「逆パワハラ」というものをご存知でしょうか。
「パワハラ」という言葉はよく耳にしますし、介護現場でも結構な高頻度で横行しています。
パワハラは、上司などが職場での立場の優位性を利用して、精神的又は身体的な苦痛を与えることです。
その「逆」ですから、部下(又は後輩)などが上司(又は先輩)に対して下から突き上げるように、精神的又は肉体的な苦痛を与えることが「逆パワハラ」になります。
コンプライアンスや法令の遵守が厳しく言われるこのご時世ですので、「ハラスメント」というものにも厳しい目が向けられるようになりました。
そんな時代背景の副作用として「逆パワハラ」というものも、今後問題になっていくのではないでしょうか。
先日、福岡県の産業医科大学の教授が准教授らから逆パワハラを受け、うつ病を発症したとして損害賠償などを求めて裁判所に提訴したというニュースもありました。
今回は、「介護現場の逆パワハラは法人や事業所の人事裁量の不健全さから生まれる」ということについて記事を書きたいと思います。
介護現場の逆パワハラ
介護現場では、徐々に一般介護職員の発言権も大きくなってきました。
パワハラなどのハラスメントが減っていくことは良いことですが、それによって組織内のパワーバランスが崩れてしまえば統制が取れなくなり破綻してしまいます。
どっちに転んでもマズいのですから、「丁度いいバランスが必要」だということになります。
では、介護現場での逆パワハラとはどういうものがあるのでしょうか。
①何でもかんでも「パワハラだ」と言う
ハラスメントにうるさい時代ですから、上司としてはパワハラやセクハラをしないように十分に気をつける必要があります。
しかし、言わなければならないことは言わなければなりませんし、適切な指示や判断もしなければなりません。
そういった介護現場の中で、部下や後輩である介護職員が「自分の気に食わないこと」に対して何でもかんでも闇雲に「パワハラだ!」と言ってしまうことは「逆パワハラ」に当たります。
そんな状況では、上司としては何も言えなくなってしまうでしょう。
ひいては、健全な運営さえ妨害されてしまいます。
もちろん、本当にパワハラに該当するような発言や行動であったのならば「パワハラ」ですが、上司の言うことなすこと全てにいちゃもんをつけていたら仕事になりません。
その辺は、社会人として弁える必要があります。
②暴言を吐く
上司が気に食わないからと言って、暴言を吐いたり汚い言葉で罵ったりすることは「逆パワハラ」になります。
心の中で思うことと口に出すことは別ですし、暴言を吐いても許される環境であるとするならば、職場環境を悪くしてしまっている張本人は暴言を吐いている人です。
そもそも、汚い言葉を多用する人は人間として信用なりません。
③全く言うことを聞かない
上司の指示や皆で取り決めたことを無視して、全く聞く耳を持たず好き勝手なことをしたり、言うことを聞かないような行為は「逆パワハラ」です。
徒党を組んだり、独自の根拠で言い訳をしたり、挙句の果てには無視をしたりするようでは、職場環境も良くなりませんし上司とのパワーバランスも崩れてしまいます。
介護現場では、とにかくチームで情報を共有しながら統一した介護を行っていく必要があるため、こういった職員がいると周りの職員も困ってしまうことになります。
逆パワハラは人事裁量の不健全さから生じる
「逆パワハラだ」と言われてしまうと、一般介護職員として言いたいことも言ってはいけないように感じてしまうかもしれませんが、社会通念上合理性を欠いていたり社会人としての常識を外れていない限りは「上司を突き上げる働き方」は個人的には推奨します。
「トップダウン、ボトムアップ」の両方の良いとこ取りで意思決定や事業所運営をしていくことは健全であるからです。
どちらかと言えば、今の介護現場に必要なのは「ボトムアップ」ではないでしょうか。
しかし、それが「逆パワハラ」となってしまっては無意味ですし不健全になってしまいます。
では何故、ボトムアップが逆パワハラになってしまうのでしょうか。
①個人の問題
当然、逆パワハラをする個人の性格や人格の問題があります。
お局職員だったり老害職員だったりサイコパス職員だったりします。
長年に渡りしみついてきてしまった性格や価値観や人格を変えるのは難しいかもしれません。
②上司の資質の問題
仮に部下が突き上げてきても、真摯に受け止め介護現場がスムーズに回るように配慮するのが上司の役目です。
あまりにも目に余る職員はそれなりの対応も必要でしょう。
上司が「言っても仕方がない存在」「何も対応してくれない存在」になってしまっていれば、それはそれで問題ですし能力不足です。
要は、上司という人物の資質が欠如してしまっているために、逆パワハラを野放しにする結果になっていると言えます。
③人員不足の問題
おぞましいような逆パワハラ職員を排除したくてもできないのは人員不足という理由もあります。
どんな職員であれ、1人でも減ってもらったら現場業務が立ち行かなくなってしまうのが介護現場の実情です。
ですから、今日も明日も「パワハラと逆パワハラの駆け引き」が行われているのが現状です。
④人事裁量の不健全さ
逆パワハラが横行している最大の原因は、人事裁量の不健全さによって生じてしまっていると言えます。
何故なら、法人や事業所の人事裁量において「資質のある存在を上司として据えることができなかった」ということが一番の問題であるからです。
介護現場を適切に統制できる資質と能力を持った介護主任なり介護リーダーなりを選定できていれば、逆パワハラの発生確率は相当低くなります。
現状での人事裁量では、上司の選定方法は
- 幹部の好き嫌い
- 年功序列
- 自己犠牲が大好きな職員
- イエスマン
- 辞めなさそうな職員
- その場凌ぎ
という不健全な基準で決められているために、「資質や能力があるとかないとか」は殆ど関係がないのです。
そんな人事裁量によって逆パワハラが発生してしまうのですから、非常に罪深いと言えます。
逆パワハラが発生しないために
逆パワハラが発生しないようにするためには、法人や事業所の人事裁量が健全なものでなければなりません。
しかし、実際は「そうしたくてもできない理由」があるのも事実です。
つまり、「そもそも資質や能力のある人材がいない」のです。
もっと言えば、「中間管理職に相応しい人材を育てることができなかった」ということになります。
実際問題として、人員不足の介護現場では「中間管理職を育てる」とか「昇格の基準を明確で健全なものにする」という以前に、「今日明日の人員配置(シフト)をどうやりくりしてやり過ごしていくか」ということにしか目を向ける余裕がないのです。
そんな状況では、上司となる人物を育てていくなどということは埒外になります。
やはり、何をするにしても「人材の確保」が最優先になるのではないでしょうか。
最後に
今回は、介護現場の逆パワハラは法人や事業所の人事裁量の不健全さから生まれるということについて記事を書きました。
人事裁量に大義名分や明確な基準がない場合は、資質も能力もない人物が上司として存在してしまうことになり逆パワハラも発生しやすいと言えます。
介護業界の今後の課題は、上司となる中間管理職を育てていくことであることは間違いありませんが、そのためには人員不足を解消しなければなりません。
この「卵が先か鶏が先か」というジレンマの中で、今日も明日も変わらぬ日々が繰り返されていく可能性が非常に高いのが介護現場の実情になります。