介護業界の異常性

介護事業所が利用者に対して安全を確保しなければならない法的根拠と条文

投稿日:2020年6月11日 更新日:

 

介護事業所は「利用者第一」でも「安全第一」でも、どちらかに極端に偏ってしまうことは良くないということを過去記事でご紹介しました(下記記事参照)。

介護現場は「利用者第一」なのか「安全第一」なのか、冷静に考えようのコーナー

しかし、世の中には「安全性が欠けている」「安全に配慮していない」「リスクを冒してでも利用者のニーズに沿って新しい介護を自称したい」というような介護事業所もあるようです。

確かに、介護保険法の目的(第1条)には「安全」という文言は出てきません。

(目的)

第1条

この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。

【引用元】介護保険法

しかし、介護保険法の第1条だけしか確認せずに「安全はナンセンス」というような勝手な解釈をしたり、「そもそも我こそが介護保険法である」というような突拍子もない妄想を抱いてしまう人がいれば、それこそ異常です。

何故ならば、介護事業所が安全に配慮したり安全を確保していくことには、ちゃんと法的な根拠があるからです。

そして、その法的根拠の解釈も好き勝手に自分の都合の良いように歪曲することは出来ず、「判例」「通説」であったり「社会通念上相当かどうか」という判断基準によって最終的に裁判官が判決を出すことになるのです。

つまり、安全の有無やその解釈は「利用者との関係性」や「信頼関係」などという証明が困難で不確かなものではなく、「社会一般の常識に適っているかどうか」ということが非常に重要になってきます。

今回は、介護事業所が利用者に対して安全を確保しなければならない法的根拠と条文について記事を書きたいと思います。

※経営者や管理者などは従業員に対しても安全を確保し職場環境の健全化に努めなければなりませんが、今回の記事は利用者に対しての安全確保に特化した内容になります。

「会社は従業員を守って欲しい」と言うことは権利だけ主張していることになるのか

 

 

 

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介護事業所が安全を確保しなければならない法的根拠と条文

 

 

それでは早速、介護事業所が安全を確保しなければならない法的根拠と条文をご紹介していきたいと思います。

 

法的根拠①:介護保険法

介護保険法は、利用者の尊厳の保持や自立支援を目的とするような内容が第1条に書かれていましたが、条文を最後まで目を通すと、しっかりと下記のように「安全の確保」が謳われています。

第74条 第3項

三 指定居宅サービスの事業の運営に関する事項であって、利用する要介護者のサービスの適切な利用、適切な処遇及び安全の確保並びに秘密の保持等に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの

第78条の4 第3項

四 指定地域密着型サービスの事業の運営に関する事項であって、利用又は入所する要介護者のサービスの適切な利用、適切な処遇及び安全の確保並びに秘密の保持等に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの

第81条 第3項

二 指定居宅介護支援の事業の運営に関する事項であって、利用する要介護者のサービスの適切な利用、適切な処遇及び安全の確保並びに秘密の保持等に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの

第88条 第3項

三 指定介護老人福祉施設の運営に関する事項であって、入所する要介護者のサービスの適切な利用、適切な処遇及び安全の確保並びに秘密の保持に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの

第97条 第4項

二 介護老人保健施設の運営に関する事項であって、入所する要介護者のサービスの適切な利用、適切な処遇及び安全の確保並びに秘密の保持に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの

「厚生労働省令で定めるもの」とは、それぞれのサービス事業に定められている「人員、設備及び運営に関する基準」等になりますが、「安全の確保のために規定や通知されていることに対して、それに沿った様々な対応や連携や措置を講じていかなくてはならない」ということになります。

もっと言えば、当たり前ですが「経営者や職員の勝手な判断で運営してはいけませんよ」という最低限の基準になるため、安全の確保を怠っている場合は「介護保険法違反」ということになります。

言うことがコロコロ変わる介護職員や上司がいると疲弊する介護現場の実情

 

法的根拠②:民法

もし介護事故が発生してしまった場合、前述したように介護事業所が介護保険法に規定する「安全の確保」を怠っていた場合は、行政指導や改善勧告などが行われたり最悪の場合は指定の取り消しもあります。

但し、介護保険法に謳う「安全の確保」を行っていても事故は起こり得るのですから、介護事故があったからと言って直ちに行政処分を受けたり法的な責任を負うわけではありません。

では、「介護保険法上の安全の確保」ができていて「人員、設備及び運営に関する基準」を遵守していれば何の問題もないのかと言えば、そうではありません。

何故ならば、介護事業所に関係してくる法律は介護保険法だけではないからです。

もし万が一、利用者本人やその家族が「債務不履行や不法行為」を理由として損害賠償請求を行った場合は、民法上の責任を問われることになります。

事故発生以前に「理解を得ていた」「信頼関係が構築されていた」と言っても、実際の関係性を可視化することは難しいですし、本人や家族が心変わりをするということは往々にしてあり得ます(人間ですから)。

