介護人材は業界全体で不足しているため介護職員の求人はいつでも募集されている状態です。
中には人員が満たされている事業所もごく稀にあるかもしれませんが、求人募集の常連となっている事業所が目立つのも特徴的です。
そんな介護職員を募集する求人票を見ていて気付くのは、「あまり詳細に書かれていない」ということです。
例えば、
- 処遇改善手当の有無やその金額や支給時期(特定処遇改善加算含む)
- 賞与は何か月分支給されるのか
- その他、業務手当や資格手当などの有無や金額
などです。
本当に人材を確保したいのであれば、しっかりと情報を書き込んで待遇の良さをアピールした方が集めやすいはずです。
今回は、ブログコメントにてそういった疑問を寄せていただきましたので、この記事で考察していきたいと思います。
(スポンサーリンク)
介護職員募集の求人票が情報不足である理由
2017(平成29)年に改正された職業安定法によれば、求人票に最低限記載しなければならない項目は以下になります(参考:厚生労働省「労働者を募集する企業の皆様へ(PDF)」。
- 業務内容
- 契約期間
- 試用期間
- 就業場所
- 就業時間
- 休憩時間
- 休日
- 時間外労働
- 賃金
- 加入保険(健康保険、雇用保険、厚生年金、労災等)
- 募集者の氏名又は名称
- (派遣労働者として雇用する場合は)雇用形態
また、指針として以下のような内容があります。
賃金に関しては、賃金形態(月給、日給、時給等の区分)、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給に関する事項等について明示すること。また、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金を定額で支払うこととする労働契約を締結する仕組みを採用する場合は、名称のいかんにかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金(以下このハにおいて「固定残業代」という。)に係る計算方法(固定残業代の算定の基礎として設定する労働時間数(以下このハにおいて「固定残業時間」という。)及び金額を明らかにするものに限る。)、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うこと等を明示すること。
【引用元】厚生労働省「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針」
以上を踏まえた上で、何故介護職員を募集する求人票には情報不足のものが多いのかを考えていきたいと思います。
理由①「手当や賞与を支給しないかもしれないから」
求人票に明示した以上は、その通り労働者(介護職員)にも支払わなくてはなりません。
この場合、「ひょっとしたら支給しない可能性があるため明示していない」ということが考えられます。
もちろん、残業をした場合は残業手当を支払う必要はありますが、その他の処遇改善加算手当などの場合は明示されていないことも多々あります。
求人票に明示した上で支給しなかった場合は、指針に違反することにもなりかねません。
ですから、不確定要素が大きいため求人票に明示していないということになります。
理由②「できるだけ支給額を減らしたい」
前述した通り、求人票に詳細に書いてしまった場合は、それ以下の待遇や支給額になるわけにはいかなくなります。
事業所としては「できるだけ人件費は安い方がいい」という考え方は当然あることでしょう。
そこまではまだ理解ができるのですが、「安い人件費で資質の高い介護職員を求めている」のだとすれば少々問題があります。
何故なら、それでは「やりがい搾取」以外のなにものでもないからです。
理由③「人材を見てから決めようと思っている」
ひょっとしたら、とりあえず確定している条件だけ求人票に書いておいて、雇い入れてから良い人材であれば手当や待遇を上げていこうと考えている可能性もあります。
しかし、求職者はそこまで腹の底は見えませんから、情報不足の求人票を見て募集しようとは思わないことでしょう。
情報不足の求人票に応募をしてくる「情報弱者の求職者」に対してクモの糸を張っているということになります。
そもそもの「隠蔽体質」ということもあるのかもしれません。
理由④「地域の中で右にならえをしている」
よくよく求人票を観察してみると、どの事業所も似たり寄ったりの傾向があることに気づくのではないでしょうか。
つまり、地域の中で求人票の内容や待遇や手当などを各事業所で右にならえをしているということもあると考えられます。
ここで、他の事業所よりも抜きんでた待遇を示せれば人材確保がやりやすくなるのですが、実際問題「本当にどの事業所も似たり寄ったりなのでそれができない」のです。
もっと言えば、介護人材を確保するために良い条件で募集してしまった場合、既存の今働いている介護職員全員の待遇も見直していく必要があります。
そうしなければ、新人職員の方が今働いている介護職員よりも待遇が良く給料も高くなってしまう可能性があるため、既存の介護職員たちから不満が出たりモチベーションを保てなくなってしまうという不健全な状態になりかねないからです。
しかし、それをすると益々人件費がかさんでしまうため出来ません。
そうなると、当たり障りのない範囲で地域の中の平均的な水準に右にならえをしているのです。
理由⑤「現場にしわ寄せをしておけばいいという考え」
人材不足だと言っても、経営者などが実際に介護現場で働いているわけではありません。
今いる介護職員が自己犠牲を払って頑張ってくれればそれで何とか現場は回ります。
つまり、今のままでも経営者自身は痛くも痒くもないのです。
一度に大量に退職者が出てしまったり、介護職員全員が退職するなどの非常事態が起こらない限りは、現状でも何とか介護職員にしわ寄せすることで運営できているため、「本気度が低く危機感もない」のです。
情報不足の求人票には、経営者や事業所側の「本気度とリスクマネジメント能力の低さの象徴」と言えるのかもしれません。
そして、そんな事業所に入ってしまえば自分もその餌食となってしまう危険性もあり得るのです。
最後に
今回は、介護職員を募集する求人票が情報不足のものが多い理由について記事を書きました。
求職者にしてみれば、情報が詳細に書いてあってできるだけ待遇が良いところを選びたいという気持ちがありますが、その情報も待遇も結局は似たり寄ったりの事業所が多いのが現状です。
また、求人票に書きたくても書けるほどのアピールポイントがないという可能性も考えられます。
介護人材を確保していくためには、求職者側だけでなくもっと事業所側の意識改革が必要なのではないでしょうか。