私はよく「統一した介護」という言葉を使いますが、介護現場ではそれだけ重要なことだと思っています。
しかし、そこには問題点があって、「技術や能力や経験の少ない職員に合わせなければ統一できない」ということです。
つまり、新人職員や経験や知識が少ない職員がいた場合の「最大公約数が低い水準になってしまう」という問題です。
高い専門技術や水準で統一しようとすると
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という問題が発生します。
ひいては、ついていけない職員を排除してしまうことになり、益々人員不足になってしまいかねません。
そうならないように「統一した介護は一番出来ない職員に合わせる必要がある」ということになりますが、それではいつまで経ってもケアの質や水準が低いままです。
今回は「統一した介護は一番未熟な職員に合わせなければならないのか」ということについて記事を書きたいと思います。
介護技術や身体的な問題
まず抑えておかなければならないのは、経験や技術が未熟というものの多くは「介護技術」や「身体的な問題」であるということです。
対応方法や受け答え方法については、ある程度常識を持っていれば対応可能です。
「こう言われたらこう対応する」
「こういう時はこう対応する」
ということは経験や知識がなくても「情報さえ頭に入っていてそれをアウトプットできれば対応可能」なことです。
ですから、統一した介護の水準を考える必要があるのは「身体介護等の介護技術」である場合が多くなります。
例えば「移乗方法」などです。
これは例えベテランであっても「腰痛などの職業病やその他の持病など」で他の職員と同じ介助が出来ない場合もあります。
また、体が小さかったり、力が弱い職員が、他の職員と同じように一人で移乗などの介助が困難な場合もあります。
この場合、「統一した介護」をするとしたらどの職員を基準にするのが一番良いのでしょうか。
新人職員に先輩職員が「皆その人の移乗は一人でやっている」と言われ、実際にやってみたら転倒させてしまった!ということはあり得ます。
そしてそのことを先輩職員に報告すると「一人で無理なら何で他の職員を呼ばないの!」と叱責を受ける理不尽な状況は介護現場ではあるあるとなっています。
Twitterのフォロワーさんの「介護漫画」がもの凄く的を得ているのでご紹介しておきます。
介護施設での新人教育の仕方 pic.twitter.com/gMrmWMNnHx
— 晩御飯はありませんよ (@Lost_dinner) May 9, 2019
※ツイート主の「晩御飯はありませんよ(@Lost_dinner)」さんには事前にブログ掲載の許可を頂いています。他にも「介護あるある」的な漫画をツイートされていますので、興味がある方は是非!
しかしそれにしても、これでは「統一した介護」である以前に、介護現場の常識を疑ってしまいます(でも本当にこんなことがあるのです)。
未熟な職員に合わせた上で幅を持たせる
「統一した介護は一番未熟な職員に合わせなければならないのか」という質問の答えは「YES!」です。
全スタッフが実行可能なことでなければ意味がないのです。
しかし、「それでは介護の質や水準が上がらない」と思われるかもしれません。
そんな時こそ「介護に正解はない」という呪文を唱えればいいのではないでしょうか。
ケアプランに幅を持たせる
介護方法は介護支援専門員(ケアマネジャー)が作成する「ケアプラン(施設介護サービス計画書)」に記載されています。
そのケアプランに沿って介護サービスを提供するわけですが、例えば移乗方法に関して
「一人介助でトランスファー移乗を行う」
と書いてあるとどの職員もそうすることで統一した介護となります。
しかし、何らかの理由で「一人介助」で「トランスファー移乗」ができない職員がいた場合、統一した介護になりません。
この場合、出来ない職員に合わせて全員が「二人介助で行う」としてしまうのもつらいものがあります。
ですから、幅を持たせて、但し書きのようなものを付け加えれば良いのです。
「状況に応じて二人介助で移乗する」
この一文を付け加えることによって、一人介助で行っても二人介助で行っても「統一した介護」になるのです。
しかも、質や水準は保たれますし、未熟な職員の負担も減り事故も防げます。
職員の考え方に幅を持たせる
ケアプランを作成するのは施設ケアマネの仕事ですが、現場の介護職員もそういう選択肢があることを知っておく必要があります。
それによって、未熟な職員も守れますし、利用者も守れます。
また、「水準を維持した統一した介護」も行えます。
これこそ「三方良しの統一した介護」と言えるのではないでしょうか。
現場の対応に幅を持たせる
統一した介護では画一的なケアしか出来ないように感じるかもしれません。
しかし、利用者の体調や状態は日々変化していきます。
立位が取れていた利用者が急に立てなくなることだってあり得ます。
ですから、時として昨日とは違った臨機応変な対応をしなければならないこともあります。
大切なのは「画一的な介護」にこだわることではなく「現状の利用者の状態に合わせて情報を共有した介護を行うこと」です。
「統一した介護」も「現場の対応」も、利用者の状態に合わせて変化していくものだということを知っておく必要があります。
未熟な職員も含めてスタッフ全員がそのことを理解できていれば、現場の対応に幅を持たせることが出来るので「一定水準以上の臨機応変なバランスの取れた統一した介護が可能」になります。
要は「技術以前に取り組み方」が重要なのです。
最後に
今回は「統一した介護は一番未熟な職員に合わせなければならないのか」ということについて記事を書きました。
その答えは「一番未熟な職員に合わせつつ幅を持たせることが大切」という結論になります。
介護の質や水準を維持向上させていこうとするならば、新人や未熟な職員への配慮が必要です。
決して「新人ばかりだから質の高い介護ができない」「統一した介護ができない」ということではありません。
もしそんなことを言っている事業所や介護現場があるのだとすれば「統一した新人教育制度と新人を育てる能力のなさ」を自ら公言していることと同義なのです。