新年明けましておめでとうございます。
2021年最初の記事となります。
今回は(も)リクエストを頂戴しましたので、「利用者からの介護職員への暴力やハラスメント」について記事をまとめていきたいと思います。
尚、利用者から職員への暴力やハラスメントについては、過去記事でも何度か触れてきています。
ですから、この記事では総まとめとして過去記事にも触れながら「介護職員が利用者から暴力やハラスメントを受けた場合の対処法」についてご紹介していきます。
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【総まとめ】介護職員が利用者から暴力やハラスメントを受けた場合の5つの対処法
ニュース報道などで度々「介護職員による利用者への虐待や暴言暴力」について目にすることがあります。
しかし、実際の介護現場では「利用者による介護職員への暴力やハラスメント」が存在し、その数や頻度は介護職員による利用者への虐待などよりも遥かに多いのです。
そういった問題は報道されないばかりか、職場内で揉み消されたり、酷い場合は「介護職員の対応方法が悪いから利用者から暴力やハラスメントを受けるんだ」などという踏んだり蹴ったりの結果になってしまうことがあるため、なかなか日の目を見ることがありません。
つまり、多くの被害職員は「泣き寝入りをしている」というのが実情なのです。
そんな環境が常態化していれば、お世辞にも職場環境が良いとは言えません。
では、どういう対処法があるのでしょうか。
以下で詳しくご紹介していきます。
対処法①:上司や事業所全体で対策を講じる
一番健全でオーソドックスな対処法が、「上司や事業所全体で対策を講じる」という方法です。
利用者からの暴力やハラスメントの事実はハッキリしているのですから、現場職員に丸投げしたり責任を押し付けて泣き寝入りをさせるだけでは何も解決しません。
本当に解決していこうとするならば、やはり上司や事業所の介入が必要不可欠です。
この一番健全で必要不可欠な対処法が機能してこなかった結果が、現状の「現場職員の泣き寝入り」ではないでしょうか。
次回(2021年)の介護報酬改定の中にも介護職員に対するハラスメントの対策強化が検討されていますし、厚生労働省もYouTubeで「介護現場におけるハラスメントに関する職員研修」という動画をアップしているので、現場職員だけでなく事業所全体で対策を講じていく姿勢が重要です。
また、介護現場が「利用者の尊厳の保持という名の逆差別や治外法権や無法地帯」になってしまわないよう、事業所全体でできる具体的な対策について下記記事でご紹介していますのでチェックしてみて下さい。
対処法②:複数人で対応する
事業所全体での対策が重要であることを前述しましたが、そうは言っても結局は精神論で終わってしまったり、現場職員にしてみれば即効性や実用性が低い対策しかされない可能性もあります。
そんな場合に現場サイドで出来得るベターな対処法は、「暴力行為やハラスメントのある利用者の対応は複数人で行う」という方法です。
二人以上の職員で暴力利用者に対応することで、
- 被害を受けにくくなる
- 複数の目で事実を確認することができる
- 冷静な対応や判断ができる
- 責任や負担が1人に集中しない
- 複数人が証人となる
という効果があります。
人員不足でなかなか複数人で1人の利用者の対応をすることができなかったり、ワンオペ夜勤の場合は複数人で対応できないという懸念も残りますが、そこをクリアできないようではいつまで経っても介護職員を暴力やハラスメントから守ることはできないことでしょう。
暴力利用者に複数人で対応する方法については、下記記事でもご紹介していますのでチェックしてみて下さい。
対処法③:労災を申請する
この対処法は事後対応になりますが、利用者の暴力やハラスメントによって被害を受けてしまった場合は「労働災害保険(以下、労災)を申請」しましょう。
但し、申請は可能ですが労災がおりるかどうかはまた別の話となります。
労災が支給されるためには、診断書が取れるような身体的被害や疾病が存在していて、その被害が業務上発生したという因果関係を証明しなければなりません。
逆に言えば、それらの事実がハッキリしていて診断書や証拠もある場合は労災がおりる可能性が十分ありますので、泣き寝入りをせずに労災申請をしましょう。
労災申請については下記記事でも触れていますのでチェックしてみて下さい。
対処法④:安全配慮義務違反で事業所を訴える
さて、この辺りから対処法が少々穏やかではなくなってきます。
