介護保険制度における「住所地特例」をご存知でしょうか。
基本的に利用者(被保険者)が介護サービスを受けたり介護施設に入所や入居した場合は、「保険者は利用者が住所登録をしている居住地が原則(住所地主義)」となります。
保険者とは、市町村及び特別区のことを指します(以下、市町村)。
しかし、特養などの介護施設に入所している利用者の保険者は、実際に住民票がある市町村や介護施設のある市町村だけに限らず、様々な市町村であることがあります。
要は、それが「住所地特例適用被保険者」ということになるのです。
では、何故、住所地特例というものがあって、それはどういう基準で決められているのでしょうか。
ケアマネ試験の出題範囲でもありますし、実際にケアマネ業務や相談員業務をされている人は知っておかなければ実務に支障が出ますので当然ご存知でしょうが、まだご存知ない人に向けて「住所地特例」について詳しく解説していきたいと思います。
介護保険の住所地特例とは?詳しく解説!
介護保険制度における住所地特例とはどういうものでどういう目的があるのでしょうか。
以下で詳しく見ていきたいと思います。
住所地特例とは
住所地特例とは、被保険者である利用者が居住地以外の市町村にある介護施設等に入所や入居して住所変更した場合には、その介護施設等に入所(入居)する前の市町村が保険者となる特例措置のことを言います(住所地特例適用届は転出届と一緒に保険者となる住所変更前の市町村に提出する)。
住所地特例の対象となる介護施設は、
- 介護保険施設(介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健))
- 特定施設(有料老人ホーム、軽費老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(特定施設入居者生活介護の指定を受けているもの及び有料老人ホームに該当するサービス(介護、家事、食事、健康管理のいずれか)を提供するもの))
- 養護老人ホーム
- 介護療養型医療施設
などになります。
住所地特例の対象となる被保険者は、
- 65歳以上の人(第1号被保険者)
- 40歳以上65歳未満の医療保険加入者(第2号被保険者)
であり、「要支援・要介護の介護認定を受けている人に限られない」という点には注意が必要です(2016年第19回ケアマネ試験の問6に出題されました)。
ちなみに、要介護認定を受けていない第2号被保険者である我々には介護保険の被保険者証は交付されていませんが、要支援や要介護認定の申請をした場合、若しくは、被保険者証の交付を申請すれば交付されます。
話を戻しますが、住所地特例の理屈で言えば保険者がA市になった場合、入所した介護施設があるB市の介護保険サービス(例えば、訪問介護など)を利用することができずA市の訪問介護などを利用しなければならないことになってしまいます。
特養や老健などなら外部の介護サービスを利用することはないでしょうが、外部サービスを利用している有料老人ホームなどの場合は、「B市に施設があるのにA市のサービスしか使えない」ということになると色々と問題が起こってきます。
隣町や同じ都道府県内であれば、まだサービスの提供が可能かもしれませんが、A市とB市が相当遠距離の場合はA市からのサービスの提供が物理的時間的常識的にほぼ不可能な状態となってしまいます。
この点については、介護保険法第42条の2で解決できるように規定されています。
要約すると「住所地特例が(A市で)適用された場合でも介護施設の住所地(B市)にある地域密着型サービス(地域密着型介護老人福祉施設は平成17年の法改正により除外)を利用することができる」とされています(これも2016年第19回のケアマネ試験の問6と2011年第14回のケアマネ試験の問2に出題されました)。
少し長いですが、介護保険法に規定してある根拠条文を以下に記しておきます(パターン例もご紹介しながら順次解説していきますので、条文を読むのがつらい人は読み飛ばして下さい)。
(住所地特例対象施設に入所又は入居中の被保険者の特例)
第十三条
次に掲げる施設(以下「住所地特例対象施設」という。)に入所又は入居(以下「入所等」という。)をすることにより当該住所地特例対象施設の所在する場所に住所を変更したと認められる被保険者(第三号に掲げる施設に入所することにより当該施設の所在する場所に住所を変更したと認められる被保険者にあっては、老人福祉法第十一条第一項第一号の規定による入所措置がとられた者に限る。以下この項及び次項において「住所地特例対象被保険者」という。)であって、当該住所地特例対象施設に入所等をした際他の市町村(当該住所地特例対象施設が所在する市町村以外の市町村をいう。)の区域内に住所を有していたと認められるものは、第九条の規定にかかわらず、当該他の市町村が行う介護保険の被保険者とする。ただし、二以上の住所地特例対象施設に継続して入所等をしている住所地特例対象被保険者であって、現に入所等をしている住所地特例対象施設(以下この項及び次項において「現入所施設」という。)に入所等をする直前に入所等をしていた住所地特例対象施設(以下この項において「直前入所施設」という。)及び現入所施設のそれぞれに入所等をすることにより直前入所施設及び現入所施設のそれぞれの所在する場所に順次住所を変更したと認められるもの(次項において「特定継続入所被保険者」という。)については、この限りでない。
