介護業界では、まだまだ「有給休暇が自由に取得できない」「休憩時間は利用者の見守りをしながら」「書類仕事はサービス残業で行う」というような劣悪な労働環境があります。
これらは明らかに「労働基準法に違反」しています。
平成24(2012)年4月に介護保険法が改正され以下の通り施行されました。
六 介護サービス事業者の労働法規の遵守に関する事項
1都道府県知事又は市町村長は、次のいずれかに該当する者については、介護サービス事業者の指定等をしてはならないものとすること。
(1)労働に関する法律の規定であって政令で定めるものにより罰金刑に処せられ、その執行を終わるまでの者、又は執行を受けることがなくなるまでの者
(2)労働保険の保険料の徴収等に関する法律により納付義務を負う保険料等の滞納処分を受け、引き続き滞納している者
2都道府県知事又は市町村長は、介護サービス事業者が1(1)に該当するに至った場合には、指定の取消し等を行うことができるものとすること。
【引用元】介護保険最新情報Vol.216(PDF)(平成23年6月22日)
つまり、事業所が労働法規に違反して罰金刑に処せられた場合に、その支払いをしないなどの悪質な場合は介護サービス事業者の指定権者である都道府県や市町村は「指定を取り消すことができる」ようになりました。
ですから、この頃より事業所での労働法規の遵守について、やっと気に掛けられるようになり、介護事業所の労働環境も徐々には改善してきていると言えます。
※但し、この改正点を吟味してみると非常に建前感の強いものであることがわかります(下記記事参照)。
こういった労働法規の遵守規定が行われた背景には「他産業と比べても介護事業所の多くは労働法規の遵守ができておらず、コンプライアンスやモラルの意識が非常に低い業界であった」という歴史があります。
「年々マシにはなってきている」とは言うものの、「完全なホワイト」はごく一部であり、その多くは「超絶ブラックからやっと普通のブラック(若しくはグレー)になった」という程度ではないでしょうか。
そんな状況では、介護職員も職場に定着しにくいのは当たり前のことです。
今回は、介護職員が職場に定着するための第4弾として「労働法規の遵守のポイント」について記事を書きたいと思います。
労働法規の遵守のポイント
労働法規と言っても、その関係法令は多種多様です。
労働者に一番身近に関係してくるのが「労働基準法」です。
他にも「最低賃金法」「時短促進法」「パートタイム労働法」「育児・介護休業法」などがあります。
関係法令も「労働安全衛生法」「男女雇用機会均等法」「雇用対策法」「労働者派遣法」「障害雇用促進法」「入管法」などがあります。
介護職員が職場に定着するためには、こういった労働法規を遵守していく必要があります。
ポイント①「介護職員にも正しく周知させる」
介護事業所の経営者や労働法規が関係する雇用担当者などは、毎年行政が実施する「集団指導」というものに参加されているかと思います。
ここに多くの事業所が集まり、行政担当者から介護保険や関係法令の指導が行われます。
しかし多くの場合、その内容は介護職員等の末端の従業員までおりてきません。
経営者側が熟知していれば良い内容であればそれで構いませんが、労働者に関係してくる内容であっても「事業所側に不利になるような内容」は周知させる気がないのです。
そうなると「そんな法令があるなんて知らなかった」「そんな権利が行使できるなんて知らなかった」という職員が出てきてしまいますし、現状で知らないまま働いている職員もいることでしょう。
「介護職員も自分で勉強するようにしなさい」という意見もあるかもしれませんが、事業所は行政からポイントを押さえたわかりやすい指導を受けておきながら、介護職員は独学で「何がどうなったのか」「そもそもポイントはどこにあるのか」から探し始めなくてはならず、あまりにも取っ掛かりに差がありすぎますし、自己責任論で斬り捨ててしまうのはあまりにも無責任です。
事業所内で「法令遵守」として教えられることがあるとすれば、「守秘義務」や「個人情報保護法」などの「義務規定」ばかりです。
介護職員に課せられた義務だけしか教えず、与えられている権利については何も教えてない場合は「片手落ちの事業所」だと言えます。
介護職員が最新情報や改正点や自分の権利を知らないまま働くことで、労働法規の遵守も事業所のさじ加減ひとつでいいように使われてしまいます。
ひいては、介護職員が労働環境に耐えきれず辞めていってしまうことになってしまい、職場に定着することが困難になってしまいます。
ですから、事業所が労働法規を遵守していくためには、介護職員を含めた全従業員に正しく周知させていくことが重要です。
ポイント②「労働問題の担当者を置く」
事業所内に労働組合があれば良いですが、多くの介護事業所は労働組合の存在自体さえないのではないでしょうか。
仮にあったとしても形式上の存在で、事業所の言いなりだったり付随するような対応しかしてくれない場合も往々にしてあります。
ですから現状で、労働問題が発生した場合、介護職員は「泣き寝入りをする」か「労働基準監督署に相談する」という2つの方法しかありません。
但し、労基署に相談をしても積極的に関与してくれる事案とそうではない事案があるため、「勇気を振り絞って相談したものの拍子抜けの結果になった」ということもあり得ます。
介護職員に泣き寝入りや労基署に相談する選択肢しかない場合、どっちにしても嫌気が差して辞めていく職員出てくるのは当然です。
それは、介護職員にとっても事業所にとっても不本意ではないでしょうか。
それならば、事業所内に労働問題の相談窓口や担当者を置くことで、解決が図れることもありますし介護職員が職場に定着しやすくなります。
可能であれば、労働問題に精通した弁護士や社会保険労務士などの国家資格者が望ましいです。
事業所が雇った人材であれば、事業所側に有利なことしか言わないように思われますが、国家資格者であれば「職業倫理」や「守秘義務」や「品位を保持し公正誠実な業務遂行」が課せられています。
それらに反した場合、自分の立場や資格者であることを失う可能性もあるため「あまりに非常識なことや法律に反したこと」は言わないはずです。
現状では、介護職員の労働問題を積極的に受け付ける場所がなく、まずは直属の上司に相談をすることになりますが、ハッキリ言って「お話にならない」のです。
何の根拠もなく「精神論」「奉仕論」「根性論」「感情論」「綺麗ごと」「独自の解釈」「気分や機嫌で言うことが変わる」「人格破綻している」という上司に相談しても何の解決もしないどころか、益々悪化していきます。
そんな無意味な上司のことが嫌で辞めていってしまう介護職員もいるでしょう。
ですから、現状のように「意味不明な上司に労働問題の解決をさせる体制」をやめて、専門の担当者を置くことで労働法規の遵守も出来ますし、介護職員が職場に定着しやすい環境づくりも可能になります。
最後に
今回は、介護職員が職場に定着するための第4弾として「労働法規の遵守のポイント」を2つご紹介しました。
事業所が不利になるようなことはやりたがらないのが世の常ですが、介護職員に過剰な負担や責任を押し付け泣き寝入りと自己犠牲の上に成り立っているのが介護事業所の正体です。
そんな状況には目を向けず「介護職員が集まらない」「介護職員がすぐに辞めていく」「介護職員が定着しない」などと嘆いている姿は、非常識を通り越してあまりにも滑稽です。
労働法規を含め、コンプライアンスやモラルの欠如した介護事業所には介護職員が定着することはありませんので、早急な意識改革と環境改善と体制づくりが必要です。