介護現場には課題が山積みとなっており、それらを解消(クリア)していくためには「言う必要がないことは言わないようにして、言わなければならないことはしっかりと言えるような環境づくりが大切である」ということを前回の記事で書きました。
つまりは、介護現場の課題解決のためには職場全体での取り組みを行っていくことが大切であり、管理者や上司のマネジメント能力に左右される部分が非常に大きいのです。
詳しくは下記記事をご参照下さい。
確かに、介護業界全体で「現場の中間管理者層が育っていないことがマネジメントが欠如している要因」であり、その責任は経営者や従来の公共政策の不備にあるということも指摘されています(参考:介護のニュースサイトJOINT「人手不足の大きな要因は介護現場で中間管理職が育っていないこと」)。
そして更に、介護現場や業界全体を注意深く観察していくと課題をクリアしていく阻害因子となる3つの闇を見ることがあります。
その3つとは、
- 自己陶酔のメサイアコンプレックス
- 介護現場には入らない外野のエゴイズム
- 介護現場を無視した机上の空論の介護保険制度
です。
今回は、介護現場の課題をクリアすることが困難となる3つの阻害因子「メサイアコンプレックスとエゴイズムと机上論の介護保険制度」について記事を書きたいと思います。
介護現場の課題をクリアするための3つの阻害因子
それでは早速、介護現場の課題をクリアすることが困難になる3つの阻害因子について詳しくご紹介していきたいと思います。
1.自己陶酔のメサイアコンプレックス
「メサイアコンプレックス」という言葉とその意味をご存知でしょうか。
日本語に訳すと「救世主妄想」になります。
概要は以下にウィキペディアから引用しておきます。
メサイアというのは、一般的な日本語ではメシア(救世主)と言われるもののことである。この心理が形成されるのは、自分は不幸であるという感情を抑圧していたため、その反動として自分は幸せであるという強迫的な思いこみが発生するとされる。さらにこの状況が深まると、自分自身が人を助ける事で自分は幸せだ(自分には価値がある)と思い込もうとする。
このような論理になるのは、幸せな人は不幸な人を助けて当然という考えを自らに課す事で「自分は幸せである、なぜなら人を助けるような立場にいるから」と考えられるからである。本来は人を援助するその源として、まず自らが充足した状況になることが必要であるが、この考えは原因と結果を逆転させている。
そうした動機による行動は自己満足であり、相手に対して必ずしも良い印象を与えない。また相手がその援助に対し色々と言うと不機嫌になる事もある。しかもその結果が必ずしも思い通りにならなかった場合、異常にそれにこだわったり逆に簡単に諦めてしまう事も特徴的である。
【引用元】ウィキペディア「メサイアコンプレックス」
この内容に当てはまる介護職員や経営者が身の回りにいないでしょうか。
私は過去現在も含め、何人か思い当たる節があります。
非常に表面上は良いことを言うのです。
「利用者を第一に考えて利用者のために身を粉にして尽くすのが介護職の努め」
「社会的弱者を支援することこそが福祉であり自分の使命」
「自分は利用者にとって特別な存在であり、自分が介護をする時だけ素敵な笑顔を見せてくれる」
などとキラキラしたことを発するので、俗に言う「キラキラ系介護士」と言われたりもします。
いや確かに、「理想が高く慈愛に満ちている」という点では素晴らしいのかもしれませんが、介護現場の課題をクリアするためにネックとなる理由は他にあります。
- 弱者を支援することで自分に酔いしれ自分の価値を高めようとするスケープゴート体質
- 自己犠牲に恍惚の表情を浮かべ自分が快感を得るために支援をするので原因と結果が本末転倒
- 実は周りの人(利用者含む)にそのしたたかさとナルシズムがバレていて好かれていないが本人は気づいていない無神経さ
という人物像となり、「自分が認められないとイヤイヤちゃん(承認欲求の塊)」なのです。