一 介護保険施設
二 特定施設
三 老人福祉法第二十条の四に規定する養護老人ホーム2 特定継続入所被保険者のうち、次の各号に掲げるものは、第九条の規定にかかわらず、当該各号に定める市町村が行う介護保険の被保険者とする。
一 継続して入所等をしている二以上の住所地特例対象施設のそれぞれに入所等をすることによりそれぞれの住所地特例対象施設の所在する場所に順次住所を変更したと認められる住所地特例対象被保険者であって、当該二以上の住所地特例対象施設のうち最初の住所地特例対象施設に入所等をした際他の市町村(現入所施設が所在する市町村以外の市町村をいう。)の区域内に住所を有していたと認められるもの 当該他の市町村
二 継続して入所等をしている二以上の住所地特例対象施設のうち一の住所地特例対象施設から継続して他の住所地特例対象施設に入所等をすること(以下この号において「継続入所等」という。)により当該一の住所地特例対象施設の所在する場所以外の場所から当該他の住所地特例対象施設の所在する場所への住所の変更(以下この号において「特定住所変更」という。)を行ったと認められる住所地特例対象被保険者であって、最後に行った特定住所変更に係る継続入所等の際他の市町村(現入所施設が所在する市町村以外の市町村をいう。)の区域内に住所を有していたと認められるもの 当該他の市町村
3 第一項の規定により同項に規定する当該他の市町村が行う介護保険の被保険者とされた者又は前項の規定により同項各号に定める当該他の市町村が行う介護保険の被保険者とされた者(以下「住所地特例適用被保険者」という。)が入所等をしている住所地特例対象施設は、当該住所地特例対象施設の所在する市町村(以下「施設所在市町村」という。)及び当該住所地特例適用被保険者に対し介護保険を行う市町村に、必要な協力をしなければならない。
【引用元】介護保険法
(地域密着型介護サービス費の支給)
第四十二条の二
市町村は、要介護被保険者が、当該市町村(住所地特例適用被保険者である要介護被保険者(以下「住所地特例適用要介護被保険者」という。)に係る特定地域密着型サービスにあっては、施設所在市町村を含む。)の長が指定する者(以下「指定地域密着型サービス事業者」という。)から当該指定に係る地域密着型サービス事業を行う事業所により行われる地域密着型サービス(以下「指定地域密着型サービス」という。)を受けたときは、当該要介護被保険者に対し、当該指定地域密着型サービスに要した費用(地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護及び地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護に要した費用については、食事の提供に要する費用、居住に要する費用その他の日常生活に要する費用として厚生労働省令で定める費用を除く。以下この条において同じ。)について、地域密着型介護サービス費を支給する。ただし、当該要介護被保険者が、第三十七条第一項の規定による指定を受けている場合において、当該指定に係る種類以外の地域密着型サービスを受けたときは、この限りでない。
【引用元】介護保険法
住所地特例の目的とは
住所地主義を原則としている介護保険なのに、何故、わざわざ事務処理を複雑にするような住所地特例などというものがあるのでしょうか。
その目的は、「全てを住所地主義にしてしまうと介護施設のある市町村に被保険者が集中し、その市町村の介護保険の給付費が極端に多くなってしまうという不都合や財政の圧迫を防ぐため」です。
要は、全ての被保険者が介護施設のある市町村を保険者としてしまうと、
- 介護施設の数やキャパシティが大きい市町村ほど保険給付額が多い(財源が足りなくなっちゃうよ~)
- 介護施設の数やキャパシティが小さい市町村ほど保険給付額が少ない(財源に余裕たっぷり~)
ということになってしまうからです。
それが許されてしまうと、極端な話「うちの市町村は介護施設の数を減らして財源の支出を減らそう」という不平等、不公平、不健全、不適切な状況にもなりかねません。
ですから、「利用者の保険者は以前に住所があった市町村とする」という住所地特例があるのです。
住所地特例のパターン例
住所地特例は「以前の住所地を保険者とする」ということでしたが、実際の介護現場ではそう単純で簡単なパターンばかりではありません。
色々な生活環境や生活歴を持った利用者がいるため、例をあげてご紹介しておきます。
※ここで言う「介護施設」とは、「住所地特例の対象となる介護施設」を指します。
パターン①:居宅から他市町村の介護施設へ入所した場合
一番基本的な住所地特例のパターンです。
【A市の居宅】→(住所変更)→【B市の介護施設へ入所】=【A市が保険者】 |
A市に住民票がある利用者が、B市にある介護施設へ入所し住民票もB市に移した場合は「A市が保険者」になります。