何故なら、「訴える」「裁判」「告訴」などが必要となってくるからです。
逆に言えば、そこまでしなければ泣き寝入りになってしまう可能性が高いという非常に手厳しい環境であると言えます。
まずここでご紹介するのは、事業所には労働契約法第5条と労働安全衛生法第3条1項に定められた「安全配慮義務」があるため、「利用者からの暴力やハラスメントを放置しているのは安全配慮義務違反に当たる」として訴える方法です。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
【引用元】労働契約法
但し、労働契約法は個別の労働問題や紛争の解決を目的とした私法であるため罰則がありません。
私法なのですから労基署もほぼノータッチですし行政指導の対象でもなく、自分で弁護士を雇うなりして民法上の
- 債務不履行(民法415条)
- 不法行為責任(民法709条)
- 使用者責任(民法715条)
などを主張して事業所と戦っていかなければなりません。
(事業者等の責務)
第三条 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。
【引用元】労働安全衛生法
労働安全衛生法は行政刑罰法規であるため、労基署もタッチしてきますし行政指導等の対象にもなり罰則もあります。
但し、第3条の安全配慮義務には罰則がなく、他の条文や法律に当てはめたり
- 事業者が予測できた可能性があったかどうか(予見可能性)
- 事業者が回避できた可能性があったかどうか(回避可能性)
という視点で裁判で争っていくことになります。
過去の判例では、長時間労働による過労死やうつ病で自殺をしたケース、パワハラによって精神疾患を発症し長期間休職したケースで安全配慮義務違反が認められています。
とは言え、そもそも弁護士を雇うこと自体がハードルが高いため、実際問題裁判までする人は殆ど居ないというのが現状でしょう。
しかし、「事業所には労働契約法5条や労働安全衛生法3条1項で安全配慮義務が定められていて、違反すれば損害賠償請求ができる可能性がある」という情報は知っておいて損はないですし、本気で自分への被害や侵害から身を守るための手段の1つとしての選択肢を増やすことにもなります。
また、弁護士の無料相談や弁護士費用を状況に応じて払いやすいように対応をしてくれる国立の法律案内所として「法テラス」というものがありますので、利用してみるのもいいでしょう。
まだまだ訴訟や裁判はハードルが高いとは言え、泣き寝入りがスタンダードな業界ではどう考えても健全とは言えません。
対処法⑤:警察に通報する
こちらも穏やかではない対処法ですが、あまりにも上司や会社が何もしてくれなかったり、被害が甚大な場合は「警察に通報する」「被害届を出す」「告訴する」という方法も脳裏をよぎります。
要は、暴力やハラスメントを行う利用者本人の責任を追及したり罪を償ってもらう対処法です。
但し、ここで問題となるのは「利用者に刑事上の責任能力があるのか」ということです。
責任能力が無ければ不起訴となりますし、そもそも被害の程度や状況証拠などによっては被害届すら受理してもらえない可能性もあります。
もっと問題なのは、業務上の被害や損害が発生した場合は、まずは上司に報告して判断を仰ぐのが普通ですから、上司や事業所が警察を呼ぶという判断をしなければ自分の判断で警察に通報するという判断がし難いという点です。
とは言え、認知症のある利用者が介護職員をハサミで刺したという事件では、事業所が警察に通報し利用者が現行犯逮捕されたというニュース報道もありました(下記記事参照)。
ですから、暴力やハラスメントのある利用者の対処法として「警察に通報する」という対処法も全くないというわけではありません。
最後に
今回はリクエストにお応えして、「介護職員が利用者から暴力やハラスメントを受けた場合の5つの対処法」について記事にまとめました。
訴訟や裁判や通報など明らかにハードルが高い対処法も含まれていますが、選択肢の1つとして知っておいても損はないでしょう。
本来であれば、事業所が「介護職員等を守るための対策や判断」「安全配慮義務の遵守」をしていけば少しずつでも歯車が合っていき職場環境も健全化していくのでしょうが、利用者の暴力やハラスメントで悩まされている職場では事業所側のそういう姿勢や配慮が欠如していると言っても過言ではありません。
「会社は守ってくれないし、かと言って訴訟や被害届を出すのもなぁ…」と思っている人の多くは泣き寝入りをした上に、最終的には辞めていってしまうことでしょう。
介護現場での働き手が守られる健全な環境であって欲しいものです。