介護施設には必ずナースコールが設置されています。
介護保険法に基づく「施設及び設備並びに運営に関する基準」によって設置が義務付けられているからです。
設置していなかったり、手の届かない場所に置いたり、鳴らないようにしている場合は「基準違反」ということになります。
※有料老人ホームは設置の義務はありません。
今回は、介護施設で介護職員が困ってしまうナースコールの使い方について記事を書きたいと思います。
ナースコールの設置目的や役割は?
冒頭でも触れましたが、ナースコールの設置目的や役割をもっと具体的に解説します。
ナースコールとは、病院や介護保険施設などに設置されており、看護師や介護士などを呼び出す装置。 患者や要介護者が緊急時に呼び出すものとされているが、緊急時以外でなんらかの介助を要する際にも用いられる。
ナースコールは親機が詰め所にあり、呼び出されると患者と職員間での通話のやりとりができる。近年では、子機の導入を積極的にすすめている病院や施設があり、子機は一般的にペースメーカーを埋め込んでいる患者や医療機器への影響が携帯電話に比べ低いとされるPHSが用いられる。
子機の使用により親機のある詰め所へ行かなくても建物内ならば職員がどこにいても対応できるメリットがある。
病院や介護保険施設などではナースコール設置が義務づけられている。有料老人ホームは設置の義務はないが安心を売りに自主的に設置するところもある。
【引用元】ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB
つまり、基本的には「体調不良」や「緊急事態が発生」した時に、入所者がナースコールを押して介護士を呼び出す目的で設置されています。
そもそも「意識朦朧(もうろう)としていたり、急激な体調悪化等の緊急事態の際に、入所者はナースコールを押せる状態にあるのか」という部分は疑問ですが、基本的にはそういう使い方になります。
その他にも、緊急ではなくても「トイレに行きたい」「ベッドから起きたい」などの介助が必要な場合はコールで呼んでもらいます。
介護施設では、こちらの使い方の方が圧倒的に多いと言えます。
困ってしまうナースコールの使い方
介護現場では、本来のナースコールの使い方以外にも、介護職員が困ってしまう使い方をする入所者がいます。
そしてこの頻度や回数も意外と多かったりします。
①認知症者が握りしめている
介護施設には認知症の入所者も多く、「ナースコールがそもそも何なのか」を理解できず、おもちゃのように握りしめていることがよくあります。
認知症者にしてみれば、「目の前に白とオレンジ色の細長いものがぶら下がっていたから握ってみた」というだけで、悪意がないのは理解できるのですが、ナースコールが鳴れば職員が居室まで駆けつけなければならず、業務が中断したり無用な時間を使うことになります。
子機(PHS等)で対応することも可能ですが、認知症者は会話や意思疎通が成立せず、コールを握りしめているので居室まで行かないと鳴りやむことはありません。
ナースコールの設置目的や本来の使用目的を説明しても理解することができないので、鳴らないようにしたり、手の届かない場所に置きたくなってしまいますが、それをすると「法令・基準違反」になってしまうため出来ません。
どう考えても正しい使い方ができない利用者の居室にもナースコールを設置しなければならない理由がわかりませんが、「万に一つでも緊急時に正常なコールの使い方ができるかもしれない」「全ての入所者に平等な設備」ということだろうと思われます。
利用者の状態やニーズに沿った他の方法を検討する方がお互いのためのような気がします。
②介護士を召使いのように使う
「介助や支援が必要」と「介護士が何でもしてくれる」ということは全く別なのは普通に考えたらわかるのですが、混同してしまっている入所者も多く存在します。
例えば、自分(入所者自身)ですることが可能なのに「落ちた物を拾って欲しい」「カーテンを開けて欲しい」「テーブルの上の物を取って欲しい」などになります。
「自分で出来ることは自分でやって下さい」と言いたい所を我慢してやってしまう介護士もいるかもしれません。
何でもかんでも入所者の身の回りのお世話をするのが介護士の仕事ではないのです。
入所者の「出来ない部分を介助する」「自分で出来るようになるために支援する(自立支援)」という介護保険制度の本来あるべき姿から逸脱してしまいますし、そもそもナースコールの本来の使用目的ではない上に「介護士は召使いでもない」のです。
中には「肩や腰を揉んで欲しい」「話し相手が欲しかった」ということでナースコールで呼ばれることもあります。
これはなかなか判断が難しいのですが、「肩や腰を少し揉むくらいはいいか」「傾聴するのも介護士の仕事のひとつだ」という解釈もできます。
但し、一度やってしまうと次からもしなければならなくなりますし、他の職員にも同じことを求め「あの職員はしてくれたのに、この職員はしてくれない」というクレームにも繋がる可能性があるので、同僚や上司などと相談や検討した上で対応する方が良いです。
傾聴に関しては、確かに介護士の業務のひとつではありますが、人員不足と業務過多な状況の中で、優先順位を考えて対応する必要があります。
話し相手をしている間に、他の入所者がトイレに行けなかったり転倒してしまったら本末転倒です。
③いたずらや嫌がらせで呼ぶ
悪意がありタチの悪いナースコールの使い方です。
色々な入所者がいて、人それぞれ性格も十人十色なので、中にはいたずらや嫌がらせでコールを押す入所者もいます。
コールで呼んでおいて「押していない、呼んでいない」という問答を繰り返す人や、「本当に鳴るか試してみただけ」と言う人もいます。
中には、コールを押しておいて介護士が訪室すると寝たフリをする入所者もいます。
いたずら心や構って欲しいという気持ちがあるのでしょうが、介護職員はそんなに暇ではないのです。
業務妨害になるので、大変迷惑な使い方です。
最後に
ナースコールは召使いを召喚する装置でもありませんし、介護士は召使いでもありません。
本来あるべき正しい使い方が出来れば一番良いのですが、多くの介護施設では「入所者の困ったナースコールの使い方」によって、対応に苦慮されている所があるのではないでしょうか。
一番迷惑を被っているのは現場職員です。
こういったリアルな現場でしか気づかないようなことをもっと取り上げて改善していければ「職場環境」が改善し、介護職員の人材確保もしやすくなっていくはずです。