「B市の住民になっても、介護施設に入所した場合は介護保険の保険者はA市のまま」なのです。
パターン②:居宅から他市町村の居宅へ引っ越して更に他市町村の介護施設へ入所した場合
居宅での引っ越しを2回以上したのちに介護施設に入所したパターンです。
【A市の居宅】→(住所変更)→【B市の居宅】→(住所変更)→【C市の介護施設へ入所】=【B市が保険者】 |
引っ越しを2回以上して、居宅(家での生活)を渡り歩いた場合は、「介護施設に入所する1つ前の市町村が保険者」になります。
上記の例で言えば、「最初はA市に住んでいて最終的にC市の住民になってもB市が保険者になる」のです。
何故なら、「最後に居宅だったのがB市だから」です。
パターン③:居宅から他市町村の介護施設を2か所以上経由して入所した場合
居宅から複数の介護施設を経由した場合のパターンです。
【A市の居宅】→(住所変更)→【B市の介護施設へ入所】→(住所変更)→【C市の介護施設へ入所】=【A市が保険者】 |
引っ越しを複数回しているのはパターン②と同じですが、「引っ越し先が介護施設」ですので「最後に居宅だったA市が保険者」になります。
仮に、経由する介護施設が2か所以上の場合でも、最終的に居宅で過ごしたのがA市であれば保険者はA市になります。
つまり、「B市の介護施設からそれ以降の介護施設へ住所地特例が受け継がれている」と解釈すれば良いかと思います。
パターン④:居宅から他市町村の介護施設へ入所し更に他市町村の居宅に引っ越しした後に介護施設へ入所した場合
少々ややこしいですが、要は「様々な市町村の居宅と介護施設を行ったり来たりしているパターン」です。
【A市の居宅】→(住所変更)→【B市の介護施設へ入所】→(住所変更※ここで住所地特例がリセットされる)→【C市の息子宅で同居】→【D市の介護施設へ入所】=【C市が保険者】 |
B市の介護施設からC市の息子宅という居宅へ戻った時点で住所地特例がリセットされるため、その後にD市の介護施設へ入所した場合でも「保険者はC市」になります。
「最後に居宅で過ごした市町村が保険者になる」という覚え方で問題ありません。
パターン⑤:居宅から2か所以上の他市町村の介護施設を経由したが途中の介護施設に住所変更をしていない場合
これもややこしいパターンですが、居宅から複数の介護施設を経由したのに途中の介護施設には住所を移していないという場合もあります。
例えば、措置入所などです。
措置入所は、高齢者虐待などの理由により一時的に介護施設に入所をする措置ですから、介護施設に住所変更をしないことも往々にしてあり得ます。
【A市居宅】→(住所変更せず措置入所)→【B市の介護施設へ入所】→(住所変更)→【C市の介護施設へ入所】=【A市が保険者】 |
「最後に居宅で過ごした市町村が保険者になる」ということを理解していれば、「最終的にC市の介護施設に入所しても保険者はA市になる」ということがわかるかと思います。
では、このパターンで「A市の居宅には住所を置いておくことができない何らかの理由があり、B市の介護施設に措置入所したものの住所はB市の親戚宅に変更した」という場合はどうでしょうか。
【A市居宅】→(措置入所)→【B市の介護施設へ入所(住民票はB市の親戚宅)】→(住所変更)→【C市の介護施設へ入所】=【B市が保険者】 |
この場合は、「本人はB市の親戚宅で過ごしていない場合でも最終的にB市の居宅に住民票があるので、C市の介護施設に入所した場合はB市が保険者になる」ということになります。
最後に
今回は、介護施設に入所した利用者に適用される住所地特例について詳しく解説しました。
5つほど住居地特例のパターン例もご紹介しましたが、実務(実際の現場)では他にも複雑なパターンが様々あるかと思います。
とは言え、ケアマネ試験対策であればこの記事に書いてあることをおさえておけば十分でしょう。
最後に、住所地特例に関係するケアマネ試験の過去問をご紹介しておきます。
問6.住所地特例について正しいものはどれか。2つ選べ。
1.要介護者又は要支援者に限定される。
2.入所する施設が所在する市町村の地域密着型サービスは、対象外である。
3.介護予防給付は、対象となる。
4.軽費老人ホームは、対象施設である。
5.有料老人ホームは、対象施設ではない。
【引用元】2016年第19回介護支援専門員実務研修受講試験
問2.介護保険に関する次の記述のうち正しいものはどれか。3つ選べ。
1.養護老人ホームは、住所地特例対象施設に含まれる。
2.住所地特例対象施設に入所し、住所を変更した被保険者は、当該施設が所在する市町村に住所地特例適用届を提出する。
3.地域密着型介護老人福祉施設は、平成17年の法改正により住所地特例対象施設から除外された。
4.第2号被保険者は、要介護・要支援認定を申請していなくても、被保険者証の交付を求めることができる。
5.日本に住所を有しない海外長期滞在者は、日本国籍があれば被保険者証の交付を求めることができる。
【引用元】2011年第14回介護支援専門員実務研修受講試験
解答は割愛しますが、リクエストがあれば追記したいと思います。
今回の記事が、ケアマネ試験の勉強をされている人や住居地特例についてご存知なかった人のご参考になれば幸いです。