介護の基礎知識

ノーリフティングケアが日本に浸透しづらい理由とは?高知県がノーリフティング宣言をした結果

投稿日:2019年6月19日 更新日:

 

介護職員の職業病の代表的なものとして「腰痛」があります。

これまでの日本の介護では「正しい介護技術があれば腰痛は防げる」といった根性論やボディメカニクスを推奨した介護が行われてきました。

他にも厚生労働省が努力義務として推奨している「腰痛健診の受診」によって

  • 腰痛の予防
  • 腰痛の早期発見
  • 腰痛にならないような啓蒙啓発

などの取り組みが行われてきました。

介護事業所で行われる腰痛健診の実情「検査項目や内容は?」

しかし、正直言って

「焼け石に水状態で建前感が強く、成果を上げているとは言い難い」

「効果の無い健診を半強制的に受診させられることによって休憩時間や公休を搾取される」

というデメリットの部分が大きいように感じています。

もちろん、今後「介護ロボット」などの開発や導入で介護職員の腰や身体を守るような体制が取られていくこととは思われますが、「現状の介護ロボットの導入実績」を考えると、「近い将来には実現しないだろう」という予測が容易に出来ます。

そういった意味も含め、日本は介護後進国と言わざるを得ません。

今回は、ノーリフティングケアが日本に浸透しづらい理由と高知県が既にノーリフティング宣言をしているようなので、その結果について記事を書きたいと思います。

【ボディメカニクス】正しい介護技術があれば腰痛にならないという誤解

 

 

 

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ノーリフティングケアとは?

 

 

そもそも「ノーリフティングケア」とは何なのでしょうか。

 

ノーリフティングケアとは

簡単に言うと「抱え上げない」「持ち上げない」「引きずらない」ケアのことです。

それにより、介護者だけでなく介護をされる側も安全で安心な移乗や移動が可能となります。

これは、「ノーリフティングポリシー」を具現化したケアとなります。

 

ノーリフティングポリシーとは

「ノーリフティングポリシー」とは、オーストラリア看護連盟(ビクトリア州)が看護師の腰痛予防対策のために1998年頃から提言したもので、 危険や苦痛の伴う「押す、引く、持ち上げる、ねじる、運ぶ」という行為について人力のみの移乗を禁止し、患者(利用者)の自立度を考慮した福祉用具使用による移乗介護を義務付けることを指します。

なるほど、オーストラリアの看護連盟が発祥だったわけです。

しかも、1998年頃から提唱され義務付けられていたということは、2000年から介護保険法が施行された日本の2年前には、オーストラリアでは既にノーリフティングポリシーがあり、現場職員や利用者(患者)を守る方針が義務づけられていたことになります。

移乗は介護用リフトや福祉用具を使用して行うことで、職員の腰痛予防だけでなく、利用者にとっても安心感と安全な移乗を提供することが可能になります。

介護保険制度が始まって19年が経過しているのにも関わらず、こういったポリシーやケア方法が未だ浸透しておらず、日々、人力で移乗介助を行っている「日本の介護は遅れている」と言えます。

 

 

 

日本にノーリフティングケアが浸透しない理由

 

 

介護者と被介護者双方にとって安全安心なノーリフティングケアなのに、何故まだ日本には殆ど浸透していないのでしょうか。

 

理由①「日本が介護後進国」

現在の日本は、平成12(2000)年4月に「介護保険法が施行」され介護保険制度が開始されました。

まだ20年も経っておらず、歴史の浅い業界とは言え、日本は経済的に先進国ですから、福祉制度も整えられており、諸外国から「ユマニチュード」等の様々なケア手法などを取り入れて成長していっているので、世界的に見ても十分に発展しています。

しかし完全に遅れを取っているのが「介護職員の待遇や扱い」です。

他の多くの先進国では、介護職員の社会的地位を確保し、待遇にも十分配慮した上で大切にしています。

ところが日本は、介護職員のことは二の次、三の次で、利用者ばかりに目を向けることで不健全な業界になってしまいました。

実際、現在もその扱いには殆ど変化はなく、そういった意味で「介護後進国」だと言えます。

ノーリフティングケアが浸透しづらいのも、「介護職員を大切にしていないことの表れ」だと言っても過言ではありません。

 

 

理由②「機械を使うのは温かみがないという思い込み」

介護の基本は「人と人とのふれあいや関わり合い」という方針が誤解を招いています。

確かに機械で吊るし上げられる姿は、温かみを感じないかもしれません。

それよりも「人力で移乗をすることで温かみとか外傷を作るリスクを減らす」という考え方が未だ根強く残っているのも日本の介護の特徴です。

しかし、現在のリフトは外傷を作りにくい素材で作られているでしょうし、「人間の両手という少ない支持点」で人間一人を移乗させる方が様々な危険を伴います。

【人力介助のリスク】

  • 高齢者の皮膚や骨は弱くなっているので力加減によって「内出血や皮膚剥離、脱臼や骨折」
  • 人力の限界やミスによる「転落や滑落」
  • 利用者が「落とされるかも」と不安を感じることで体がこわばったり筋肉が萎縮したりストレスを与える
  • ベッドや車椅子上でのポジション確保をする際に引きずることで「擦り傷や褥瘡(じょくそう)」

