介護職員の求人で「高収入」を謳っているものを見ていると、肌感覚ですが「月収30万円以上可能」「年収400万円以上可能」というものが多いように感じています。
確かに、金額だけ見ると”介護職員としては”高収入と言えるのかもしれません。
もっと言えば、この金額で高収入と感じてしまうのだとすれば、それは「介護職脳」になってしまっていると言えます。
つまり、世間から見れば普通の収入金額の求人であるのに、介護職員から見れば高収入に見えてしまうのです。
しかも、〇〇万円以上”可能”という「可能」の二文字がくっついていることで、その金額がスタート地点のものではなく「ほぼゴール地点」だというところにことさら悲しみを覚えてしまいます。
もちろん、「それが業界の相場」と言ってしまえばそれまでなのですが、それならば高収入求人というよりも「低空飛行ながら安定している」という部分が最大のメリットだと言えます。
とは言え、「高収入はおいくら万円から」というはっきりとした定義はないため、個人の主観や価値観になってくるのも事実です。
もちろん、年収1000万円以上あれば正真正銘の高収入と言えますが、根も葉もないことを言えば「介護職員では到底到達できない年収金額である」と言っても過言ではありません。
今回は、介護職の高収入求人は月収30万円や年収400万円以上という金額であるのに対して、そもそも高収入って本当はいくらくらいの金額を指すのかを考えていきたいと思います。
介護職の高収入求人の注意点
高収入の考え方は個々の主観によって違ってくるために線引きが難しいのですが、その考え方については後述するとして、まずは介護職の高収入求人の注意点に言及しておきたいと思います。
注意点①:月収は手取りではない
殆どの人はご存知のことでしょうが、月収金額は手取り金額ではないことには注意が必要です。
月収とは、1か月当たりの総支給額のことです。
つまり、「基本給+固定手当+変動手当」の合算金額になり、ここから税金や各種社会保険料や親睦会費などが天引きされた金額が「手取り収入」になります。
ですから、「月収30万円の高収入求人とは言っても、手取りは30万円以下になる」ということになります。
天引きされる金額は社会情勢や事業所や人によって違ってきますが、月収30万円であれば手取りは22万円~24万円前後になるのではないでしょうか。
手取り22万円~24万円が高収入かと問われれば「そうは思えない」のですが、「介護職としては高収入」ということになるのかもしれません。
注意点②:月収ではなく年収で考える
このことについては何度も口を酸っぱくして言っていますが、高収入かどうかは月収ではなく年収で考えることが重要です。
何故なら、
- 月収金額にボーナスを12か月で割った金額も含まれている
- 月収金額は高く見えてもボーナスが支給されない
ということがあるからです。
この場合、年収に換算すると「今の職場と大差がない年収になる」というような求人であれば高収入求人とは言い難くなってしまうため注意が必要です。
例えば、月収30万円であってもボーナスが含まれていたりボーナスの支給が無い場合、「年収360万円」ということになります。
年収360万円の印象は「普通」です。
以下の記事に詳しくまとめていますのでチェックしてみて下さい。
注意点③:そもそもスタート地点の金額ではない
冒頭にも書いたように、高収入求人とは言ってもその金額がスタート地点の最低保証ではなく、あくまで「高収入も可能ですよ」というものの場合は注意が必要です。
要は、入職時は高収入とは言い難い安い給料の可能性があるということになります。
その辺のさじ加減は事業所の判断になるので、
- 能力や経験に応じて
- 社内規定により
- 実績や勤務状況に応じて
という不確定要素が大きい不明確な基準に身を委ねなければなりません。
そもそも、「高収入求人」とは言うものの、実際には「高収入の可能性」であり、高収入が約束されたものではない点には注意が必要です。
もっと言えば、「月収30万円=年収360万円」は決して高収入とは言えません。
高収入とは年収いくら以上?年収1000万円以上が正真正銘の高収入!
