2018年の第21回介護支援専門員実務研修受講試験が去る2018年10月14日に行われました。
受験された方もいらっしゃるかもしれませんが、受験者数が激減しているという実態が明らかになっています。
そして2018年12月4日に全国でほぼ一斉に合格発表がありました。
その合格率を見てみると、過去最低の「10.1%」という結果となっています。
試験回数(年度) | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
第21回(平成30(2018)年度) | 49,333人 | 4,990人 | 10.1% |
それだけ、「介護支援専門員(ケアマネジャー)の質が問われるようになってきた」という見方ができます。
しかし、私の周りでは「受験した」「合格した」「落ちた」等の話題が一切なく、恐らく「誰も受験していないのではないか」という現実もあります。
それだけ質が求められる資格の難関試験であるために受験資格を得ることさえ難しくなってきている現状もありますが、現実として「受験資格があっても受験しない人」が増えてきているように思います。
私の周りだけで言えば、殆ど話題に上がって来なくなってしまったのが「ケアマネ試験」なのです。
今回は「ケアマネ試験の受験者が激減してしまった5つの理由と合格率が低下している3つの理由」について記事を書きたいと思います。
受験者数が激減した5つの理由
第20回(平成29(2017)年度)のケアマネ試験の受験者数は「131,560人」でした。
第21回(平成30(2018)年度)の受験者数が「49,333人」ですから前年より4割近く激減したことになります。
受験者数が激減した5つの理由について考察していきたいと思います。
理由①「受験資格のハードルが上がった」
ケアマネ試験の受験資格が今回の第21回から厳格化されました。
今までは、法定資格(介護福祉士等)を保有していなくても、実務経験(介護現場での勤続年数)が規定を満たしていれば受験することが可能でしたが、平成30年度の試験からそれができなくなりました。
それがどういうことかと言うと「お金と時間を掛けなければ受験資格さえ与えられない資格」になったということになります。
何故なら、介護福祉士資格や看護師資格などを取得するだけで相当なお金と時間が掛かるのですが、そういった法定資格を持っていないとケアマネ試験を受験することさえできなくなったので、「受験資格を得るまでに膨大なお金と時間が掛かる試験」になったのです。
仮にケアマネ試験に合格しても、実務研修を受講するのに高額の受講料と膨大な時間が掛かります。
受験資格が厳格化された上に、ある程度のお金と時間を消費できる人しか取得できないような資格になってしまったため、ハードルが大きく上がってしまったのが理由のひとつになります。
理由②「試験が難解で合格率が低い」
ケアマネ試験は難解で合格率が低いことで有名です。
介護保険制度が始まってからの数年は、とりあえず「ケアマネジャーを作れ増やせ合格させろ」という方針で、合格率も30%~45%くらいありましたが、最近の合格率は15%~20%程度になります(第20回(平成29(2017)年度)は受験資格厳格化前の駆け込み受験もあり合格率が20%を超えたようです)。
そして第21回(平成30(2018)年度)の合格率は「10.1%」という難関試験となりました。
10人受験して1人合格するかしないか、という難易度になります。
ちなみに、全く土俵も学習範囲も学習時間も求められているものも異なりますが、ここ最近の司法試験の合格率が24%前後であるという事実を見ると「合格率だけで言えばケアマネ試験は司法試験より合格率が低い試験」なのです。
受験資格のハードルが上がった上に、これだけ合格率が低いと尻込みしてしまうのも無理はありません。
理由③「資格を取得しても将来性がない」
それだけ合格率が低く難解な試験であっても、合格すれば輝かしい将来が待っていれば受験する価値はあります。
しかし、現状ではケアマネ資格を取得しても「将来性がない」のです。
