以前、「介護現場で自分を守るための5つの方法」をご紹介しましたが、「モンスタークレーマー家族」と「ハラスメント利用者」から自分を守る方法については言及していませんでした。
というのも、この両者から身を守るためには、事業所や法人の方針や考え方に左右されるため、モンスタークレーマーやハラスメントを容認するような事業所であれば、介護職員に残された道は「泣き寝入り」しかないからです。
要は、業界そのものがあまりにも「利用者第一主義」「家族最優先」ということを意識し続けた結果、介護職員に対する違法行為や権利侵害を容認し横行させ、誰もやりたがらない職業にしてしまったと言っても過言ではありません。
ただ徐々にではあるものの「介護職員を守る環境づくり」を実行されている事業所や法人も増えてきているようです。
しかし、まだまだ介護職員に泣き寝入りをさせている事業所もあるのではないでしょうか。
極論を言えば、「そんな事業所はサッサと辞めるが吉」なのですが、仮に転職したとしても同じような方針の事業所である可能性が低くないところが闇深く悩ましいわけです。
では、そういうモンスタークレーマー家族やハラスメント利用者から現場職員として出来ること、自分を守る方法はないのでしょうか。
以下で詳しく解説していきたいと思います。
(スポンサーリンク)
モンスタークレーマー家族から自分を守る方法
介護現場でありがちなモンスタークレーマーは、
- 異常に神経質で対応困難な過剰な介護を要求する
- 権利者意識が暴走し理不尽な内容や特別な介護を要求する
- 脅迫に近い内容で不当に金品を要求する
などになります。
こういった場合、現場介護職員としてはどうすればいいのでしょうか。
①上司に丸投げ
家族の対応をするのも介護職員の業務のうちではありますが、モンスタークレーマーの対応は業務外です。
普通のクレームかモンスタークレームかの判断に迷う場合もあるかもしれませんが、どちらにしても自分一人で全てを受け止め抱え込み責任を負わされるような状況は回避しなければなりません。
「私では判断致しかねますので上司に相談させて頂きます」
などと言ってその場で答えを出さないようにしましょう。
「上司に丸投げするのは無責任だ」と言う人もいるかもしれませんが、
- クレームを上司に相談するのは当然(そのための上司)
- その場で答えを出さないことはお互いが冷静になれる
- クレームは職場全体の問題
- 自分が全ての責任を負えるわけではない
ということを考えれば上司に丸投げするのが正解でしょう。
ひいては、自分を守ることに繋がります。
②無理なことは無理と言う(上司に)
モンスタークレーマーを上司に丸投げしたあとは、上司が判断したり上司の上司(管理者等)に相談するなどして何かしらの対応をするでしょうが、その内容が介護現場に重大な負担を要するものである場合もあります。
例えば、
- 絶対に転倒をさせてはならない
- 1日3回歩行訓練をさせる
などです。
24時間付きっきりの介護はできないため、利用者が人間である以上転倒はするでしょうし、介護現場の状況や人員配置によって1日1回しか歩行訓練ができない日もあり得ます。
そんな無理難題を安請け合いしてしまうと、できなかった場合に再びクレームとなってしまうことでしょう。
ですから、「無理なことは無理」とハッキリと伝えることが大切です。
もちろん、クレーマー家族にではなく上司にです。
そもそも、同じようなことを全ての利用者(家族)に言われたらどうするのでしょうか。
言った者勝ちを推進していくのが福祉ではないはずです。
介護現場では、
- 極力転倒しないように介護するが絶対ではない(転倒してしまうこともある)
- 1日3回の歩行訓練ができるよう努めるが状況によっては出来ない日もある(ひょっとしたら出来ない日の方が多いかもしれない)
ということを家族に伝え理解して貰う必要があります。
しかし、それが理解できないからモンスタークレーマーなのかもしれません。
重要ポイントは、「努力はするが絶対はない」「無理なものは無理」とハッキリと上司に伝えることと、伝えた日時を添えて録音しておくかメモをしておくことです。
③またクレームが入れば上司に丸投げ
介護現場で無理難題を強いられれば介護職員は疲弊しますし、より良い介護などできるはずもありません。
結局は、利用者が転倒してしまったり、歩行訓練も1日1回しかできない日ばかりになれば、またモンスタークレーマーはやってくることでしょう。
その際も、①の通り上司に丸投げしましょう。
その際、上司から何か言われた際は、②で残した証拠をもとに「〇月〇日に無理だと伝えたが、それを聞き入れずに強行したのはあなた(上司)ではないですか」「お陰で介護現場は滅茶苦茶になった、どうしてくれるのですか」「助けて欲しいのはこっちです」などと正しい怒り方で伝えれば良いでしょう。
