介護サービスを利用するためには「要介護認定」で「要支援度」や「要介護度」を判定する必要があります。
「要支援は1~2の2区分」があり、「要介護は1~5の5区分」があり、合計7区分あります。
その区分ごとに、利用できる「介護保険の単位数」が決まっており、その限度内で介護サービスを利用することができます。
厳密にはもっと細かい制限があり、例えば「特養に入所できるのは要介護3以上」というものがそれに当たります。
つまり、「要介護認定」が介護保険制度下においてはとても重要な判断材料とされているのです。
今回は「介護保険制度破綻シリーズ第1弾」として「ねじれた介護現場」について記事を書きたいと思います。
要介護認定の実情
要介護認定について、その詳細を世間の人が知る機会が少なく勘違いしている人が多いのですが「認知症状がひどいから介護度が高くなる」ということではありません。
もちろん、本人や家族や介護者の聞き取りや、主治医意見書などからの情報提供によって「参考」にはされますが、あくまで「参考程度」です(認知症がなくても要介護5の人は多数存在します)。
介護認定の大部分はコンピューターによる一次判定の「1分間タイムスタディ・データ」というモノサシで決められています。
詳細な説明はとても専門的な内容になるので割愛しますが、厚労省ホームページの「要介護認定はどのように行われるか」をご参照下さい。
※但し、介護保険制度の基本的知識が無い人が見ても恐らく理解ができないと思います。
要は「機械的で無機質な推測データ」によって大部分が決定するのです。
二次判定で、介護認定審査会の有識者がコンピューターの判定結果について「人間の感情を持って再検討する」わけですが、その所要時間は5分もありません。
膨大な数の要介護認定申請をこなすには、そんなに時間をかけられないのです。
そんな状況で「個々の詳細な事情を隈なく網羅した上で判定されているか」ということは甚だ疑問です。
実際問題、「結局は誰にもわからない」というのが実情ではないでしょうか。
特養では要介護3は敬遠される
そんな無機質な要介護認定のシステムなので、「特養入所は要介護3以上」という制限を国が定めたことで、更に在宅介護と施設介護を苦しめることになりました。
要介護3の人の入所を特養側が敬遠しはじめたのです。
その理由は「要介護3が要介護2とのボーダーライン」となるからです。
要介護3で特養に入所しても、次回の要介護認定更新で要介護2になってしまうと、特養を退所しなくてはならなくなるからです。
「終の棲家」のはずだった特養から出て行く必要があり、利用者にとっても家族にとっても、「寝耳に水、青天の霹靂」となってしまうのです。
次の棲み処を探す必要があり、見つからなければ在宅で介護をする必要があります。
「終の棲家」とは一体何だったのでしょうか。
施設側にとっても、退所手続きや処理などの手間が掛かり、退所されることで部屋が空くことになるので新たな入所者をピックアップして受け入れる必要が出てきます。
そんなことが繰り返されると、手間やコストが掛かる上に安定収入が見込めません。
ですから、出来るだけそういうリスクを避ける為に、初めから要介護3の利用者を入所させずに「要介護4や要介護5の利用者」だけをピックアップして入所させる方向にシフトしていきます。
施設側としても、要介護4~5の重度の利用者の方が介護報酬も多く算定でき、長く居続けてくれるので安定した運営がしやすいのです。
したがって「要介護3」は利用者本人も家族も施設も不幸にしてしまう存在になってしまったのです。
ねじれ国会ならぬ「ねじれ介護」
上院と下院で反目する政党が過半数の議席を得ている状態を「ねじれ国会」と言いますが、介護業界でも「特養の入所制限」によって矛盾した「ねじれ介護」が発生してきています。
国の方針では、出来るだけ自立支援を促し要介護度を軽くしていけるような介護方針が推し進められているのですが、同時に「特養の入所条件が要介護3以上」という方針を打ち出してしまったために、政府の方針と介護現場の実情がねじれてきてしまったのです。
要介護3の利用者を全く入所させないわけにもいかないので、もちろん特養には要介護3の利用者も存在します。
しかし、要介護2になってしまうと退所する必要があるので
「介護度が軽く(要介護2や1)ならないような介護をして欲しい」
「リハビリや自立支援を促さないで欲しい」
と希望する家族が出てきてしまうのは当然の流れです。
施設側も口には出さないものの
「介護度が2になりませんように」
と内心祈っている施設関係者が大勢いるのではないでしょうか。
いや、結構いるはずです。
「介護度が軽くならないように、又は高くなることを祈るなんて不謹慎で非常識な話」ですが、内心そういう考えが脳裏をよぎり祈ってしまっている反面、現場では自立支援を促し介護度を出来るだけ軽く低くする支援を行うという「ねじれた介護」が発生してしまっているのが介護現場の実情なのです。
最後に
ケアの質を上げ自立支援を促せば利用者の介護度が軽くなる半面、事業所の収入が減り利用者を追い出さなくてはならなくなるのが現在の介護保険制度になります。
正に「悪法」「失政」と言わざるを得ません。
そしてそういう状況では、本当に困っている人を支援できず「福祉」の概念からも外れてしまうことになります。
現在の介護保険制度は、無機質な要介護認定だけで利用者や家族の運命が激変してしまう非常に不安定な制度になります。
また、特養側も要介護3の利用者を避けなければ安定収入が得られず手間やコストが掛かってしまうのですから、本音と建て前の中で「ねじれた介護」が行われており、とても不健全な状態です。
以上の理由により、介護保険制度は破綻していると言えます。
コメント
政治家や上級国民連中にとってはねじれとか気にしてない関係ないでしょう。 国の負担が減って役立たずの老人が勝手に死ぬように仕向けるのが方策なんですから。
政治家&上級国民などの特権階級はお金があるんで関係ないし安心ですよね。
>匿名さん
「気にしていない」「関係ない」では困る人が出てくることが問題でしょうね。