介護保険制度の実情

介護職員の業務範囲はどこまで?政府が医療行為との線引きの明確化を提言

投稿日:2020年7月6日 更新日:

 

2020年7月2日に行われた政府の規制改革推進会議をまとめた答申の中に、「介護職員の業務範囲について医行為との線引きを明確化していく」という議題も含まれていました。

★参照元:内閣府ホームページ「第8回 規制改革推進会議 議事次第」

平成17(2005)年に「医療行為ではないもの」「介護職員が行える業務」について明確にした解釈通知を厚生労働省が出していることで、「介護職員が一包化してある内服薬を服薬介助することは医療行為ではない」ということについては過去記事でもご紹介しました。

【医療行為】一包化されていない薬を介護職員が服薬介助をしたら法律違反

ちなみに、平成17(2005)年に発出の通知は以下の10項目になります。

【医療行為ではないもの】

  1. 水銀体温計・電子体温計による腋下の体温計測、耳式電子体温計による外耳道での体温測定
  2. 自動血圧測定器により血圧測定
  3. 新生児以外で入院治療の不要な者へのパルスオキシメータの装着
  4. 軽微な切り傷、擦り傷、やけど等について専門的な判断や技術を必要としない処置(汚物で汚れたガーゼの交換を含む)
  5. 軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
  6. 湿布の貼付
  7. 点眼薬の点眼
  8. 一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)
  9. 坐薬挿入
  10. 鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助

【引用元】厚労省解釈通知(医政発第07256005号)「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」

同通知では、更に医師法や歯科医師法、保健師助産師看護師法の規制対象外となる6項目も以下のように明記されています。

【医師法や歯科医師法、保健師助産師看護師法の規制対象外】

  1. 爪切り、爪ヤスリによるやすりがけ
  2. 歯ブラシや綿棒、または巻き綿子などによる歯、口腔粘膜、舌に付着した汚れの除去
  3. 耳垢の除去(耳垢塞栓の除去を除く)
  4. ストマ装着のパウチにたまった排泄物の廃棄(肌に接着したパウチの取り替えを除く)
  5. 自己導尿の補助としてのカテーテルの準備、体位の保持
  6. 市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いた浣腸

【引用元】厚労省解釈通知(医政発第07256005号)「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」

(追記)

また、私の不勉強で知らなかったのですが、平成23(2011)年に日本オストミー協会から以下の照会を厚労省にされており、「条件を満たせば介護職員でもストーマ装備の交換が可能」となっています(Twitterのフォロワーさんに教えて頂きました、本当にありがたいです)。

肌に接着したストーマ装具の交換については、局長通知において、原則として医行為ではないと考えられる行為として明示されていないため、介護現場では医行為に該当するものと考えられているが、肌への接着面に皮膚保護機能を有するストーマ装具については「ストーマ及びその周辺の状態が安定している場合等、専門的な管理が必要とされない時には、その剥離による傷害等のおそれは極めて低いことから、当該ストーマ装具の交換は原則として医行為には該当しないと考えるが如何」

この照会に対する厚労省の回答は、

  • 合併症がなくストーマが安定している場合で専門的な管理が必要とされない場合にはストーマ装具の交換は医療行為にはあたらないとの判断
  • ストーマ装具交換には教育を受けたものが望ましいとの見解

という内容が示され各都道府県にも通知されました。

ですから、上記により”追加で”「条件を満たせばストーマ交換は医療行為ではないため介護職員が行うことが可能」ということになります。

(追記ここまで)

これらの通知により、かなり医療行為との線引きが明確になりました。

しかし、既に15年経過していることもあり社会情勢や疾病構造やニーズの変化、国民の知識の向上や医学・医療機器の進歩などが生じてきているため、再検討や再整理を行う必要がある時期にきており、介護職員が安心して、尚且つ、円滑に業務が行えることを目的とした提言のようです。

 

 

 

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どんな業務に線引きが必要?問題点は?

 

 

現状の介護現場で、どんな業務に線引きの必要性があるのでしょうか。

また、線引きをすることで発生する問題点はどういうものがあるのでしょうか。

以下で確認していきたいと思います。

 

業務範囲に線引きが必要な行為とは?

今回の規制改革推進会議で議題に上がった「介護職員の業務範囲の明確化」ですが、資料を確認すると以下のようになっています

【出典】https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/20200702/200702honkaigi01.pdf

 

この資料によると、

  • 酸素マスクのずれを直す行為
  • 膀胱留置カテーテルのバッグから尿を破棄する行為

などは医行為になるのかならないのかがハッキリしていないため、介護職員が実施を躊躇してしまうことが多いのでハッキリ明確にさせましょうという内容です。

この文書を読んだ私の率直な感想は、

「あれ、それらの行為は躊躇することなく普通にやっていたけど実は医療行為かもしれないことだったのか」

というものでした。

確かに、酸素マスクもバルンカテーテルも医療的な措置になるので、酸素マスクのずれを直したりバルンパック内の尿を破棄する(もっと言えば尿やカテーテル内の状態確認など)行為も医行為となる余地は十分にあり得ます。

以前、「トイレ誘導を減らせるから入所者の多くに施設側の都合でバルンカテーテルを留置させているという介護施設があるという話を見聞きした」という記事を書きましたが、もしも尿の破棄が医行為だということになれば、その施設は今後介護士よりも看護師を大量に雇わなければならなくなってしまいますね。

バルンカテーテル留置の利用者は「トイレ誘導を減らせるから楽」はあり得ない実情

他には、現状で医行為となるため介護職員が行えない業務として、

  • インスリン注射
  • 血糖測定
  • 摘便
  • 褥瘡の処置
  • 点滴の管理
  • 手動の水銀血圧計での血圧測定

などがあります。

それらは判断に迷うことも躊躇することもなく「介護職員が行えない」とわかるのですが、他に医行為か判然としない業務が今思い浮かばないので、もし「こんな業務やこんな時に判断に迷うよ」というご意見があれば教えて下さい。

 

問題点

業務範囲を明確に線引きしていくことはありがたいことですが、

  • 酸素マスクのずれを直す業務
  • バルンバッグの尿を破棄する業務

が「医療行為である」となった場合は問題が発生します。

何故なら、老健施設などは別として多くの介護施設では「夜間帯に看護師は居ないから」です。

夜間は介護職員だけが常駐し業務を行っており、看護師はオンコール体制になっている場合が殆どではないでしょうか。

そんな人員配置の中で、上記の業務が行えないとすると利用者の生命にもかかわってきます。

となると、「夜間も看護師を1人以上常駐させなければならない」ということになりますが、現実問題として多くの施設が苦慮するのではないでしょうか。

そもそも、政府は「テクノロジーを駆使して介護現場の人員配置を削減していく」という介護現場の実情に沿っていない方針を立てているのですから、それとも矛盾してしまいます。

ですから、恐らく上記の業務は「医療行為ではない」ということになるのではないかと予想しています。

介護施設の人員配置基準見直しの検討内容はまさかの4対1の規制緩和!?埋められぬ現場との溝と温度差

 

 

最後に

 

今回は、政府が規制改革推進会議の中で15年ぶりに介護職員の業務範囲を明確化させようという提言が議題にあがっていることについて記事を書きました。

何でもかんでも政府を批判するつもりはありませんが、最終的な結果は現場職員の働き方や日々の業務に密接に関わってくるため注視していきたいところです。

今回の業務の明確な線引きだけでなく、全てにおいて「介護現場の実情に沿ったもの」になることを願っております。

闇雲な「おむつゼロ運動」「おむつ外し」はエゴイストの方針

 

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