介護業界は「利用者本位」という方針で、利用者の意思やニーズを尊重しています。
しかし中には
「一人でいたい」
「介護されたくない」
「ほっといて欲しい」
という利用者もいます。
「介護拒否」とも呼ばれていますが、介護サービスを提供する介護職員としては、こういった利用者とも関わっていく必要があるのです。
しかしその反面「利用者本位なのだったら、本人を尊重してケアを提供しないという選択肢もあるのでは?」という考え方ができなくもありません。
今回は「介護事業所が利用者に対して「何もケアを提供しない」という選択肢があるのか」ということについて記事を書いていきたいと思います。
「何もケアしない」という選択肢はない
結論から言ってしまいますが、介護サービスを提供する上で、「何もケアしない」という選択肢はありません。
しかし、利用者のニーズに基づいてケアを提供する以上、「介護されたくない」というニーズがあれば「何もケアしない」というケア方針も正論と言えます。
本当に「何もしなくていい」のだとしたら、介護職員としても関わる必要も無ければ介護をする必要もないので「何のために介護職員が存在しているのかわからない」ことになります。
そもそも、何かの介護や生活上の支援が必要な状態だから「要介護認定」をされているわけです。
何のケアも支援も必要なく「一人でいたい」のだったら、介護サービスを利用せず家で生活をすればいいだけの話です。
過剰な声掛けや介護をする必要がないのは当然ですが、「介護をされたくない利用者」に対して「何もケアを提供しない」のではなく、「臨機応変な適切な介護を提供していく必要がある」と言えます。
「臨機応変な適切な介護」とは?
では「臨機応変な適切な介護」とは一体どういうものなのでしょうか。
まずは、介護拒否をする利用者の心理状態を推測することから始める必要があります。
そしてそこから「ニーズ」を見つけ出すことで「臨機応変な適切な介護」が可能になります。
介護拒否の理由を推測
介護拒否をする利用者はどのような心理状態なのでしょうか。
理由①混乱している
認知症であったり、急な環境の変化で混乱している場合があります。
混乱しているので、自分が介護をされようとしている現実も受け入れられていません。
混乱してしまっていることが介護拒否の要因になっているのかもしれません。
理由②体調や気分が悪い
利用者も人間なのですから、体調や気分の良し悪しがあります。
たまたま介護をしようとした時に体調や気分が悪かった可能性が考えられます。
理由③感情のコントロールができない
認知症であったり、元々の性格から感情のコントロールができない人もいます。
ひょっとしたら声掛けの仕方で自尊心を傷つけてしまった可能性もあります。
嫌な思いをしたり悲しい気持ちになったり腹立たしく感じることで、感情のコントロールができない利用者が介護拒否をしている可能性があります。
理由④介護が必要ないと思っている
「自分は一人で何でもできるのに、何故介護職員に介護をされなければならないのだろう」と思っている場合もあります。
要は現実が受け入れられていないのです。
実際に自分でやろうとしても自分では出来ないので、現実と直面することになりますが、元々の頑固な性格だったり、現実を受け入れられないことがあり、介護拒否に繋がっている可能性があります。
理由⑤一人でいたい
中には、元々の性格や生活歴などで「一人でいたい」「他人と接することが苦手」という利用者もいるかもしれません。
そう思っている人に介護を提供する際に介護拒否となる可能性もあります。
ニーズを見つけ出す
介護拒否をする心理状態を推測したり分析することによって「ニーズ」を見つけ出していきます。
例えば
- 混乱しないようにする
- 体調や気分に考慮する
- 感情の起伏が激しくならないような声掛けをする
- 自分でできることは自分でする
- 一人の時間を大切にする
などになります。
これを具体的にケア方法に取り入れていくのです。
もちろん、利用者のニーズは1つだけとは限りません。
複数ある方が自然です。
介護サービスによって、その全てのニーズを全て叶えれるわけではありませんし、内容的に実現不可能なことも含まれる場合もあります。
ですから、まずは利用者自身にニーズの優先順位をつけてもらいます。
そして、そのニーズと介護サービスで提供可能なこととを擦り合わせてケアプランに盛り込んでいくが「ケアマネジメント」になります。
臨機応変な適切な介護を提供する
ニーズを見つけ出せたら、適切な介護を提供するために優先順位をつけて臨機応変な対応方法を具体的に検討し実行していきます。
仮に「一人でいたい」というニーズが最優先される場合は
「一人で過ごせる時間を提供する」
「一人で過ごせる時間が作れるよう配慮する」
というサービスを提供する必要がありますし、利用者とじっくり会話をしていく中で「ただの人見知りだった」「本当は皆と一緒に楽しく過ごしたい」という「隠れたニーズ」が発見できる可能性もあります。
他にも
「時間を置いて声掛けをする」
「体調を確認してから介護をする」
「声掛けの方法を工夫する」
「自分で出来ない部分を介助する」
などの対応が考えられます。
「一人でいたいのですね、わかりました、何もケアを提供致しません」
などということは、介護保険制度下の介護事業所ではあり得ないことになります。
要介護認定を受けた利用者に対しては「臨機応変な適切なケアマネジメントと介護サービスの提供」が必要です。
最後に
今回は「介護拒否をする利用者に臨機応変で適切な介護を提供する方法」について記事を書きました。
過剰なサービスを提供する必要は全くありませんが、全くケアを提供しないのはもっとあり得ません。
高齢者本人によるセルフネグレクトの可能性や援助者によるネグレクトの危険があり得ます。
そもそも介護を受けないのであれば、家で生活をすればいいのです。
介護者として、要介護認定を受けた利用者の生活と尊厳を守っていくためには「適切な介護」が必要だと言えます。
反対に言えば、介護サービスを利用していない自立している高齢者に対しては当然、「何もケアを提供しない」というか「提供する必要がない」ということになります。