介護施設でケアをしていると結構な高頻度で「帰宅願望のある利用者」がいます。
少し目を離した隙にいつの間にかユニットやフロアから出て行ってしまいます。
そうなってくると目が離せない存在になります。
介護をしている側としては、付きっきりということも人員的に難しく、時間と労力を消費する「手を焼く」利用者です。
今回は「帰宅願望の原因や症状と効果的な対応策」について記事を書きたいと思います。
帰宅願望の原因と症状
帰宅願望は、読んで字の如く「家に帰りたいという願望や訴えのこと」です。
夕方になると訴えが始まったり強くなったりすることが多いので「夕方症候群」「夕暮れ症候群」とも呼ばれています。
しかし、必ずしも夕方だけとは限らず、朝や昼でも訴えがあることがありますし、場合によっては1日中訴えが続く場合があります。
原因
帰宅願望は多くの場合、認知症による周辺症状(BPSD)として発生します(もちろん、そうでない場合もあります)。
「夕方になると家に帰らなければならない」という焦燥感に駆られることが原因です。
今まで生きてきた中で
「夕方は家に帰るもの」
「夕食は自宅で食べるもの」
「夜は自宅で過ごすもの」
という潜在意識の顕在化で夕方に訴えが強くなります。
また、ショートステイであれば、夕方に退所していく利用者や退勤していく職員を見てソワソワし出し
「さて、じゃあ自分もそろそろ帰らせてもらおうか」
というスイッチが入りやすくなります。
余談ですが、現在夜勤専従で働いている人が歳を取り認知症になった場合、帰宅願望は朝の9時や10時頃になるのかもしれませんね。
症状
症状は人それぞれですが「家に帰りたい」という訴えが続くのは共通しています。
他に「大きな声を出す」「怒り出す」「暴力を振るう」などの症状があります。
また、帰宅願望に付随して徘徊や離施設などもあります。
帰宅願望の対応策は?
介護現場で多くの介護職員が帰宅願望のある利用者の対応には苦慮しています。
介護業界で言われている一般的な対応策をご紹介します。
対応策①「寄り添って傾聴を行う」
帰りたい理由や利用者の心情をゆっくりと時間を掛けて不安を取り除けるように丁寧に傾聴します。
介護業界が大好きな「寄り添う介護」というものです。
しかし、傾聴している間は落ち着くこともありますが、職員がその場を離れたり目を離すと再び帰宅願望が始まります。
要は「半永久的に傾聴対応を行う必要がある」のです。
対応策②「食事を提供する」
食事の時間が近ければ、食事を提供することは効果的と言えます。
「食欲」は三大欲求のひとつですから、お腹が空いていれば帰宅願望よりも食欲が勝ちます。
「せっかく食事を出してくれたのだから頂こうか」
「ごはんを食べてから帰ってもいいか」
という気持ちにさせるのもひとつの手段です。
しかし、食事の時間が近くないと対応できませんし、食べ終わると帰宅願望が再開する可能性もあります。
そんな時は「お茶」を提供するのですが、私の経験ではお茶はあまり効果がありませんでした。
対応策③「安心できる環境を作る」
本人が落ち着けるように馴染みの物を置いたり、テレビを見やすいように座席に配慮します。
生活歴から趣味や特技を活かせるような「役割」を持ってもらうことも有効です。
しかし、こういった「環境整備」や「生活リズムの構築」は、ある程度時間を掛ければ効果的に働いてくるかもしれませんが、即効性はありません。
利用者も職員も「今、困っている」のです。
対応策④「薬を調整する」
焦燥感を和らげたりイライラを抑える薬を処方してもらったり調整する方法です。
既に「頓服」として処方してある人もいるかもしれませんが、帰宅願望が始まって興奮状態の時に服薬してもらうのは非常に困難です。
定期薬にしたり容量の調整等の対応は介護業界ではあまり推奨されていない方法です。
確かに副作用も起こり得るので慎重な検討が必要です。
しかし他の方法があれば良いのですが、そうでない場合には現場の状況を見極めて、事故や事件が起こる前に薬の調整を検討していくことも大切です。
対応策⑤「気分転換をする」
一緒に散歩に行ったり、レクリエーションに参加してもらう等で気を逸らしたり気分転換をしてもらう方法です。
この方法でおさまる場合もありますし、おさまらない場合もあるので一概に言えませんが、散歩に行く場合は結局職員が付きっきりになります。
効果的な対応策はないのか
帰宅願望のある利用者に対する一般的な対応策をご紹介しましたが、「効果的なものがない」から現場職員が苦慮しているわけです。
考えられる効果的な対応策は「薬の調整」を除けば「職員がマンツーマンで付きっきりの介護をする」ということくらいです。
しかしそれさえも出来ないから苦労しているのです。
問題点「人員不足で常時付き添えない」
帰宅願望のある利用者にマンツーマンで常時付き添うことが出来れば、とても効果的です。
しかし、介護現場は常時人員不足なので常時付き添いが出来ません。
可能な限り付き添いを行っていますが、その間は他の業務が出来ないため、他の職員に業務のしわ寄せがいきます。
3人の職員で20人の介護をしているのに、1人の職員が帰宅願望のある利用者に掛かりっきりになると、2人の職員で残りの19人の利用者を介護しなければなりません。
これはとても負担が大きく、他利用者にもケア不足が生じて迷惑を掛けてしまいかねません。
また、そもそも夜勤は「ワンオペ(一人体制)」なので、帰宅願望のある利用者に付きっきりは不可能です。
解決策「人員を確保する」
この場合の解決策は簡単です。
帰宅願望のある利用者1人に付き、1人の職員をプラスして配置することです。
しかし人員不足なのでそれができないのが現状かと思います。
介護補助員やボランティアや暇をしている職員などを付き添い要員として有効的に使っていく方法もあります。
どちらにしても「人員が確保できないのに帰宅願望のある利用者を入所させ続ける事業所はどうかしている」のです。
傾聴や声掛けのポイント
傾聴や声掛けの仕方は状況に応じて変えていく必要がありますが、共通しているのは
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ということです。
付き添いを行っている目的は「落ち着いてもらうため」なので、目的に沿った対応が必要です。
利用者の言っていることを否定したりこちらが感情的になると、落ち着いてもらうどころか相手は益々不穏になったり帰宅願望が強くなったりします。
最後に
今回は「利用者の帰宅願望の原因や症状と効果的な対応策」について記事を書きました。
一番の問題点は、対応も負担も責任も「現場の介護職員だけに被せてしまう」ことです。
それでは何の解決にもなりませんし、事故や事件が発生する要因にもなりかねません。
大切なのは「事業所全体で対応していく」ということになります。
それができない事業所が多いから人員不足も解消できず、悪循環に陥っていると言えます。
帰宅願望の強い利用者への効果的な対応策は「プラスの職員を配置すること」です。