出羽守(でわのかみ)という言葉をご存知でしょうか。
あまり聞き慣れない言葉ですが、出羽守とは「海外や他業界などを引き合いに出して語る人」のことを指します。
例えば、「海外での介護は~」「介護業界だけでなく他の業界であっても~」などと言う人です。
特筆すべきは、「比較すること」「引き合いに出すこと」を指しているのではなく、そういう発言をする「人」を指している言葉であるため、多くの場合は揶揄の気持ちを込めて使われます。
ですから、もっと言えば「海外や他業界と比較することで「自分は凄く良いことを言っている」と酔いしれているんだろう?」という侮蔑や嘲笑の意味が込められている場合もあるのです。
確かに、介護業界でも出羽守に該当する人を見掛けたりもします。
そこでよく引き合いに出されるのが「海外」です。
個人的には比較対象として引き合いに出すのは自由にして貰ったら良いと思っているのですが、例えば「他人の意見にマウントするため」であったり、「話の流れとは関係なく唐突に」というパターンの場合は、揶揄の気持ちを込めたい時もあるのも事実です。
今回は、介護業界で見掛ける出羽守が引き合いに出して語られがちな海外3選をご紹介したいと思います。
介護業界の出羽守が引き合いに出して語られがちな海外3選
それでは早速、介護業界で見掛ける出羽守が引き合いに出して語りがちな海外3選をご紹介していきます。
①フランス
フランスの介護と言われてまず思いつくのが「ユマニチュード」です。
「認知症の周辺症状が改善する魔法のような介護技法」と言われセンセーショナルに日本の介護に取り入れようとされてきたユマニチュードはフランス発祥になります。
「見る」「話しかける」「触れる」「立つ」の4つを基本に、約150の技術から構成されている認知症ケアの技法ですが、よくよく考えてみれば、それらの多くは既に日本の介護現場でも当たり前のケア方法として実践されているものも多々あります。
また、「お国柄」や「文化」や「生活習慣」など国ごとで様々なものが異なるのですから、そっくりそのまま取り入れてしまうのはあまりにも早計ですし思考停止を招くことにもなりかねません。
それでもやはり、介護業界では「フランスでは~」「フランス発祥のユマニチュードは~」と言う出羽守が散見されます。
②スウェーデン
福祉大国と言われているスウェーデンなどの北欧の介護と日本の介護はよく引き合いに出して語られがちです。
確かに、医療福祉や教育制度が充実していて、介護士の待遇も日本よりも良いのは事実です。
学ぶべきところもあるのでしょうが、やはり「お国柄」や「国民性」が違いますし、そもそも「人口」や「税率」が全く違います。
スウェーデンの人口は1000万人ちょっとなので、日本の10分の1以下です。
東京都の人口が1300万人超えですから、人口だけで言えばスウェーデンという1つの国は東京都よりも300万人ほど少ないのです。
人口が少なければ統治もしやすいでしょうし(もちろん、一概には言えませんがあくまで統治規模で考えた場合です)、日本の介護モデルと引き合いに出してしまうのは少々強引です。
また、税率もスウェーデンは消費税が25%、所得税は累進課税で月給換算で25万円~60万円の場合31%となり合計56%です(月収によって更に細かい税率がありますが割愛します)。
日本の場合は、消費税が10%、所得税は累進課税で5%~45%で合計15%~55%です。
所得税を23%以上取られるのは年収695万円以上の人ですから、多くの日本人の所得税は20%以下又は23%になります。
そうなると、消費税と所得税の合計は30%以下~33%になります。
つまり、スウェーデンは日本より税率が高く、その分を医療福祉や教育などに手厚く還元しているため、両者の社会保障制度や介護モデルを引き合いに出しても仕方が無い部分が大きいのではないでしょうか。
しかし、介護業界では度々スウェーデンやデンマークなどの北欧の介護が引き合いに出されています。
③ドイツ
日本が2000年に介護保険制度を創設した際にそのシステムを参考にしたと言われているのがドイツの介護保険システムと言われています。
ですから、自ずと制度が似ているため引き合いに出されて語られたりもしますが、異なる部分も多々あります。
ですから、前述したフランスやスウェーデンなどの北欧に比べると出羽守が口にする頻度は低いものの、それでも引き合いに出されがちな国であるように思います。
最後に
今回は、介護業界で見掛ける出羽守が引き合いに出して語られがちな海外3選をご紹介しました。
これらの国以外にもよく見掛けるのは、「イギリス」「アメリカ」「オランダ」「中国」などでしょうか。
出羽守の特徴としては、「海外はこんなに日本より進んでいる」「それを知っている自分は凄い」ということを言いたいことが見え透いてしまっているということです。
もちろん、そうでない場合もありますが、お国柄や国民性や文化や国土や人口や税率などの条件が違う国の制度ややり方を同じ土俵に乗せて議論してもあまり意味がなかったりします。
「海外では~」などと言う前に、現状と現実を受け止めて今できることを地道にやっていくことが大切です。
コメント
今後類似の記事の時に手数でなければでいいので、税収を引き合いに出すときは、その還元率とでもいえるようなものも一緒に提示できないでしょうか?
もっとも自分で調べろと重々承知ではありますが・・・
本記事で言えば、スウェーデンの部分のような時にです。
趣旨にはズレますが、良くも悪くもこうした海外への憧れ?出羽守に対する反対論でもたびたびその税収違いが引き合いに出されます。
日本は介護医療のみならず還元率は低いのは言わずもがなでしょうが、その金額/割合はあまり聞きませんし、その海外の徴税は高いと口にするだけで100%中の税収の中で介護医療にいくら/割合を還元されたかって聞きませんし。
>めど立てたい人さん
こんにちは~
コメントありがとうございます^^
税収の還元率について、可能であれば提示するようにはしたいと思いますが、税収の医療福祉や社会保障などへの還元率と国民個人への様々な方法や名目での還元があり、またその還元期間も様々で、各々重複している部分もあるため、「全体の何パーセントを医療福祉に還元している」と明言しづらく、「徴税が高いが国民への還元率が高く医療福祉への保障も手厚い」という複合的な表現方法になってしまいますね。
至らぬ点もありますので、もしご自身でお調べになってわかったことがありましたらコメント欄などでご教示頂けましたら幸いです。
こんばんは。
海外では…..北欧では….この類のトークを多用しがちな介護スタッフは、自分が海外の介護情勢に詳しいことをアピールしたいのかもですが、僕の洞察では、「海外ではトーク」の多い介護スタッフの言いたいことは、労働環境的に日本の介護事情が北欧のように良くなってほしいという希望というか、願望というか、そういうニュアンスを感じます。しかし人口も介護の社会的コストの財源の税金も日本と北欧とではまったく条件が異なるので単純比較はできず、安易に「海外ではトーク」をして日本の介護は遅れてる、だからもっと労働環境と介護のクオリティを良くできるはずというのは考えが浅いですよね〜
>リカルボンさん
こんばんは~
コメントありがとうございます^^
そうですね、「介護現場をより良くしよう」という気持ちが根本にある場合が多いのでしょうね。
そして、その中には「介護職の労働環境をより良くしたい派」と「海外を見習ってもっと意識を高く持って身を粉にして働こう派」の2つがあるのは間違いありませんね。
前者と後者は同じようで全く違うベクトルであるところが特徴的ですね。