介護サービスを利用している利用者(被介護者)の多くは高齢でもある為、何かしらの持病を抱えていることが多く、内服薬が処方されています。
自立度が高く認知症もない利用者の場合は、薬を自分で管理し自分で服薬することが可能ですが、そうでない場合は職員が管理することになります。
自立度が高く認知症がなくても、高齢であるが故に目が悪くなっていたり、勘違いや思い込みや飲み忘れがある場合も職員が管理することになります。
薬の管理やセットは看護師が行うのですが、服薬介助は介護職員が行うことが殆どです。
今回は「介護職員が服薬介助を行う場合に一包化されていない内服薬を介助すると法律違反になってしまう」ということについて記事を書きたいと思います。
薬を管理する介護者とは
介護者とはその名の通り、被介護者(利用者)を「介護する人」のことです。
在宅であれば家族になりますし、在宅介護で訪問看護を利用していれば訪問看護職員になる場合もあります。
他の通所系(デイサービスやデイケア等)や短期入所系(ショートステイ等)や入所系(特養や老健等)であれば、薬を管理するのは看護師等の医療職になります。
介護サービスを利用している場合は、もちろん介護職員も介護者に該当します。
但し、介護サービスの場合「看護師がセットした内服薬を介護職員が服薬介助をする」という場合が多いため、「医療職ではない介護職員が医療行為を行うことになる」という問題が発生します。
つまり、介護職員の場合は「介護者ではあるものの医療職ではないので薬の仕分けをしたり管理はできない」ということには注意が必要です。
ちなみに家族が薬を管理したり介助する場合は「サービスの提供ではない(平たく言えば、商売や生業ではないという意味です)」ので、医療行為には該当しませんし法律違反にもなりません。
※医師、歯科医師、看護師等の免許を有さない者による医業(つまりは医療行為)は、医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条その他の関係法規によって禁止されている。
介護職員でも服薬介助が可能な条件
介護施設等の介護サービスにおいて、介護職員が服薬介助をできないのだとすれば色々問題があります。
眠前薬がある場合は、利用者が夜寝る前まで看護師が施設にいる必要がありますし、頓服薬が必要な場合にも、都度、看護師を呼んで服薬介助を依頼しなければなりません。
それでは、介護サービスとしてスムーズなケアが不可能になり、看護師の配置人員も全く足りません。
そこで、平成17年7月26日に厚労省が「医療行為ではないもの」を明示する解釈通知を出し、各都道府県に通知をしました(ということは、平成17年までは全て看護師等の医療職が服薬介助をしていた又はグレーゾーンとして介護職員が服薬介助をしていたということになります)。
【医療行為ではないもの】
- 水銀体温計・電子体温計による腋下の体温計測、耳式電子体温計による外耳道での体温測定
- 自動血圧測定器により血圧測定
- 新生児以外で入院治療の不要な者へのパルスオキシメータの装着
- 軽微な切り傷、擦り傷、やけど等について専門的な判断や技術を必要としない処置(汚物で汚れたガーゼの交換を含む)
- 軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
- 湿布の貼付
- 点眼薬の点眼
- 一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)
- 坐薬挿入
- 鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助
【引用元】厚労省解釈通知(医政発第07256005号)「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」
上記10項目に該当するものは「医療行為ではない」ということになります。
これにより、服薬介助に関しては「内服薬が一包化されていれば介護職員が介助しても良い(法律違反ではない)」ということになりました。
逆に言えば、「一包化されていない薬を介護職員が服薬介助をすると医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条違反」になります。
まだまだ世間に周知されていない?
「介護職員が服薬介助を行うためには薬が一包化されていなければ法律違反になってしまう」ということは、介護従事者なら知っていて当然の常識(というか、守らなければ違法)なのですが、まだまだ世間一般には周知されていません。
「一包化」とは、こういう状態のものを言います(下記画像参照)。
複数の薬が一つに包装されている状態です(1錠しか薬が無い場合でも介護職員が服薬介助をするためには一包化が必要です)。
病院や薬局等で、普通に薬を出されると殆どが「ヒートやPTP」のまま出されます(下記画像参照)。
この状態では、介護職員が服薬介助をすることが出来ません。
入所系の特養や老健なら、内部に医師がいたり提携医療機関や調剤薬局があり、毎回言わなくても周知の事実として「薬の一包化」をしてくれるのですが、問題は居宅系サービスです。
ショートステイも含め、居宅系の利用者の場合は利用者個々で主治医も違えば、処方された薬を出してもらう薬局も異なります。
そうなると、よくあるのが「薬を一包化せずにヒートやPTPのまま持参する利用者や家族」です。
この場合、「あえてヒートやPTPのままにしてやろう」と思っているのではなく、「一包化が必要なんて知らなかった」という場合が殆どです。
もちろん、利用前の面接や契約時に担当者が「一包化が必要ですよ」ということを毎回説明しているはずですが、面接や契約では色々な事を聞かれ、色々な事を言われ、色々な書類を書いたりハンコを押したりせねばならず、家族にしてみれば「一包化のことは印象(記憶)に残っていない」ということが往々にしてあります。
ですから、悪気もなくヒートやPTPのまま薬を持参してしまう利用者(家族)がいるのですが、そうなると「持参してもらった内服薬を再度持ち帰ってもらい、薬局で一包化し直してきてもらう」若しくは「家族の手で個包装してもらう」という二度手間が発生します。
正直、面倒くさいはずです。
「一包化が必要だなんて聞いていない」
「忙しくて再度薬局に行く時間がない」
「そっちで何とかできないのか?」
ということを言う家族もいます(するかしないかは事業所の判断になりますが、「致し方なく」「今回に限り」という条件付きで看護師が一包化をする場合があり得ます)。
親切な薬局なら、事前に「一包化にしましょうか?」と聞いてくれたりもしますが、少々の手数料と時間が掛かってしまうため、一包化の意識がない人は「別にいいです」と答えてしまう気持ちもわからなくはありません。
しかし、介護サービスを利用する場合に介護職員が服薬介助を行うためには、「必ず一包化にして貰わなければならない」ということは紛れもない事実なので、もっと世間一般に周知していって欲しいと思います。
最後に
今回は「介護職員が服薬介助をするには一包化されていないと法律違反になってしまうので世間にもっと周知されて欲しい」ということについて記事を書きました。
介護事業所内に薬を一包化する機械があったり、看護師が手作業で一包化することも可能ですが、それを一人の利用者にしてしまうと他の利用者にもしなければならないようになってしまいキリがありません。
また、その作業は介護サービス料に含まれていませんし、要らぬ手間になります。
もっと契約・面接時に印象に残る伝え方をしたり、利用直前に再度一包化の事を伝える等の工夫も必要になってくるかと思います。
内服薬をヒートやPTPのまま介護職員が服薬介助をすることは医療行為に当たり、法律違反になります。
介護サービスを利用される人やそのご家族には特に知っておいて頂きたいと思います。