹介した事件でも、生活が困難になり生活保護を申請するものの認められず、カードローンなどで借金をしてしまっています。

仮に裁判で執行猶予となっても、借金は残ります。

自己破産や債務整理などの手段があるので、どうされたのかまではわかりませんが、「所持金が数百円」だったという事実から、仕事に復帰できなかったか続けられなかったと想像できます。

歯車が狂い始めてしまうと、自分の力だけではどうしようもなくなることも少なくありません。

メンタル面もそうですが、経済的な面でもフォローしていけるセーフティネットの必要性を感じます。

この長男の人生は在宅介護で大きく狂ってしまったのです。

最後に

今回は、「地裁さえも泣いた」京都で起こった在宅介護での事件について記事を書きました。

当初申請した「生活保護」が認められていれば、人生を修正できたり悲しい結末を食い止めることができたかもしれません。

我々の税金は、そういう「本当に必要な人に活用して欲しい」と思います。

そして「本当に必要な時に機能するセーフティネット」でなければ、今後も同じような事件が起こってしまう可能性があります。

「母親と自分とのへその緒」を身に着けて人生の終焉を迎えるような人を、これ以上作ってはならないのです。

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