長らく介護職員をしてきて、よく耳にするのが
「褥瘡(じょくそう)は介護職の恥」
という言葉です。
つまり、「利用者に褥瘡を作ってしまう(出来てしまう)のは、介護職員として恥ずべきことなんだ」という意味になります。
今回は「褥瘡は介護職の恥」と言われることについて記事を書きたいと思います。
「褥瘡(じょくそう)」とは
世間一般の人にはあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、「褥瘡」とは要は「床ずれ」のことです。
寝たきりの利用者の体位交換を適切に行わなかったり、長時間同じ個所の皮膚が圧迫されることで発生します。
皮膚が長時間圧迫されると「栄養」や「酸素」や「血流」が滞ったり、行き届かなくなり、皮膚が傷つくことで発生します。
初期の段階で適切な対応や処置をしないと、どんどん悪化し進行してしまうと外科的な処置が必要になるくらい深刻なものになります。
「NPUAP/EPUAPによる褥瘡の分類」で下記の図のように分類されています。
初期の段階(皮膚が剥離していない状態)で「褥瘡か褥瘡でないかの見分け方」として、発赤部分の「指押し法」という方法があります。
褥瘡ではない発赤(例えば虫刺されや一時的な紅潮等)であれば、その部分を指で3秒押さえると「皮膚が白く変化」します。
当然、指を離すとまた赤色に戻るのですが、褥瘡の場合は指で3秒押さえても皮膚が白く変化しません。
指で押さえても赤いままなのです。
その場合「褥瘡の可能性が高い」という判断ができます。
※「褥瘡予防・管理ガイドライン」を根拠としています。
褥瘡になりやすい人は?
褥瘡の原因は、長時間の皮膚の圧迫による壊死なのですから「寝たきりの人」がなりやすいです。
しかし、実際には、他にも褥瘡になりやすい人が存在します。
- 低栄養(食事摂取量が少ない人)
- 湿潤(尿や汗などで常に皮膚が湿っている人)
- 特定の病気がある人(うっ血性心不全、骨盤骨折、脊髄損傷、糖尿病、脳血管疾患、慢性閉塞性肺疾患など)
- 摩擦(介助や自動運動で皮膚の摩擦が発生しやすい人)
- 骨の突出(痩せすぎている人)
などになります。
つまり、「寝たきりの利用者だけを気に掛けていればいいというわけではない」ということになります。
褥瘡は介護職の恥?
介護職員としては、「寝たきりの利用者の体位交換を頻繁にすれば褥瘡を防げる」という点から、褥瘡を作ってしまうことは「介護のプロとして体位交換を怠った結果であるから恥に思え」ということを言われてきました。
上記に当てはまる全ての利用者の褥瘡に留意するのは当然ですが、恐らく各事業所内に「褥瘡対策委員会」というものが存在するかと思います。
その委員会で、スケールを使って褥瘡リスクに対するアセスメントや評価をしたりして、特に注意すべき利用者を特定していることと思います。
しかし、実際には2時間~3時間ごとに利用者の体位交換を行っていても、褥瘡が出来てしまうことがあります。
体位交換の時間間隔には利用者個々の状態によって、褥瘡の発生時間は変わってくるのです。
つまり、「どれくらいの時間間隔で体位交換をすればいいのか」ということにエビデンス(根拠)がないので、事業所や委員会から標準指定されている時間で体位交換を行っています。
(極端な話、5分に1回体位交換が出来れば褥瘡リスクは大幅に軽減しますが、職員にとっても、利用者にとっても「それはちょっと不憫な状態」です)
つまり「規定通り体位交換をしていても褥瘡は発生してしまう」というリスクは避けられないのです。
もちろん、体位交換でそのリスクを軽減させることが大切なわけですが、「どんなに頑張っても現状ではリスクをゼロにはできず、それを以て介護職の恥と言われる筋合いもない」ということになります。
介護職として大切なことは?
