介護現場では、リスク報告書というものがあります。
リスク報告書は大きく分けて以下の3分類になります。
【リスク報告書】
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「ひやり・はっと」は、ミスや事故には至らなかったものの、一歩間違えればミスや事故になり得た「ヒヤッと」したことや「ハッと」気づいたことなどを記録し報告書にまとめます。
「インシデント」は、ミスは発生したものの、事故には至らなかったり、利用者に甚大な影響がなかった場合にその内容を記録し報告書にまとめます。
「アクシデント」は、ミスが発生し事故に至ってしまったり、利用者に甚大な影響が発生してしまった場合にその内容を記録し報告書にまとめます。
今回は、介護職員が「ひやり・はっと報告書」や「インシデント報告書」を書きづらい3つの理由と、書きやすくするための2つのポイントについて記事を書きたいと思います。
リスク報告書の目的
リスク報告書の本来の目的は、リスクマネジメントを行うためです。
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ということになります。
「ハインリッヒの法則」という労働災害における経験則がありますが、介護現場でのリスクマネジメントもこの法則を取り入れています。
一件の大きな事故・災害の裏には、29件の軽微な事故・災害、そして300件のヒヤリ・ハット(事故には至らなかったもののヒヤリとした、ハッとした事例)があるとされる。重大災害の防止のためには、事故や災害の発生が予測されたヒヤリ・ハットの段階で対処していくことが必要である。
【出典】ウィキペディア「ハインリッヒの法則」
ですから、ミスなどに気づいた職員がどんどんヒヤリ・ハットレポートやインシデントレポートを書けば「重大な事故を未然に防げる可能性が高くなる」はずなのです。
しかし、介護職員の本心は「リスク報告書は書きたくない、書きづらい」という思いを持っている人が多いのが実情です。
リスク報告書を書きづらい3つの理由
リスク報告書の作成も業務のひとつではありますが、何故介護職員は「書きづらい」と感じてしまうのでしょうか。
その理由を3つ挙げたいと思います。
理由①「作成する時間がない」
現場業務で手一杯なので作成する時間がありません。
家族連絡はもちろん、改善策まで考えて作成せねばならず結構な手間になります。
現場で残業をしたあとに、更に残業をしてリスク報告書を作成することも少なくありません。
休憩だって、利用者のいるスペースで見守りをしながら昼食を食べます。
もうこれは休憩とは言えませんが、多くの介護現場で普通に行われている実態ではないでしょうか。
そして、色々な悲劇が発生します。
男性スタッフが現場で愛妻弁当を食べようとしていると、不穏な利用者が振り回していた杖が弁当に当たり床にぶちまけてしまった。
床に落ちた弁当の中身を無言で拾い処分している男性スタッフが悲しい。
休憩は利用者の居ない空間で取れるようにしましょう!— 介護職員A@介護福祉士ブロガー (@kaigosyokuinA) June 4, 2019
介護職員がリスク報告書を「書きづらい」と感じてしまうのも無理はありません。
理由②「責任の追及をされたり犯人捜しになる」
リスク報告書の目的はわかっているものの、いざ作成すると上司から
「何故、そんな対応をしたんだ」
「誰がそんな対応をしたんだ」
「もっとマトモな改善策を書け」
「いつからそんな状態だったんだ」
などと言われ、本来のリスクマネジメントの目的から逸れて「個人攻撃」「犯人捜し」のようになってしまいがちです。
もちろん上司も本来の目的はわかっているものの、どうしてもリスク報告書ともなると神経質でピリピリした雰囲気になってしまいます。
そんな雰囲気では、「反省文」や「始末書」を書かされている気分になり、自分がミスをしたわけでもないのに
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ということになってしまいます。
誰しもそんな気持ちにはなりたくないですし、そんな気持ちで働いても良い仕事ができません。
介護職員がリスク報告書を「書きづらい」と感じてしまうのも当然です。
この場合、上司や会社の「雰囲気の悪さ」が原因です。