まずとても悲しい現実として、夜勤を月5回程度している介護職員よりケアマネジャーの方が収入が低くなります。
夜勤が無いので、夜勤手当の分だけ収入が下がるのは仕方が無いにしても、結局は「夜勤をしていない介護職員とほぼ同等の収入」ということになります。
お金と時間を掛けてハードルの高い難解な試験に合格し、ケアマネ資格を取得し、ケアマネジャーとして働くと「収入が下がる」という摩訶不思議な将来が待っています。
ケアマネジャーになって待ち受けているのは手取り20万円前後の収入になります。
もちろん、勤続年数や経験や能力によって昇給はしていきますが、手取り30万円のケアマネジャーは全国でもごく少数ではないでしょうか。
そもそも、介護職員の収入だって、他業界と比べると著しく低い水準にあります。
ケアマネになると、その介護職員より更に収入が下がってしまう介護業界の闇がここにあります。
収入が下がるとわかっている職種に喜んで飛び込む人がどれだけいるでしょうか。
確かに「介護職員のまま歳を取るのは肉体的にも精神的にもキツい」「収入が下がっても、腰が折れる前にケアマネに職種替えしたい」と思う人はいることでしょう。
しかし、それは「妥協」であり「消去法」なのであって、「将来性があるからケアマネになった」というわけではありません。
そんな将来性を感じないケアマネになるための試験を受験しようと思う人が減るのは自然の摂理だと言えます。
理由④「5年更新の資格」
ケアマネ資格を取得すると、ケアマネの業務をしていようがしていまいが5年で資格の有効期限が切れます。
ケアマネ資格は5年更新の公的資格になるのです(国家資格ではない)。
そして、更新のたびに高い受講料を支払い長時間長期間の研修を受講する必要があります。
運転免許と同じで、更新しなければ「失効」してしまいます。
ケアマネ資格を取得したが最後、失効させないためには延々と高い受講料と膨大な研修時間によってお金と時間を搾取され続けることになってしまうのです(その金額と時間は運転免許更新の比ではありません)。
将来性もなく待遇も変わらないのに、5年ごとにお金と時間を搾取されるだけのケアマネの仕事には魅力を感じることができず、受験者数が激減してしまうのは当然と言えます。
理由⑤「医師主導の業界」
ケアマネジャーは基本的に介護業界の中に位置する職種ですが、現状では介護業界そのものが医療業界の付属のような存在で、医師主導の業界になってしまっています。
「介護認定や更新」には「主治医意見書」が必要ですし、利用者の持病や既往歴から適切なケア方針を決定するには主治医や看護師からの指導や指示が必須です。
もちろん医療も「多職種連携」とか「チームケア」のひとつなのですが、国が推し進める在宅介護はどう考えても医療中心となっている感は否めません。
ケアマネジャーが医師等の医療従事者と同じ土俵に立つためには「医療的な知識」が必要不可欠になってきます。
医師や看護師がカンファレンスなどで専門用語を使っていても、ちんぷんかんぷんでは仕事になりませんし、そもそも医師にアポイントメントを取るのに気を遣っているケアマネが大勢いるのではないでしょうか。
その時点で、チームケアや多職種の上下関係が垣間見えます。
「医者には気を遣え」「医者の機嫌を損ねるな」「直接電話せずに、まずはFAXで様子を窺え」などの暗黙の了解があるのではないでしょうか。
そうだとすれば、ケアマネジャーは「せせこましくて進んでやりたいとは思えない職業」になります。
合格率が低迷した3つの理由
これだけ合格率の低い試験は難関試験と言えます。
冒頭にも書いたように「ケアマネの資質が問われてきている」というのは間違いありません。
しかし、介護職員もそうですが、「資質を向上させても待遇も処遇も給料も変わらないのであれば、ただ搾取されているだけ」ということになりかねません。
受験者数が激減するのは受験資格がある人たちの意思ですが、合格率が低迷するのは業界の意思であるため、そのことについても触れておきたいと思います。
理由①「ケアマネ不要論」
今後はAIなどでケアプランを作成していくことも検討されています。
その可否はさて置き、今後ケアマネの存在価値だとか将来性が高まっていくようには感じません。
