介護職員の皆様は職場で利用者の名前を呼ぶ時に、「上の名前(名字)」で呼ぶのか「下の名前」で呼ぶのかどちらでしょうか。
普通に考えれば、上の名前、つまり名字で呼ぶのが正解のように思えます。
例えば、
「山田さん」
「田中さん」
「北島さん」
などです。
しかし、実際の介護現場では、利用者のことを呼ぶ時に「下の名前」で呼んでいることも多々あります。
例えば、
「まさおさん」
「たえさん」
「としこさん」
などです。
何故、介護現場では利用者のことを下の名前で呼ぶことがあるのでしょうか。
結論から言えば、「時と所と場所(TPO)によって使い分けている」ということになります。
しかし、中には「介護職員の都合」である場合もあるのです。
「介護職員側の勝手な都合で下の名前で呼ぶなんてけしからん!」「下の名前で呼ばれている利用者の家族がどう感じるか考えたことがあるのか!」というお叱りやご指摘もあるかもしれませんが、もちろんそういう場合は、利用者本人や家族にも事前に了承してもらうような配慮が必要です。
どういう状況なのかを以下で詳しくご紹介していきたいと思います。
介護職員が利用者のことを下の名前で呼ぶ5つの理由
それでは早速、介護職員が利用者のことを下の名前で呼ぶ理由について解説していきたいと思います。
要は「TPOによって使い分けている」のです。
理由①:地域性
名字で呼ぶのか下の名前で呼ぶのかは、地域性によっても判断が分かれます。
地域によっては、「生まれた時からずっと近所の人や周りの人を下の名前で呼び合うのが当たり前」という風潮や慣習がある場合もあるからです。
名字で呼ぶのは、
- 他人行儀
- よそよそしい
- スタンダードではない
というような地域性であれば、介護現場でも利用者のことを「下の名前」で呼んでいても不思議ではありません。
そもそも、「誰も違和感を感じていない」のであれば問題がないのではないでしょうか。
理由②:同じ名字の利用者が複数人いる
これは前述した地域性にも関係してきますが、地域によっては「同じ名字の人が沢山いる」ということも往々にしてあり得ます。
例えば、同じ介護現場に、
「山田太郎」
「山田一郎」
「山田たえ」
という「山田姓」の利用者が3人いた場合、介護職員などが
「山田さん」
と呼ぶと3人の利用者が「自分が呼ばれた」と思って返事をしたり振り向いたりすることになります。
もちろん、「フルネームで呼ぶ」という選択肢もあるでしょうが、「やまだ…」と言った時点で3人の人が該当することになりますし、「声掛けをする機会の多い介護現場においては最初から下の名前で呼ぶ方がお互いのため」であったりします。
もちろん、事前に利用者本人や家族の了承を得ておけば問題はなくなりますし、了承を得ていない場合でも「地域性によって暗黙の了解となっている」という場合もあるでしょう。
但し、「暗黙の了解があるのだから全く問題がない」とも言い切れませんので、気になる場合は「フルネームで呼ぶ」のが無難でしょう。
理由③:職場内の雰囲気
職場内の雰囲気というのも、暗黙の了解の延長のようなものですが、
- 先輩職員が下の名前で呼んでいるから
- 今まで下の名前で呼んできたから
- 下の名前で呼ぶことがスタンダードだと思ってきたから
- 下の名前で呼ぶことで親近感がわくと思っているから
など、特に深い理由もなく深く考えることもせずに、職場内の雰囲気や流れの中で利用者のことを下の名前で呼んでいる場合もあります。
ひょっとしたら、利用者本人や家族は下の名前で呼ばれていることに対して良い気がしていない場合もあり得ます。
実は、この「特に深い理由もなく周りの雰囲気に乗っかって」又は「下の名前で呼んでいる理由があるのにその理由を知らないままに」というのが一番危険で、最悪の場合は「家族からクレームが来てしまう」ということもあり得ます。
「親近感が湧く」という理由も、あくまで介護職員側の都合であるため、勝手な判断をしないように注意が必要です。
もちろん、下の名前で呼んでいる正当な理由がある場合や理由がなくても利用者本人や家族に了承を得ている場合は問題がないと言えるでしょう。
理由④:利用者や家族が望んでいる
中には、下の名前で呼ぶことを利用者本人や家族が望んでいる場合もあります。
その場合は、ニーズのひとつなのですから正々堂々と利用者のことを下の名前で呼べばいいですし、逆に「名字で呼ぶことはニーズにそぐわない」ということになります。
例えば、認知症などがあり利用者本人が旧姓(結婚前の名字)で自分を認識しているため、「旧姓」又は「下の名前」のどちらかで呼ばないと反応しないような場合は、「下の名前」で呼んでも問題はないでしょうし、家族も理解を示してくれることでしょう。
どちらにしても、本人や家族が望んでいる場合は「下の名前で呼ぶことに何の問題もない」と言えます。
理由⑤:介護職員の都合
中には、「介護職員の都合」である場合もあります。
それは、「親近感が湧く」というキラキラした精神論的なことではなく、そうしないと介護業務に支障が出る場合があるパターンです。
例えば、同じ介護現場に、
A:「田中次郎(たなかじろう)」
B:「山田治郎(やまだじろう)」
C:「田中二朗(たなかじろう)」
という3人の利用者がいた場合、
「たなかさん」
「たなかじろうさん」
と呼べば、AさんとCさんが該当しますし、
「じろうさん」
と呼べば、AさんBさんCさんの全員が該当してしまいます。
この場合、介護職員は呼び方に大変苦労しますし、例えば職員間であっても
「じろうさんにお薬を飲んでもらって」
と言われた場合、AさんなのかBさんなのかCさんなのかわからずに誤薬に繋がってしまうという危険もあります。
だからと言って、
「田中次郎さんを田中1号」「田中二朗さんを田中2号」という呼び方をするのも不適切です。
では、どうすれば良いのかと言えば、職場によっても様々でしょうが、例えば、
Aさんのことを「たなかつぎろうと書くじろうさん」、Bさんのことを「やまだおさろうさんと書くじろうさん又はやまだじろうさん(フルネーム)」、Cさんのことを「たなかにろうと書くじろうさん」という感じで、「職員間で間違いが生じないような呼び方や対応」をしていくことが必要です。
もちろん、本人や家族にこの呼び方が聞こえてしまえば気を悪くされる可能性もありますので、事前に事情を説明した上で了承を得ていけるような配慮も大切です。
最後に
今回は、介護職員が利用者のことを下の名前で呼ぶ5つの理由について記事を書きました。
介護現場では、利用者のことを下の名前で呼ぶ時は良いか悪いかの両極端なものではなく、TPOによって使い分けているのが実情です。
しかし、ただ単に「親近感が湧くから」「職場内の雰囲気に流されて」という状態であれば、介護職員個人の独りよがりや理解不足になってしまい利用者本人や家族が不快感を感じたり違和感を感じさせてしまう要因にもなりかねません。
ですから、事前に了承を得たり、下の名前で呼んでいる理由を把握しておくということが大切になってきます。
一番良くないのは、何事にも言えますが「理由や経緯を知らないまま周りの雰囲気に流されて対応してしまうこと」なのです。