介護現場は利用者本位という方針や言葉がひとり歩きしていますが、実際は「家族最優先」となっています。
これは由々しきことだと思われるかもしれませんが、一言で言うならば「自然の摂理」です。
何故なら、
- 認知症などで意思疎通が図れない
- 在宅復帰をすることになると困る
- クレームの多くは家族から発生する
ということが往々にしてあるからです。
これを「利用者の希望を最優先するべきだ」という声もあるでしょうが、実際はどちらを優先とかではなくバランス良く対応していく必要があります。
もっと言えば、「利用者と家族の板挟みになりやすいのが介護職員の現状」だと言えます。
今回は、介護施設では利用者よりも家族の意向が優先されている実情について記事を書きたいと思います。
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介護施設では利用者よりも家族が優先される実情
多くの場合は利用者よりも家族の意向が最優先されるわけですが、介護職員は「利用者本位」という方針に基づいているために「矛盾」や「違和感」や「板挟み感」を感じることになります。
以下で詳しく見ていきたいと思います。
実情①:認知症などで意思疎通が図れない
介護施設では認知症のある利用者が多く、利用者本人が自分の主張やニーズを明確に伝えることができない状態であれば家族が代弁者として施設や職員に伝えることになります(認知症以外では、頭はしっかりしているものの発語や意思表示が上手くできない失語症の利用者もいます)。
しかし、いずれにしても実際に介護を受けるのは家族ではありませんし、介護を行うのも家族ではありません。
ですから、代弁とは言っても最終的には「家族の希望」であり、「家族として介護職員に行って欲しい介護である」と言えます。
そういった状況が常態化していくと、「利用者本人に聞く前に家族にお伺いを立てる」若しくは「最初から家族に意向を聞いたり承諾を得る」ということになります。
もちろん、介護職員としては本人に認知症があろうと本人の意向を尊重するような対応をしていきますが、最終決定者が家族である以上、「本人よりも家族の意向が優先される」のが実情です。
実情②:在宅復帰をすることになると困る
特養は「終の棲家(住処)」と言われている反面、「在宅復帰」という目標もある介護施設です。
ここで大きな矛盾が発生してしまいます。
制度上も、要介護3以上でなければ入所することができませんし、もしも入所中の利用者の身体機能や心身機能が回復して要介護2や要介護1などになった場合は、退所しなければなりません。
この「要介護度によって終の棲家から出ていかなければならない制度」は多くの人に負担と不安を与えます。
まず困るのは家族でしょう。
介護度が軽くなったからと言って、自宅に戻ってきたとしても介護が必要なことには変わりありません。
そうなると、居宅系の介護サービスを利用するための手続きも必要になってきます。
どうしても自宅で介護ができない場合は、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの入居系の施設を新たに探すことも必要になってきます。
本人にとっても、高齢になってから何度も住む場所を変えなければならず、たらい回しにされることは心身的に大きな負担となります。
こういった矛盾した制度の中で、「終の棲家から出ていくような事態にならないようにしたい」という気持ちになってもおかしくはありません。
もちろん、それは利用者本人のためでもあります。
しかし、だからと言って、「機能が回復するような介護は一切しない」「要介護3以上が保てるような対応をする」ということになれば不健全です。
制度について説明し理解を得ていけるようにしなければなりませんし、家族の生活状況や経済的な事情なども考慮しながら、各専門職が適切なフォローをしていく必要があります。
利用者本人のことを考えるが故に、まずは家族の意向を優先するという実情があります。
実情③:クレームの多くは家族から発生する
介護現場へのクレームの多くは家族からです。
実際に介護を受けている利用者は、認知症などがあり意思疎通が図れない場合が多いため、必然的にそうなります。
もちろん、正す必要がある所は正していく必要がありますが、中には「モンスタークレーマー」も少なからず存在するために、「まずは家族の意向を優先しよう」ということになりがちです。
提供している介護が、利用者にとっては良くても、家族にとっては良くないという場合もありますし、板挟みで苦しむのなら「家族の意見に比重を置く」という方法に偏ってしまうことでしょう。
「利用者のために介護をしているのか、家族のために介護をしているのか」がわからなくなってきますが、それが介護現場の実情と言えるのではないでしょうか。
バランス良く健全な介護を提供していくために、「家族が介護現場を理解する」ということは必須になります。
「お金を払っている」「プロに任せている」という権利者意識を振りかざすのではなく、「自分が介護をできない代わりにお金を払う役割に徹しているだけ」であり、「家族もケアチームの一員である」という認識が必要ではないでしょうか。
チームにおいては、一方を槍玉にあげるのではなく、擦り合わせを行い話し合いで最良の選択をしていくことが大切です。
最後に
今回は、介護施設では利用者よりも家族の意向が優先されている実情について記事を書きました。
介護現場においては、利用者と家族双方の意向をバランス良く取り入れていく必要があります。
どちらから一方に偏ってしまうと片手落ちになりかねません。
とは言え、介護という事業上、家族の意向が最優先されるのは自然の摂理であり、現場の一介護職員がどうすることもできないのも事実です。
矛盾の中で働いているのも介護の仕事の難しさだと言えます。