介護施設で長らく働いていると色々なアクシデント(事故)に遭遇します。
事故に繋がらなくても、内出血だったり皮膚剥離だったり、インシデント(事故の発生する恐れのある事態)に該当することはアクシデント以上に多く遭遇します。
そんな「アクシデント」や「インシデント」の中で意外に多いのが 「発生原因が不明」 という状況です。
今回は「原因不明のアクシデントやインシデントも介護職員の責任なのか」ということについて記事を書きたいと思います。
発生原因が不明とは?
利用者の外傷等を発見した時に「どうやってこの外傷ができたのかわからない」「何故だろう?どうしてだろう?」という状況があります。
転倒している所や何かにぶつかっている所を発見できれば原因の特定は容易ですが、いつも通り生活していていつも通り接している時に「あれ、こんな所に傷や内出血がある」という具合に発見した場合は原因が不明となります。
認知症の無いクリアな利用者ならば「ああ、これはいついつにドアでぶつけて出来たんだ」と答えてくれますが、介護施設で生活する利用者の多くは認知症者になるのでそういった意思疎通が取れません。
そういった場合に「原因不明のインシデント(又はアクシデント)」という扱いになります。
介護職員への責任の追及の可否
介護職員も利用者に24時間付きっきりで介護が出来るわけではないので、見知らぬ所で原因不明の外傷が発生することは往々にしてあり得ることになります。
ですから専ら「介護職員に責任の追及」をされることは心外ですし、家族へは利用前の契約時や事前説明の場で「重要事項説明書(重説)」などでリスクの説明した上で同意と署名をしてもらっているはずです。
我々介護職員も「そういった不測の事態も起こり得ますよ」ということは理解して頂いている前提で介護を行っています。
しかし仮に事故に発展した場合に
「説明を受けていない」
「記憶にない」
ということを言う家族もいます。
確かに重要事項説明書にハッキリ「24時間付きっきりの介護は出来ないので事故が発生するリスクがあります」とは明記されていない場合があり、補足的に口頭で説明を行う場合もあります。
その場合は 「言った言っていない」 「聞いた聞いていない」 の水掛け論になってしまいます。
契約担当者や現場職員を「謂れなき責任問題」から守るために、事業所として再度「リスクに関する説明を理解し周知してもらえる対策」を取っていく必要があります。
利用者の身体状態によって責任の所在が違ってくる
目の届かない所での原因不明の事故の多くは介護職員の責任とは言えません。
しかし、その責任の所在が変わってくる場合があります。
それは、「利用者の身体能力や状態」によって変化します。
原因不明のアクシデントの場合、大きく分けて以下の2つで考える必要があります。
①自分で自由に移動したり行動できる利用者の場合
この場合は、介護職員の責任は無いに等しいと言えます。
24時間付きっきりが出来ない以上、自由に行動する利用者は様々な動きをします。
それを逐一監視することも出来ませんし、行動を制限することも出来ません。
但し、同じような外傷が続く場合は何らかの対応が必要になってくるでしょう。
- 起こり得ることは仕方の無いこととして、適宜家族とも連携を取り理解を得ていく
- 原因が特定できれば外傷にならない対策
という前向きな姿勢は現場としても事業所としても必要なことです。
②自分では移動や行動が出来ず自発動作のない利用者の場合
問題はこちらの場合です。
要は「自発動作がない利用者=寝たきりの利用者」です。
寝たきりの利用者が外傷を作ってしまう場合は、自分で手足を動かしたり、転倒や転落をしたり、何かにぶつかるような行動や動作がないわけですから「介護中に介護者の介護方法で外傷を作っている可能性が極めて高い」と言えます。
そういうインシデント的なことがあれば、普通は介護中に気づくはずですが
- 気づかない介護職員
- 気づこうとしない介護職員
がいることも否定できません。
ましてや、内出血などはすぐに現れず後から出てくる場合も往々にしてあります。
その時はどうもなっていなくても、数時間後や翌日に外傷として症状が出てくると「いつどこで誰がどうやってこうなったのか全く不明」ということになります。
ひとつ言えるのは「外部からの力が加わったことで発生した外傷」ということはほぼ間違いないところです。
この場合、ケアに関わった現場職員の責任の配分が大きくなってしまいます。
但し、犯人捜しをしたり責任を追及していくのではなく
- 今後発生しないようにどうするのか
- 家族にも逐一説明を行い理解を得ていく
ということが大切です。
賠償責任や賠償請求をされる場合も、圧倒的にこちらの場合が多いかと思います。
原因不明の闇
ここまでは、基本的な知識や対応方法を書いてきましたが、もっと深く闇の部分にメスを入れていこうと思います。
先程「犯人捜しをしない」と書きました。
これの意味する所は
- 一人の職員を吊るし上げたり責任を押し付けたりしない
- 働きやすい環境を維持していく方が長期的に見て得策
ということになります。
しかし
- 明らかに特定の職員が対応した後に不明傷や内出血が多い
- 本人から報告もないし「身に覚えがない」と言っている
ということが往々にしてあるのも事実です。
確かに「確たる証拠」はありませんが、こういう職員がどこの事業所でもいるのではないでしょうか。
限りなく黒に近いグレーな存在です。
実際、本人や周りが気づいている場合と気づいていない場合があります。
故意的にやっている場合は「事件等に発展する可能性」もありますし、故意ではなく「ただ単に介護技術が未熟」な場合もあります。
こういった職員がいる場合は
- 二人介助を行う
- 介護技術を再確認する
- ワンオペ夜勤には配置しない
という対策が必要だと思います。
しかし、人員不足の介護施設では残念ながらそういった対策もできず、一人で介助を行わせ、ワンオペ夜勤にも配置しているのが現状ではないでしょうか。
対策をせずに発生してしまった事故は「事業所の責任」だということを申し添えておきます。
最後に
今回は「原因不明のアクシデントやインシデントの責任の所在」について記事を書きました。
「介護職員が著しく業務を怠っていた場合」「介護職員の介護技術や知識が不足していることによって発生した場合」については介護職員にも責任が掛かってきますが、「与えられた環境の中で可能な限りの業務をしていたのに発生した場合」「利用者自身の行動で発生した場合」「不可抗力で発生した場合」は介護職員の責任ではありません。
責任のなすりつけ合いをしても始まりませんので、大切なのは
- 早期発見
- 事業所全体の問題として対応していく
ということです。
現状では、何でもかんでも「介護職員の責任」にしたり「個人攻撃の材料」にすることが横行しているため、不満を抱いたり隠そうとする職員が出てきてしまい「不健全な運営」が繰り返される要因となっています。
もっと言えば、そういう「不健全な事業所運営が更に原因不明なアクシデントやインシデントを発生させている要因」であると言えます。