利用者に褥瘡が出来てしまうと、申し訳なく思ったり不憫に思ったりするのですが、本当に大切なことは
①早期発見
②初期段階での対応
になります。
①早期発見
排泄交換時や入浴時などに、利用者の皮膚状態の観察を行います。
皮膚が赤くなっていたり、剥離(はくり)していれば、すぐに看護師に報告を行います。
「早期発見」も介護職員の専門性のひとつです。
状態を確認し、必要に応じて看護師に報告しましょう。
②初期段階での対応
発赤だけの状態ならば、まだ初期段階です。
医療的な処置や薬が無くても「体位交換」で軽快することが可能になります。
皮膚剥離してしまっていれば軟膏の塗布やフィルム保護等の処置(看護師が行う)が必要になってくる場合もありますが、これも初期段階であれば体位交換と並行して行うことで軽快します。
体圧を分散させるベッドマットや座布団が使用できれば尚良しです。
要は「これ以上悪化させないこと」がとても大切なのです。
最後に
今回は「利用者に褥瘡が出来てしまうのは介護職の恥なのか」ということについて記事を書きました。
恐らく「注意喚起」「努力義務」として使われているのだと思われます。
しかし、何でもかんでも現場の介護職員に責任を押し付けられている風潮にはとても嫌悪感を感じています。
ですから「褥瘡は介護職の恥」などと言われることも嫌悪感を感じてしまうわけですが、実際には恥でも何でもなくて、「早期発見」や「初期段階での対応」の方が重要だということです。
もちろん、最初から褥瘡を発生させないことは大切です。
しかし「褥瘡の発生リスクは介護職員の対応だけではゼロにできない」ということがわかれば、謂れなき非難です。
まずは、正しい知識と介護技術を身に着け、褥瘡の対策には事業所全体で対応していくことが重要です。
コメント
元ですが、介護職を経験し、利用者家族からの厳しいチェックを要求され、少しでも褥瘡の傾向がある症状が見られた時は家族はもちろん上司からも厳しく叱責された道を通ってきた自分としては、「褥瘡は介護職の恥」という考え方は戒めも込めてアリだと思ってます。現在祖母の介護をしてますが、ショートから帰ってくると褥瘡が出来ている。それも発赤なんてもんじゃなく、しっとりとした皮向けで処置までしてある。何か変わりは無かったですか?と帰宅時に聞いても何も無し、就寝前の清拭のときに初めて気づくようなこともありました。
仰る通り、出来うる限りの万全を尽くしても出来るものは出来てしまいます。発赤の段階であたふたしてる余裕もそうそう無いであろう現場の苛酷さも、経験者として十分に理解しています。
が、認識の甘さを訝しみたくなるようなことがちらほらあると、「恥の考え」は必要だと思います。というか、介護職がプロたる所以をどこかで示すとしたら、褥瘡への危機意識くらいしか無いように思うのです。予防って、傍目には理解されにくいものです。治療のほうが見た目にもわかりやすいから重視されず評価もされにくい。そんなものに注力しても処遇改善されるわけでもない。でも、プロのサービスとして、今後介護職がもっと評価されていくには、恥の意識は各々持って取り組んでいただきたいものです。
>きつりさん
はじめまして、こんばんは~
コメントありがとうございます^^
介護職を経験されているんですね。
私は現状の「何でもかんでも介護職員の責任」という風潮には疑問を感じています。
褥瘡の件に関しても、明らかに落ち度があった場合は(例えば、体位交換をしていない、オムツ交換をしていないという結果、褥瘡ができた)、介護職員の恥と言えますが、ちゃんとしていても出来てしまう場合もありますので、全てひっくるめてしまうのはどうかと思います。
コメントを拝読して気になったのは、「報告がなかった」という点です。
それは明らかに落ち度かと思います。
ですから、「褥瘡は介護職の恥」ではなく、「褥瘡ができたことを家族に報告しなかったことが介護職の恥」ではないでしょうか。
報告をしなかった原因が「認識の甘さ」「褥瘡を恥と思っていないから」という理論づけのようですが、仮に褥瘡が恥だと認識していても報告をしない介護職員がいないとも限りません。
そうなると、「介護職員は恥を知れ」という十把一絡げのものではなく、事業所の体質や質の問題も大きいように感じます。
お答えになっているかはわかりませんが、以上になります。