そして、民法上の債務不履行や不法行為には「安全配慮義務」と「注意義務」が密接に関わってくるのです。

以下で詳しく解説していきます。

「事故を未然に防ぐのが介護のプロでしょ」→「無理です」

 

債務不履行(安全配慮義務違反)

介護サービスを契約して利用している時点で、その介護事業所には「安全配慮義務」があります。

事業所の職員が、この安全配慮義務を怠って利用者に事故が発生した場合は「安全配慮義務違反」となり、事業所の経営者や設置者が民法第415条の「債務不履行責任」を負うことになります。

(債務不履行による損害賠償)

第四百十五条

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。

一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

【引用元】民法

同条1項のただし書き以降の「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」という部分が、つまり「安全配慮義務などを怠っていないと認められる場合は免責しますよ」という意味になります。

どういう状況であれば安全配慮義務を怠ったと言えるのかはケースごとの状況により違ってきますが、少なくとも「介護現場で働く以上、全く安全を無視するということはあってはならない」ということが理解できるかと思います。

 

不法行為(注意義務違反)

安全配慮義務を怠っただけではなく、職員の故意(わざと行うこと)や過失(不注意で過ちを犯してしまうこと)があれば、「注意義務違反」となり民法第709条の「不法行為責任」を負うことになります。

(不法行為による損害賠償)

第七百九条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

【引用元】民法

つまり、安全を無視してわざと事故を発生させてしまったり、不注意で利用者に損害が生じた場合には「職員個人に不法行為責任が発生し損害賠償請求を受ける可能性がある」のです。

「不法行為をしてでも利用者に寄り添いニーズを達成していきたい」と思う人などいないでしょうが、もしもそんな人がいれば「民法違反でありその考え方は社会通念上相当とは言えない」ということには注意が必要です。

 

使用者責任

もしも、職員が前述したような不法行為をしてしまった場合、事業所の経営者や設置者も民法第715条の「使用者責任」を負うことになります。

(使用者等の責任)

第七百十五条

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

【引用元】民法

 

法的根拠③:刑法

前述した民法違反は、被害者が提訴しなければ明るみにもなりませんし責任を負うこともなく裁判にもなりません。

しかし、刑事事件として警察が介入した場合はそうもいきません。

何故なら、刑法違反の場合は「犯罪」になるからです(取り締まりの対象)。

もしも、介護現場で安全確保や安全の配慮を怠ったり不注意で利用者に事故が発生してしまった場合、刑法第211条の「業務上過失致死傷害」という犯罪になる可能性があります。

そうなった場合、介護事故から介護事件という扱いになります。

(業務上過失致死傷等)

第二百十一条

業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

【引用元】刑法

「5年以下の懲役若しくは禁錮」又は「100万円以下の罰金」という刑罰が待っています。

仮に罰金刑だったとしても、刑が確定すれば前科がつくことになります。

介護現場に関係して、この刑法違反で記憶に新しいのは「おやつの配膳を間違えてドーナツを配ってしまった准看護師が業務上過失致死の罪に問われている裁判」でしょう(下記記事参照)。

【高裁即日結審】特養入所者がドーナツを喉に詰め死亡、おやつを提供した准看護師が罪に問われた事件

刑事事件で前科がついてしまうと、看護師(准看護師)免許や介護福祉士資格の欠格事由に該当してしまうため、免許や資格を抹消(消除)されてしまうことにもなり得ます。

「犯罪者になって資格を取り上げられてでも利用者に寄り添いニーズを達成していきたい」と思う人はいないでしょうが、もしいたとすれば「サイコパスか何か」ではないでしょうか。

犯罪者にならないためにも、介護現場では安全を確保していくことが大切です。

介護業界に存在するサイコパス職員の5つの特徴

 

 

 

最後に

 

今回は、介護事業所が利用者に対して安全を確保しなければならない法的根拠と条文についてご紹介しました。

安全確保の解釈や事業所の運営方針は、経営者の考え方や事業所独自の因習が色濃く出る部分でもあります。

しかし、そういったものに賛同したり職場なのでとりあえず従っておくのではなく、自分を守るためにも利用者を守るためにも「事業所の方針が法律違反になっているのではないか」「自分のやっていることは不法行為や犯罪に該当するのではないか」ということを自分の頭で考えて判断していく必要があります。

何故なら、「職員個人に責任を押しつけてトカゲのシッポを切っておしまい」ということが往々にしてあるからです。

職員個人個人で自己防衛をしていくことが大切です。

【医療行為】一包化されていない薬を介護職員が服薬介助をしたら法律違反

 

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