「高収入」とは実際問題、年収いくら以上を指すのでしょうか。
はっきりとした定義がないため個々の価値観で違ってきますが、以下で考えてみたいと思います。
①年収1000万円以上
介護職とか様々な職業の相場を度外視して「高収入ってどれくらい?」と考えた場合、パッと思いつく金額が「年収1000万円以上」ではないでしょうか。
単純に12か月で割った場合、「月収83万円~84万円」になります。
年収1000万円以上の介護職は見たことも聞いたこともありません。
国税庁が公表している「平成30年分 民間給与実態統計調査(PDF)」によると、年収1000万円以上の人は全体の5%未満となっています。
ごく限られた人しか得られない年収であるため、「年収1000万円は正真正銘の高収入である」と言えます。
②年収850万円(800万円)以上
年収850万円以上と聞いて思い出すのが、2020年1月から始まった年収850万円以上のサラリーマンを対象とした所得税の増税です。
単純に12か月で割った場合、「月収70万円~71万円」になります。
年収850万円以上の介護職の存在も聞いたことがありませんし、このクラスの求人を目にしたこともありません。
増税となった理由も「まずは高所得者の税金を増やそう」という考え方でしょうから「年収850万円は高収入である」と言えます。
もっと言えば、今後は年収800万円以上のサラリーマンを増税対象として見直していく方針ですので、「年収800万円以上も高収入である」と捉えられていると考えることができます。
③年収600万円以上
国税庁公表の「平成30年分 民間給与実態統計調査(PDF)」によると、年収600万円以上は全体の約20%になります。
働き蟻の法則(2-6-2の法則)は、2割はよく働き、6割は普通に働き、2割はサボるという法則ですが、これを全体の2割が高収入、6割が普通、2割が低収入という具合に置き換えて考えてみると「年収600万円がちょうど上位2割」になります。
単純に12か月で割った場合、「月収50万円」になります。
年収600万円クラスの介護職はごく稀に見掛けますが、ごく一部であるのも事実です。
そういった意味では、介護職にとってもサラリーマン全体にとっても「年収600万円は高収入である」と言えます。
ただ、介護職の場合はなかなか到達できない年収であり、仮に到達できたとしても「限界地点」になるのではないでしょうか。
働き蟻の法則については下記記事をご参照下さい。
④年収400万円以上
一般的に年収400万円は高収入とは言えないものの、介護業界においては「高収入の領域」と言えます。
ただ、全産業の平均年収は441万円となっているため、残念ながら「全産業の普通よりやや下が介護業界にとっては高収入」ということです。
単純に12か月で割った場合、「月収33万円~34万円」になります。
とは言え、年収400万円程度であれば、既に達成している介護職も多く存在しているのではないでしょうか。
そういう人達にとっては、次に目指すは「年収500万円」です。
そう考えると、介護職にとっても年収400万円は通過点に過ぎず年収500万円や前人未踏の年収600万円や700万円を高収入と呼べる水準になって欲しいのは山々ですが、闇深いのは年収250万円以下というワーキングプアレベルの介護職も少なからず存在するという点です。
要は「介護職や介護業界の中でも低水準同士で格差が存在する」ということになります。
介護福祉士資格者の平均年収は360万円と言われていますが、ワーキングプアレベルの収入の人と年収400万円や500万円を得ている人との格差が大きいため、「中央値(一番真ん中にある金額)は年収300万円ちょっと」になります。
つまり、「ワーキングプアレベルの介護士から見れば年収400万円は高収入に見え、既に年収400万円以上貰っている介護士から見れば当然の年収であり高収入には見えない」ということになろうかと思われます。
ですから、「年収400万円を高収入と謳ってしまう介護職の求人は、低い天井を自ら公言してしまう一種のネガティブキャンペーンである」と言えるのではないでしょうか。
最後に
今回は、介護職の高収入求人として月収30万円や年収400万円が謳われていることについて記事を書きました。
年収1000万円以上であれば正真正銘の高収入と言えますが、介護職(介護業界)の場合はその金額の半分にも満たない年収400万円が高収入と言われている現実があります。
残念ながら年収400万円は高収入とは言い難いものがあります。
とは言え、ワーキングプアレベルの介護職が存在する以上、人によっては年収400万円でも高収入に見えるという闇深さを感じています。
介護職の給料が安すぎるとかもっと上げろとか言う以前に、「年収400万円で高収入求人と言ってしまう業界は恥ずかしい」という結論になります。
まずは、全産業の平均年収である441万円を見据えた上で「高収入のあり方」や「介護職の専門性」について検討していって欲しいものです。