介護現場での業務は色々ありますが、三大介助と言われている「食事・排泄・入浴」の介助があります。
その中で、今回は「介護現場の食事介助(略して食介(しょっかい)と言います)の実情」について記事を書きたいと思います。
食事介助とは
介護現場で働いている皆様なら解説は不要かと思いますが、現場をご存知ない人に向けて食事介助の解説をしたいと思います。
食事介助とは、被介護者(利用者)に対して食事摂取の介助をすることです。
想像されるのは、食事をスプーンに乗せて「あーん」と言って食べさせてあげるイメージがあるかもしれませんが、基本的にそういうことです。
そういう状態を「全介助」と言います。
「全部介助」という意味です。
全介助まで必要がない利用者には「一部介助や半介助」をしたりします。
何とか自力摂取はできるけど、食べこぼしが多かったり、上手く口に運べなかったり、食事を食事だと認識できずにスプーンでこねて遊んでいる利用者に対して「声掛け」「食器を食べやすい位置に置き替える」「箸やスプーンを手渡し摂取を促す」「スプーンを口に運べるように動作を誘導する」などを行います。
「一部や半分介助」という意味です。
介護現場での食事介助では「自立した食事摂取ができる利用者以外」の利用者に対しては、上記のように「全介助や一部介助や半介助」を行っています。
自立した食事摂取が可能な利用者であっても、「ムセ込みがないか」「喉に詰まっていないか」等の見守りも同時に行っています。
食事介助が必要な利用者と職員の人数の比率
人員不足の介護現場では、日中の介護職員の配置は2ユニット(20床・最大利用人数20名)に対して2人~4人程度になります。
食事介助が必要な利用者が仮に10人いた場合の比率は
職員2人:利用者10人=職員1人当たり利用者5人
職員3人:利用者10人=職員1人当たり利用者約3.3人
職員4人:利用者10人=職員1人当たり利用者2.5人
となります。
職員が4人いても、2人以上の利用者の食事介助が必要になります。
そもそも現状で、日中に4人もの職員が配置されていることは稀です。
栄養士や看護師が食事介助の応援に入ってくれることもありますが、同じ状況のユニットやフロアが施設内にいくつもあれば「手が回らない」ということになってしまいます。
二人同時に食事介助を行うことが常態化
介護現場では食事介助が必要な利用者と職員の人数の比率に問題があり「職員1人に対して利用者2.5人~5人の介助」を行う必要があります。
一人の職員で、同時に二人の利用者の食事介助をすることも日常的に行われています。
一人ずつ順番に介助をしていたら、二人目の利用者を相当待たせることになりますし、食事の片づけも遅くなり、他の仕事ができなくなったり、他の利用者の排泄介助まで手が回らなくなります。
食事介助をしている時に、他の利用者から「トイレに連れてって」と訴えあれば、一旦食事介助を中断してトイレへ誘導します。
数分間、食事を中断された利用者は満腹中枢も働いてきますし、食欲や食事摂取量が減ってしまう原因にもなります。
かと言って、「ちょっと待っててください」などと言って、トイレの訴えを待たせれば「スピーチロックと言われたり、失禁をしてしまうおそれ」があります。
「スピーチロックをしないようにするために食事摂取をロックする」という摩訶不思議な状況が発生しています。
ですから、現状の介護現場ではスムーズに業務が行えるように苦肉の策として「1人の職員が同時に2人の利用者の食事介助を行う」ということが常態化しています。
二人同時に食事介助の注意点
二人同時の食事介助は慣れないと相当難しいです。
最悪の場合、利用者を危険な目に遭わせてしまう可能性があるので、本来はしない方が良いのですが、人員不足(というか人員配置基準を満たしていても足りない)の介護現場では致し方が無い状況なのです。
注意点①「食事を間違える」
食事を介助する利用者が同時に二人いるのですから、当然ですが食事も食器も別々です。
介護者が意識をしっかり持って注意深く介助していないと、両者の食事を取り間違えてしまう危険があります。
仮に食事形態が同じだったとしても、別の利用者の食事を介助してしまうのはあってはなりません。
テレビを観ながら無意識に食事介助をしている職員もいますが、厳禁です。
注意点②「スプーンを間違える」
食事の取り間違いもありがちですが、スプーンなどの食事用具の間違いもあり得ます。
手に持っているスプーンを一回一回取り替えて、利用者に介助をするのですが、無意識に同じスプーンで別の利用者の食事をすくいあげ介助してしまうミスも発生しがちです。
注意点③「嚥下のタイミングが違う」
二人同時に介助していても、両者の「食欲」「開口」「咀嚼」「嚥下」の状態は違います。
単純に交互に介助していけば良いというものではありません。
利用者個々の状態と嚥下したタイミングを都度、確認しながら介助を行う必要があります。
「ツバメのエサやりじゃないんだから」という批判
現場の苦肉の策として、二人同時に食事介助を行っているわけですが、確かにその「見た目」は良いものではありません。
「ツバメのエサやりじゃないんだから」と言って批判する人もいます。
確かに、ツバメの親が複数の雛鳥にエサを与える姿に似ています。
「利用者は人間なんだから一人ずつ食事介助をするべきだ」
「人格無視や尊厳の軽視ではないか」
「自分がされたらどう思うんだ?」
ということなのでしょうが、それは我々現場職員も重々承知の上なのです。
わかっていても、やらざるを得ない状況に追い詰められているのが介護職員なのであって、「そういうことをわざわざ介護職員に言って更に追い詰める必要があるのか?」ということを逆に問いたいと思います。
我々だって、出来れば二人同時に介助なんてやりたくはありません。
最後に
今回は二人同時の食事介助が常態化している介護現場の実情について書きましたが、食事介助が必要な利用者が10人もいるユニット(フロア)は利用者・職員ともに相当な負担が掛かるので、事業所も上手く割り振りを考えていることかと思います。
実際、同じユニットに食事介助が必要な利用者が5人以上いれば、相当な負担が発生します。
二人同時に食事介助をしたとしても、利用者が4人なら職員2人で対応できますが、利用者が5人になれば介助に掛かりっきりの職員が3人必要になるからです(三人同時の食事介助は想定外)。
明らかな人員不足の場合、事業所も黙認したり容認しています。
「エサやりじゃないんだから」 と言う前に、もっと現場の現状を知る必要があります。
利用者の人格や尊厳を貶めているのは、「人員の配置体制であったり介護保険制度そのもの」なのです。
コメント
私のとこ(ユニット特養)で、Aユニット:7人、Bユニット:3人。
夕食は早膳が3人、居室で補助食品(早膳として提供)で対応しています。
>ユンカースさん
コメントありがとうございます^^
人員不足だと時間差で介助するなど試行錯誤しながら四苦八苦しますね><
本当にお疲れ様です。