むしろ「ケアマネ不要論」さえあるのです。
施設ケアマネは100人の利用者に対して1人のケアマネの配置で良いため、多くの場合は1つの事業所に1人のケアマネが居れば配置基準を満たしていることになります。
ですから、この時点で施設ケアマネの需要は低くなります。
居宅系介護サービス提供事業所(デイサービスやショートステイなど)においては、介護支援専門員の配置さえ求められていません。
介護サービス計画書(ケアプラン)は、ケアマネがいればケアマネがとりまとめるのが望ましいとしつつも「豊富な知識や経験のある職員がとりまとめを行う」と老企(厚労省:老人保健福祉局企画課長が発信する正式文書)25号に定められています。
つまり、ケアマネ資格を持っている職員がいなくても運営可能なのです。
介護の提供に係る計画等の作成に関し経験のある者や、介護の提供について豊富な知識及び経験を有する者にそのとりまとめを行わせるものとし、当該事業所に介護支援専門員の資格を有する者がいる場合は、その者に当該計画のとりまとめを行わせることが望ましいものである。
【引用元】老企25号
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000239zd-att/2r98520000023ept.pdf
ということは、実質現状でケアマネが必要とされているのは「居宅ケアマネ」ということになります。
確かに「居宅ケアマネは不足している」という情報は聞いたことがありますが、先に述べたように今後は「AIの導入」等で賄われていく予定があるのだとすれば「これ以上ケアマネジャーはいらない」という判断になるのも理解が出来ます。
理由②「絶対数は足りている」
居宅ケアマネは不足していると言っても、恐らく全国のケアマネ有資格者の絶対数は飽和状態なのではないでしょうか。
つまり、ケアマネ資格を持っているのに実務に就いていない人が大勢いるのです。
これらの人が実務に就いたとすれば「ケアマネの絶対数は十分足りている」と考えられます。
ですから、今後は「そういう人達を掘り起こしていき、新規での合格率を低く抑えている」という可能性もあり得ます。
しかし、現状ではあまり将来性を感じられないケアマネの仕事に対してそれが可能なのか、ということには疑問が残ります。
理由③「ケアマネよりも介護職の人材不足の方が深刻」
ケアマネの人材不足の問題もありますが、結局は「介護職員の人材不足の方が圧倒的に深刻な状態」です。
そして、ケアマネ資格を持っている人の法定基本資格の6割以上が「介護福祉士」です。
ケアマネ試験を受験しようとする人の法定基本資格の半数以上が「介護福祉士」です。
つまり、「介護職や介護福祉士という現場の最前線で働く人がケアマネに流れてこないようにしている」と考えるともの凄く自然です。
ケアマネの試験の難解さで合格率を下げ、収入や将来性などの魅力を抑えることで、介護福祉士を現場介護職のまま留めておく目的があるのではないでしょうか。
あくまで、憶測でしかありませんが、受験資格を厳格化したことにもそういう目的があったとするならば、とてもシックリきます。
最後に
今回は「ケアマネ試験の受験者数が激減している理由と合格率が低迷している理由」について記事を書きました。
「費用対効果」で考えてもケアマネの将来性から考えても「メリットが少ない」ということがわかりました。
しかし、「ケアマネ受験をおすすめしない」とか「ケアマネになることを否定している」わけではありません。
資格取得までの費用と時間が許すなら、あって困るものでもありませんし、業務範囲の選択肢も広がるので「取得可能な資格は取得可能なうちに取得しておくのが良い」と思っています。
また、ケアマネになるための勉強は「介護保険法や制度」をしっかりと学習することができるので、自分にとって大きなメリットになります。
今後、介護支援専門員という仕事の魅力がどう変化していくのかは不明ですが、「現状ではあまり魅力を感じない」とした上で、「最終的に判断したり資格をどう活かしていくのかを決めるのは自分自身」であるということも申し付け加えておきたいと思います。