前回の記事で、介護現場でのリスク報告書は多い方が良いのか少ない方が良いのかについて解説しました。
まだ読んでいない人は下記記事をチェックしてみて下さい。
結論だけ言うと、「ヒヤリハットなどの気づきは多い方が良くて、アクシデントは少ない方が良い」という内容です。
しかし、そうは言ってもなかなかヒヤリハット報告書や気づきを増やしていくのが難しい状況があるのも事実です。
例えば、
- リスク報告書をネガティブなものとして捉える事業所や職場の雰囲気や環境
- 気づくことで報告書作成や対応などをしなければならず業務負担が増える
などになります。
リスク報告書をネガティブなものとして捉えている事業所は考え方を正していく必要があることは前回の記事で述べた通りですが、では、気づくことで業務負担が増えてしまうという現実はどう解決していけばいいのでしょうか。
今回は、業務負担に焦点を当ててヒヤリハット報告書や気づきを増やしていくための業務改善について記事を書きたいと思います。
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ひやり・はっと報告書や気づきを増やしていくための業務改善とは?
ヒヤリハット報告書や気づきは多い方が良いと言うものの、業務負担や精神的な負担が増えてしまうことも事実です。
では、どうすれば増やしていくことができるのでしょうか。
実際に私が働いている職場で実践している方法をご紹介したいと思います。
業務負担や精神的負担とは
そもそも、どのような業務負担や精神的負担が発生するのでしょうか。
一番大きな負担が「報告書の作成そのもの」です。
何故なら、報告書を作成する場合は、
- 発生日時
- 発見者(作成者)名
- リスクの区分
- 発生状況
- 発生後の対応
- 家族への連絡の有無とその内容
- 改善策
などを正確、且つ、具体的、且つ、わかりやすく記入していく必要があるため、時間が掛かってしまう上に精神的な負担も大きくなってしまうからです。
では、報告書を作成する際の負担を軽減するためにはどうすればいいのかを次にご紹介します。
ヒヤリハットを2つに分けて「気づき」にする業務改善
ヒヤリハットを更に2つに分けて、
- ヒヤリハット
- 気づき
という形にします。
1の「ヒヤリハット報告書」は今まで通りですが、2の「気づき報告書」は非常に簡易なものにしています。
また、気づきはヒヤッとハッとしなくても、自分が「これは新たな気づきだな」と感じた内容を箇条書きのようにして記入していきます。
例えば以下のような感じです(※利用者名と職員名は仮名です)。
発見日時 | 利用者名 | 内容 | 発見者 |
5月18日(月)16時30分 | 田中 次郎 | 歩行時に靴のかかとを踏んで歩いていた。声掛けし靴を履き直してもらう。 | 介護職員A |
5月20日(水)23時05分 | 山田 花子 | 訪室するとベッドに端座位になり靴を履こうとしていた。トイレの訴えあり介助を行う。 | 介護職員B |
5月21日(木)7時30分 | 笹木 トメ | 朝食の声掛けをするが「まだ眠い」と言われ様子を見る。 | 介護職員C |
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些細なことでも何か気づいたら、「発生日時」「利用者名」「内容」「発見者(対応者)」だけ箇条書きのように記入して書き溜めていきます。
この報告書には、リスク報告書のように「家族連絡」や「改善策」は不要です。
それだけでも業務負担がグッと減り、気づきの件数を増やしていくことが可能なのではないでしょうか。
そして、リスクマネジメントとして「職員間で情報の共有」も格段にしやすくなります。
ヒヤリハットと気づきの判断が難しいという問題
ヒヤリハットとは別に「気づき」という項目で箇条書きのように書き溜めていけば気づきの件数を増やしやすく、尚且つ、職員間で情報共有もしやすいということを前述しましたが、欠点があるとするならば「ヒヤリハットと気づきの判断が難しい」という点です。
両者の決定的な違いは、ヒヤリハットは「ヒヤッとしたりハッとした出来事」であるのに対して、気づきは「ヒヤッとしたりハッとしなかったがひとつの気づきになるような出来事」ということになります。
ですから、職員本人が「ヒヤリとしたか否か」ということを判断基準にするのが良いように思いますが、そうした場合「職員の価値観」「度胸や経験」などによって同じ出来事でも判断が変わってきてしまう可能性が出てきます。
例えば、利用者が1人で歩こうとしているのを発見した場合、職員Aはヒヤっとしたけど職員Bはヒヤっとはしなかったということは往々にしてあり得ます。
では、何を判断基準にすればいいのでしょうか。
判断基準①:リスクマネジメント委員会の判断に委ねる
事業所内にリスクマネジメント委員会があり、最終的な集計や個々のリスクの分析や改善策の検討をしています。
気づきとして提出した内容について、リスクマネジメント委員会で「これは気づきでいいのかヒヤリハットになるのか」という判断を出してもらい、もしも気づきからヒヤリハットに変更する必要があると言われれば修正や訂正や書き直しをする方法です。
修正や書き直しを指示されるた場合、あまり良い気はしませんし手間も掛かってしまいますが、あっても1件か2件でしょうし最初から全てをヒヤリハットとして報告書を作成するよりも業務負担や手間は少ないはずです。
判断基準②:上司やリスク委員などに聞く
気づきかヒヤリハットかの判断に迷った場合、上司やリスクマネジメント委員会の委員になっている人に「どちらになるのか」を尋ねてみるのも良いのではないでしょうか。
「その判断が絶対正しい」とまではいかないまでも、判断の信頼度は高くなりますし「上司やリスク委員などに相談してから作成した」という既成事実も作れます。
大切なことは「気づきを増やしてアクシデントを減らすこと」
気づきとヒヤリハットの判断に迷ったり、修正をしなければならないかもしれないという問題はつきまといますが、気づきを増やすことで最終的に目指しているのは、「アクシデント(事故)を減らすこと」です。
その目的のための過程として、
- 気づきやヒヤリハットの報告件数を増やす
- 職員間で情報を共有する
- 改善策を検討し実行する
- 実行した結果を分析したり評価する
- 改善策の精度を上げていく
という積み重ねをしていくことが大切なのです。
そのためにも多くの気づきが必要なのですから、職場内で気づきも含めたリスク報告書を作成・提出しやすい環境づくりをしていく必要があるのです。
最後に
今回は、業務負担に焦点を当ててヒヤリハット報告書や気づきを増やしていくための業務改善について記事を書きました。
最終的に「アクシデントを減らしていくこと」が目的ですから、まずは「現状の取り扱いがその目的から外れていないか」ということから考えていくことが必要です。
例えば、ベテラン職員にとってはいつものことでも、新人職員にしてみれば「目新しい発見」「大きな気づき」という場合もあり得ます。
個人的にはそういう内容であっても、その職員にとって気づきであったのなら「最終的にアクシデントを減らしていく1つの過程」として気づきであげて貰えればいいと思っています(この辺の判断は事業所や職場で変わってくるでしょうが)。
気づきを増やしていくための業務改善の1つの案としてご参考になれば幸いです。