どこの事業所も似たり寄ったりで、事故やアクシデントには相当ナイーブな環境が取り払えずにいるのが現状と言えます。
新しい試みで「ヒヤリ・ハットやインシデントレポートを作成した職員には手当をつける」という画期的なシステムを設けている事業所もあるようです。
お金が全てではないですが、「自分が行っている業務が認められている」と感じるシステムは良いやり方だと思います。
理由③「本当の発生原因が書けない」
リスク報告書には発生原因やその原因に対する改善策を記入する欄があります。
よくよく考えてみれば、発生原因の多くは「人員不足が原因」ということに気づきます。
しかし、リスク報告書に「人員不足が原因」とは書けません。
「今いる人員でどうすれば防止できるかを考えろ」
という無茶ぶりが横行しているのが介護現場でのリスク報告書になります。
野球の試合で、スタメンが9人必要なところを、5人しかいないのに
「どうやったら5人でエラーをしないかを考えろ」
と言われているのと同じなのです。
最終的には、責任も改善策も改善策の実行も全て介護職員に押し付けることになり「四面楚歌状態」です。
本当の原因も書けず、責任を押し付けられるだけのリスク報告書を「書きづらい」と感じてしまうのは当たり前のことです。
リスク報告書を書きやすい雰囲気づくり
こういった、「介護職員がリスク報告書を書きづらい」という気持ちを払拭させるためには、事業所単位での雰囲気づくりが大切です。
そもそも、介護職員がそういう思いを抱いている時点で「リスク」なのです。
リスク報告書を書きやすくする雰囲気づくりのポイントを2つご紹介します。
ポイント①「気づき」を書き溜めてみる
「ひやり・はっと」より軽微な出来事を「気づき」という種別で書き溜めていく方法です。
気づきとは
「あれ?いつもと違うな」
「あれ?こんな言動初めて見た」
「あれ?こんなこともあるんだ」
などという「あれ?」を書き溜めていきます。
この報告書には
- 家族連絡
- 改善策
は不要です。
現場職員にとっては取っ掛かりやすく気軽に書き溜められるので負担が少ないのです。
もちろん、ヒヤリハットやインシデントがあれば今まで通り報告書を作成しなければなりませんが、「気づき」が増えれば
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というメリットがあります。
気づきの例としては
「夜間、ベッド下の靴を揃えて置いていたはずなのに巡回すると靴がバラバラに置いてあった」
などです。
この場合、
- 利用者が靴を履こうとした
- 利用者が靴を履いて移動した
という予測や可能性が考えられます。
そういったものを一覧表などにして書き溜めていくことも、大切なリスクマネジメントだと思います。
そして何より「介護職員の負担も軽減」します。
ポイント②上司や事業所の意識改革
現場単位で努力したり頑張っていても、上司や事業所の雰囲気や意識が凝り固まったままでは結局は前へ進みません。
現場で「気づき」を沢山書き溜めていっていても
「これは気づきじゃなくてインシデントだろ」
「インシデントに書き直せ」
と言われることがあります。
確かに内容によってはどちらかの判断が微妙なものがあり、その判断は「リスクマネジメント委員会」で行われます。
その判断は判断でいいのですが、
「その言い方なんとかなりませんか?」
ということです。
言い方に配慮できない人がいる事業所は総じて人員不足です。
人員不足であればリスクも発生しやすくなるでしょう。
極論で言えば、言い方に配慮できない上司がいるからリスクが発生しているのです。
- 人によって言われ方が違う
- 人によって求められる内容が違う
ということにならないように、判断する人間の統一した対応と倫理観の意識改革が必要になります。
最後に
今回は、介護職員がリスク報告書を書きづらい3つの理由と書きやすくするための2つのポイントについて記事を書きました。
何でもそうですが、介護職員に責任を押し付けてしまう風潮は変えていく必要があります。
健全な事業所運営のために、現場で発生した全てのことを事業所全体で考えて対応していくようにしなければ、リスク報告書を「書きづらい」と感じる介護職員は増える一方でしょう。
介護職員は現場の最前線で働いているので、リスクを発見したり遭遇する確率は他の職種よりも格段に高くなります。
まずは、報告書を作成する時間を確保できるように配慮して欲しいと思います。