ショートステイとは「短期入所生活介護」のことで、名前の通り利用者は介護サービス提供事業所に「短期間」入所して介護を受ける「居宅系の介護保険サービス」です。
しかし、実際の介護現場ではショートステイの利用日数が必ずしも「短期間ではない」利用者が存在します。
それが「ロングショートステイ」という利用方法なのですが、名前からしても「ロング(長期)」と「ショート(短期)」という対義語がくっついた謎の存在です。
「長期的に短期入所をする利用者」のことを指すのですが、「長期的に短期入所って…」本当、違和感しか感じません。
これは、「本来のショートステイの利用法としても謎だらけ」なのですが、
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という点について記事を書いていきたいと思います。
ショートステイの利用目的とロングステイ
本来、ショートステイはどのような利用目的をされるべきなのでしょうか。
そして何故、本来の利用目的を逸脱した「ロングステイ」という利用方法をされるのでしょうか。
ショートステイの利用目的
ショートステイの本来の利用目的は、
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などに利用するサービスです。
どの利用目的も「一時的」「定期的」若しくは「緊急時」なのであって、「長期的な利用」は想定されていません。
ロングショートステイの利用目的
ロングショートステイの主な利用目的は
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になります。
特養の順番待ちでショートステイに入所してきた利用者は、特養に入所するまでショートを利用するので ロング(長期間)滞在する事が殆どなのです。
この状態での利用方法が通称「ロングショートステイ」と呼ばれています。
介護保険制度上の長期利用減算と特養への入所待ちが必要な理由
介護保険制度上、ロングショートステイはどういう取り扱いになっているのか、何故特養の入所待ちでロングショートステイを利用する必要があるのか、について書いていきます。
介護保険制度上の取り扱い
早々に特養の入所が決まり、ショートステイをすぐに退所になることもありますが、滅多にそれはありません。
30日を超えて利用する場合は、一旦ショートステイを退所して自宅などへ帰り、また翌日からショートを利用するという「抜け道の手口」を使い、「本来のショートステイの利用方法は逸脱していないですよ」という表面上の体裁を繕う場合も往々にしてあります。
しかし、早々に特養入所が決まるのは本当にごく稀なので、大多数のそういう利用者は「ロングショートステイ」を利用する事になります。
「30日」という期間には意味があって、介護保険制度上、下記のように定められています。
1.短期入所生活介護の長期利用者に対する減算
連続して30日を超えて同一の指定短期入所生活介護事業所に入所(指定居宅サービス基準に揚げる設備及び備品を利用した指定短期入所生活介護以外のサービスによるものを含む。)している場合であって、指定短期入所生活介護を受けている利用者に対して、指定短期入所生活介護を行った場合、所定単位数から30単位の減算を行う。
【平成27年度改正の介護報酬より引用】
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ということになります。
※1単位の金額は地域によって差がありますが、概ね10円だと思って下さい。
こういう規定があると、ショートステイをロングで利用するということをやりにくくなるはずですが、逆に考えれば「事業所は、ひと月約9000円」「利用者は1日分だけ約1万円」でロングショートステイをやり放題だということになります。
たかだか1万円前後では全く抑止力にもなりませんし、ゆくゆく特養に入所することを思えば、多少コストが掛かったり減算をされたとしても、一旦自宅に帰り家族が介護したり、他の事業所のショートを掛け持ちしたりする煩雑さを考えれば「ロングショートの方がお得」という摩訶不思議なフリーパス状態となっているのが現状です。
現在の国や行政の方針は「施設から在宅へ」「在宅介護の推進」であるはずなのに、ショートステイを施設へ送り込むための「スケープゴートにしている」と言っても過言ではありません。
特養の入所がなかなか決まらない理由
特養は常に「入所待ちの人たちでいっぱい」というイメージがありますが、それに拍車を掛けたのが「特養の入所条件が要介護3以上」になったことです。
条件がついたことでハードルが上がっただけでなく、特養側が要介護3を敬遠するようになりました。
特養が欲しいのは「要介護4~5」の利用者です。
また、特養と同じ法人のショートステイを利用させることで密かに「事前審査」をしています。
詳しくは下記記事をご参照ください。
また、自立支援を促す必要がある介護現場が「特養の入所条件を要介護3以上」にしたことで、ねじれてしまいました。
不健全な状態が介護現場で行われていることになります。
詳しくは下記記事をご参照ください。
最後に
今回は「ロングショートステイという謎の利用方法」について記事を書きました。
一番気の毒なのは、「在宅介護と特養の中間地点に置かれたショートスタッフたち」です。
本来、在宅介護を支えるために支援を行うはずのショートスタッフは、「既に特養入所待ちで在宅復帰を目的としない利用者を介護する」ことになるのです。
利用者がショートステイでの生活に馴染み、職員にも環境にも慣れてきた頃に特養に入所してしまうので、「利用者の自立支援の為の介護なのか、特養に送り込む為の介護」なのか、甚だ疑問です。
事業所側には多少減算されても「ショートステイの稼働率を維持できる」という倫理的にも道徳的に反するメリットがあります。
それが現在の介護保険の理念や方針に逸脱し存在意義を否定しているであろうことは明白です。
経営者や管理者の責任を問うていくべきだと思いますし、それ以前に国や行政として、現在もロングショートステイを野放し状態にしている事は「自らの政策や方針を自らで否定するという摩訶不思議な状態を作り出している」ことに早く気づいて欲しいと思います(実際はもう気づいているけれど、野放し状態なのでしょうが)。