機械を使用した方が職員にも利用者にもメリットがあるのに、「人力こそが温かみ」という思い込みのポリシーを持っている事業所が多いため、ノーリフティングケアが浸透しづらいと言えます。

 

 

理由③「人員不足で機械のセットや操作をしている時間がない」

常に人員不足の介護業界では、移乗用リフトを導入しても使っている時間が無いのです。

リフトを準備して、利用者にセッティングして、移乗を行う、という一連の介助をすると3分以上掛かってしまうのではないでしょうか。

3分の移乗を20人の利用者に行うと

3分×20人=60分(1時間)

1時間も時間が掛かってしまいます。

これを人力で移乗した場合、移乗ポジションを確保し、利用者の両脇に手を入れて抱え移乗する、という少ないステップになります。

早ければ30秒、遅くとも1分以内には移乗が完了します。

これを20人の利用者に行っても

30秒×20人=600秒(10分)

となり、リフトを使用する時よりも6分の1程度の時間で済みます。

日中でさえ人員不足ですが、夜間はワンオペ夜勤になるので尚更時間を掛けていられません。

速さを求める介護は良くないのですが、1人の利用者の移乗に3分も掛けていたら、他の利用者の介護が遅れたり危険な状況になってしまうという現実があります。

「安全よりスピードを取る介護」となってしまえば本末転倒ですが、実際の介護現場では「介助のスピードは他利用者の対応や安全確保のために必要なこと」となっているのです。

これは人員不足を解消して貰わないと、なかなか解決が難しい問題です。

最近は、短時間で移乗可能なリフトも開発されているようですが、どちらにしても「介護職員が人力でやっておけばいい」と考える事業所には導入されることはないでしょう。

 

 

 

高知県がノーリフティング宣言!その結果は?

 

 

「ノーリフティングケア」について色々調べていると、「高知県の施設の3分の2がノーリフティング宣言」という記事を見つけました。

 

高知県が全国初のノーリフティング宣言

高知県がノーリフティング宣言 施設の3分の2が実践

2016年度に高知県が全国で初めて「ノーリフティングケア宣言」をして約2年がたった。

県はなぜ宣言したのか、介護施設や病院など現場は宣言をどう受け止めたのか、宣言によりケアはどう変わったのかなど、ノーリフティングケアに挑戦している同県の現状を報告する。

(中略)

16年度、12カ所に増えたモデル施設では、拘縮や褥瘡じょくそうなどの2次障害が防止でき、自立度が向上する人が増えた。リフトなどを使うことで利用者とのコミュニケーションの時間が増えたり、その日の状態を観察できるようになったり、ケアの質が向上したという。

職員の腰痛防止にも大きな成果があった。モデル施設では、移乗ケア時に腰痛になった職員は1人もおらず、職場定着率も向上。「妊娠中もケアの仕事ができる」「痛み止めを飲む量が減った」「ゆとりが持てるようになった」などの声が上がっている。

(中略)

人材確保対策にも良い効果が出ている。高知市内の施設では、求人に対して3~4倍の求職者があり、入職試験ができるようになってきた。

 

【引用元】福祉新聞

http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/18473

高知県がここまで進んでいるとは、正直存じ上げませんでした。

 

 

ノーリフティングケア宣言をした結果

高知県の介護施設で働かれている現場職員の生の声が聞けたら嬉しいのですが、新聞ではノーリフティングケアによって以下のような「良い結果が短時間で見られた」と書かれてありました。

【結果】

  • 拘縮や褥瘡などの二次障害が防止でき、自立度が向上する人が増えた
  • リフトなどを使うことで利用者とのコミュニケーションの時間が増えたり、その日の状態を観察できるようになったり、ケアの質が向上した
  • 職員の腰痛防止にも大きな成果があった
  • 移乗ケア時に腰痛になった職員は1人もおらず、職場定着率も向上
  • 高知市内の施設では、求人に対して3~4倍の求職者があり、入職試験ができるようになってきた

なんと「良いことだらけの結果」になったようです。

しかも、ノーリフティング宣言によって人材不足も解消できているようです。

この結果から見えるのは、「人員不足だからノーリフティングケアが出来ないのではなく、ノーリフティングケアを取り入れることで人員確保が可能になる」という「卵が先か鶏が先か」の因果性のジレンマです。

この結果が本当ならば、全国の介護施設で「ノーリフティング宣言」をしない手はないのではないでしょうか。

 

 

 

最後に

 

今回は、ノーリフティングケアが日本に浸透しづらい理由と高知県が全国初のノーリフティング宣言をした結果について記事を書きました。

高知県ではノーリフティング宣言をしたことで、介護職員の腰痛も減り、人材確保もできて、利用者の負担も軽減するという素晴らしい結果が出ていました。

それが本当だとすれば、事業所単位や都道府県単位ではなく、日本全体でノーリフティングケアを推進しノーリフティング宣言をしていくことで、介護業界全体の底上げになり良い循環になっていくのではないでしょうか。

 

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