そういう人物であっても全てが自己完結するのであればそれはそれでいいのですが、多くの場合は自分の独特の思想信条と価値観を周りに押しつけるような立ち振る舞いをするため、大変迷惑な存在となります。
また、そんな人物が介護現場にいると職場環境や人間関係も良くならず自己犠牲を美徳とする状況になることで、介護現場の課題は一向に解決しなくなります。
例えば、
「利用者から暴力やハラスメントを受けるのは介護技術が未熟だからだ」
「全ては自己責任であり、愚痴や文句があるなら辞めればいい」
というような発言を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
他人にまでそうまで言えてしまったり自己犠牲を強いる時点で自己完結を逸脱し、自らの救世主妄想の不健全な価値観を押し付けているため、メサイアコンプレックスの介護職員は阻害因子であると言えます。
キラキラ系介護士については下記記事にまとめていますのでチェックしてみて下さい。
2.介護現場には入らない外野のエゴイズム
何故だかわかりませんが、介護職員は介護現場を知らない人や聞きかじっただけの外野のエゴイズムに晒されやすい職業になります。
例えば、
- 厚生労働省
- 行政
- 介護研究者
- 介護コンサルタント
- 自称介護インフルエンサー
- 自称ライターや自称作家
などになります。
利用者のニーズも現場の実情も無視した「オムツゼロ運動」や「なんとか理論」がその例になります。
こういった外野から介護現場へのエゴイズムの押しつけは、「現場との温度差が大きく介護現場の課題をクリアしにくくする阻害因子」になります。
また、間違った介護の情報や(※)こたつ記事を発信する素人同然の自称介護インフルエンサーやライターなども目につきます。
(※)こたつ記事とは、実体験もなく取材や調査もしないままにインターネット上などのメディアの情報を収集して、ぬくぬくとこたつの中に入ったままで執筆できる情報の寄せ集めや再構成をしただけの記事のことを指します。
こういった人達は現場に入っているわけではないので介護現場の埒外にあるのですが、何故か介護インフルエンサーを気取ったり介護現場に茶々を入れ情報弱者を煽動しようとするきらいがあります(もちろん、全てのそういう人達がそうだとは言いませんが)。
表面上しか捉えないこたつ記事や知識不足と理解不能な有害な誤情報やアクが強いエゴイズムは、介護現場の課題をクリアするための直接の阻害因子ではないにしても間接的に悪影響を与えていると言えます。
3.介護現場を無視した机上の空論の介護保険制度
元をただせば既に介護保険制度そのものが介護現場を無視した机上の空論であると言えます。
例えば、
- ユニットケアそのものがフィクション
- 現状の人員配置基準のどんぶり勘定
- 方針の絵空事と矛盾をこじつけ後付けで正当化
- 介護職員が自己犠牲を払わないと成り立たない仕組み
- センサーやAIの導入をすることで更に人員配置基準を緩和させようとする暴挙
などになります。
訪問介護員(ホームヘルパー)3人が、「介護保険制度では労働基準法が遵守できない」「ホームヘルパーはもはや絶滅危惧種」という苦境を訴え、国家賠償法に基づき国に提訴したというニュースもありました(参考:東京新聞「介護制度問う ヘルパー国を訴え 実態は「労基法違反」」)。
介護保険制度そのものが介護現場の課題を山積みにさせ、そして課題を解消できない阻害要因となってしまっていると言っても過言ではありません。
最後に
今回は、介護現場の課題をクリアするための阻害因子となる「メサイアコンプレックスとエゴイズムと机上論の介護保険制度」について記事を書きました。
福祉・介護という事業であるが故に、他の業種や産業ではあまりないような阻害因子が存在しています。
もう「マッチポンプ」のような様相も呈しているのが介護業界だと言っても過言ではありません。
記事中にご紹介した3つの阻害因子がある間は、消火することも介護現場の課題をクリアしていくことも困難であるところが闇深いと言えます。