要は、「自分の正当性を主張する」ことで自分を守るしかないのです。
その後、上司及び事業所がモンスタークレーマーを守るのか介護職員を守るのかはひとつの指標になります。
モンスタークレーマーを取るような事業所であれば、こちらから願い下げで良いのではないでしょうか。
ハラスメント利用者から自分を守る方法
介護現場での利用者からのハラスメントでありがちなのが、
- セクシャルハラスメント
- パワーハラスメント
- モラルハラスメント
などです。
要は、性的な言動や暴言や暴力になります。
こういう利用者がいた場合、現場介護職員としてはどうすればいいのでしょうか。
①複数人で対応する
現状で一番現実的な自分を守る方法が「複数人で対応する」という方法です。
2人以上の職員でハラスメント利用者に対応することで、
- ハラスメントをガードできる
- ハラスメントを共有し証拠にもなる
- ハラスメントに対する負担が軽減できる
というメリットがあります。
但し、
- 事業所の理解がないとできない
- 人員不足だとできない
- ワンオペ夜勤だとできない
という問題点があるのも事実です。
やはり、最終的には事業所や法人のバックアップが必要になってくるため、考え方が何周も遅れている時代錯誤の事業所では複数人での対応もできないかもしれません。
②診断書を取り労災申請する
未だに、「利用者が暴力を振るってしまうのは介護職員の技術が未熟だからだ」という風潮もありますが、仮にそうだとしても「だったら介護職員をどう守っていくか」まで言及していかなければなりません。
介護職員は使い捨てのボロ雑巾ではないのですから、「介護技術が未熟だから暴行や傷害を受けても仕方がない」「認知症なのだから責任能力がないから諦めましょう」という結論で終わってしまうのは異常です。
もしも、利用者からの暴力などで外傷や被害があるのに上司や事業所が何の策も講じない場合は迷わず診断書を取り労働災害の申請をしましょう。
経営者には従業員の安全配慮義務があります。
労災の申請は拒否できませんし、仮に労災認定されなかったとしても複数の職員から度重なる労災申請があれば、事業所の職場環境や安全衛生面について労基署も不審に思うことでしょう。
ちなみに、過去の経験では労災が3件続いたら労基署から労働環境と業務の見直しの行政指導が入り、事業所の対応が急変したことがあります。
介護職員を自発的に守れない事業所は「労災という正当な権利を主張して労基署に訴えていく」ことで、ここが法治国家であることに気づけるのではないでしょうか。
③証拠を残しておく
暴力などで診断書が取れれば労災申請もできますが、セクハラや暴言などの場合は診断書が取れません。
この場合は、しっかりと日時ややり取りなどを証拠に残しておき、まずは上司、それでもダメなら労基署などに相談をしましょう。
最近では、利用者からのケアハラスメントについても取り上げられるようになってきています(訪問介護での利用者からヘルパーへのハラスメント事件もありました)。
「ハラスメントを受け入れるのが介護」という発信をしているメディアもありますが、どう考えても違和感しか残りません。
「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル(厚生労働省老健局振興課:介護保険最新情報Vol.718(PDF)」でも、最終的には「事業所の環境づくりや取り組み」に重きを置いた内容ですので、時代錯誤の事業所であれば成す術がないのが現実かもしれません。
ただ、実際問題、現場レベルではできることは少ないのが現状ですが、証拠を残しておくことはいつか自分を助けることになることも十分ありますし、ハラスメントによって大きなストレスを受けているということであれば安全配慮義務違反にもなり得ます。
断言できる解決方法を示せないのは不本意ではありますが、こういった「確定的な救済措置がない現状が介護職員不足の一員でもある」と言えるのではないでしょうか。
最終的には、「介護職員を一切守ってくれないような事業所はサッサと辞めるが吉」でしょう。
最後に
今回は、介護現場のモンスタークレーマー家族とハラスメント利用者から自分を守る方法について記事を書きました。
最終的には「事業所や法人の環境づくりや取り組みに左右される」という性質のものですが、現場介護職員レベルで対応可能なことをご紹介しました。
モンスタークレーマー家族は上司に丸投げできますが、ハラスメント利用者はそうもいきません。
賢明な事業所が増えていってくれることを願いたいところです。