介護職員の処遇や賃金は年々少しずつですが改善傾向にあります。
それは大変ありがたいことなのですが、それでもまだまだ全産業平均の年収約441万円(平成30年民間給与実態統計調査)よりも低い水準であるのも事実です。
介護福祉士の平均年収が約360万と言われていて、介護職員全体となるともっと低くなるでしょうし、中央値で言えば年収300万円前後になるのではないでしょうか。
生活ができないとまではいかなくても、「生かさず殺さず」「希望も絶望も無い」という状況があったりもします。
そうなると、
「介護職員の処遇をもう少し改善して欲しい」
「介護職員の賃金や給料をもっと底上げして欲しい」
という訴えが出てくるのも当然です。
しかし、そういう声に対してよく聞くのが、
「介護事業所の売上に対する人件費の割合を考えたことがあるのか」
「介護保険制度の理念や財源や仕組みを理解しているのか」
「給料に見合う働きをしているのか」
というような声です。
もちろん、そういったことも勉強して理解して考えていくことも大切ですし、自分の職責や義務を全うして出来得る範囲で善処していくことが求められているわけですが、だからと言って「だから賃金アップは諦めろ、言ってはいけない」という結論になってしまうのだとすれば少々乱暴すぎます。
もっと言えば、その思考は国や経営者などの権力者が労働者に刷り込もうとしてきた「我慢、忍耐、自己責任、自己犠牲の精神」と何ら変わりがないのです。
今回は、介護職員の処遇改善や賃金(給料)アップを訴えることはいけないことなのか、ということについて記事を書きたいと思います。
介護職員の処遇改善や賃金(給料)アップの訴えはいけないことなのか
介護職員が処遇改善や賃金(給料)アップの訴えをすることはいけないことなのでしょうか。
結論から言えば、「自分の幸福を追求する権利は憲法で保障されているため処遇改善や賃金アップを訴えても良い」ということになります。
もちろん、それが達成可能か不可能かは別として、「少なくとも自分の権利を主張することは何もおかしなことではない」ということです。
以下で詳しく見ていきたいと思います。
憲法が保障する幸福追求権や言論の自由とは
憲法第13条では、以下のように規定されています。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
【引用元】日本国憲法
全ての国民は自分の幸福を追求する権利を保障されています。
介護職員も日本国民ですから、当然保障されることになります。
但し、「公共の福祉に反しない限り」という文言がありますので、他の人の人権や権利を侵害してしまう場合は幸福追求権も制限されるのですが(公共の福祉は公けの福祉事業という意味ではないことには注意が必要)、処遇改善や賃金アップの訴えは誰の人権や権利も侵害していません。
また、憲法第21条では以下のように規定されています。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
【引用元】日本国憲法
上記の条文により、介護職員にも「言論の自由」が保障されています。
もし言論の自由を侵害された場合は、「言論弾圧」となったり「人権や権利の侵害」になります。
ということは、「介護職員は処遇改善や賃金アップの訴えをしても良い」という結論が導き出されることが理解できるかと思います。
賃金アップが難しい諸問題について
介護職員が処遇改善や賃金アップの訴えをすることには何の問題もないことは理解できたかと思いますが、確かに実際それらが可能かと言えば様々な問題があるのも事実です。
冒頭でも少し触れましたが、
- 財源の問題
- 構造上の問題
- 利益率の問題
などです。
しかし、「問題が山積みだから無理、やめよう」ではなくて、「問題をどう解決していくか」ということに目を向けていくことが重要なのではないでしょうか。
憲法第12条には、以下のように規定されています。
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
【引用元】日本国憲法
国民に保障されている自由や権利は「不断の努力によってこれを保持しなければならない」のです。
つまり、介護職員が訴える権利を保障していくためには「絶え間ない努力が必要」ということなので、「権利を主張し続けることが必要」と解釈することができます。
自分の権利を主張もせず、自分の権利の上で眠っている人は保護や保障をされないのが法治国家なのです(下記記事参照)。
結論として、「介護職員は処遇改善や賃金アップのために不断の努力をしていかなければ保障されるものも保障されなくなる」ということになります。
不断の努力の歴史
実は、国民は前述したような「不断の努力」によって様々な自由や権利を勝ち取ってきました。
その第一歩となったのはやはり「訴え」です。
看護師の二・八(ニッパチ)闘争
1960年代に看護師達が「夜勤の人員体制と回数制限(夜勤協定)」と「処遇の改善」を求めて闘ったのが「ニッパチ闘争」です。
職能団体である「日本看護協会」を作り、政治団体である「日本看護連盟」も創設し、「夜勤は2人体制、月8日以内(ニッパチ協定)」と「処遇の改善や賃金アップ」を粘り強く不断の努力で交渉した結果、勝ち取ることができたのです。
義務教育の教科書代無料
憲法第26条2項には「義務教育の無償」が謳われています。
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
【引用元】日本国憲法
しかし、この条文は「義務教育の授業料がタダなのであって、教科書代や制服代などはタダではないよ」という解釈となり、昔は教科書代は有料でした(判例)。
それでも、「やっぱりおかしい」「教科書代くらいはタダにして欲しい」という訴えが起こり、
- 義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律(昭和37年3月31日公布,同年4月1日施行)
- 義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(昭和38年12月21日公布,同日施行)
という法律が新たに成立することとなり、教科書代がタダになりました。
それらの法律成立の経緯から「教科書無償給与制度(リンク先:文部科学省HP)」が実施されています。
現在、義務教育中の教科書が無料で貰えるのも、昔の人が訴えを起こして勝ち取ってくれた賜物であると言えます。
最後に
今回は、介護職員の処遇改善や賃金(給料)アップを訴えることはいけないことなのか、ということについて記事を書きました。
それらが達成可能かどうかは別として、訴えていくことは何の問題もないばかりか、訴えないことは権利の上で居眠りをしていることになってしまう可能性さえあります。
ただ、訴えるにしても「正しい方法で正しい場所に訴えていく」ということが必要になるのですが、経営者に訴えても最終的に給料を決めるのは経営者なのは変わりませんし、そもそも経営者も少ない利益率の中での運営に四苦八苦している場合も往々にしてあり得ます。
国へ直接訴えても、一介護職員の意見など一笑に付されるだけでしょうし、八方塞がりになってしまうのも事実です。
そんな状況の中で、「不満や愚痴のひとつ」として漏らしたりすることの方が多くなってしまうのも自然の摂理でしょう。
例えそうであったとしても、「自分の権利の上で眠るよりはマシ」ではないでしょうか。
コメント
〇〇〇なんて、処遇改善すら払いませんからね。
「業績が悪化してるので、処遇改善はありません」で終了。
実際はわけのわからんことに無駄に金使ってるだけなのに。何泥棒してるんだ。
しかも特定処遇改善加算なんて、算定してるくせに、払う対象はかなり上の管理者のみって勝手に決めたらしい。
普通、訪問とか各事業所に管理者がいるんだけど、法律上の管理者も、〇〇〇の社内では管理者ではないんですよ。で、会社の中でどういう基準かしらんけど、この人管理者にしようってなったら、ケアマスターってわけのわからん職位になるんだけど、特定処遇改善はそのケアマスターのみに払うらしい。
え?現場のスタッフは?みたいな。
もともと処遇改善なんて、会社が吸い上げて終わりって思ってる。
国が介護職員の処遇改善のために制度を作っても、それに従わず、加算だけとって金をガメてる。これ、かなり悪質ですよね。
と思ったら、衝撃の事実が。
福岡市が独自に、介護職に給付金を払うことを決めたんだけど、なんと〇〇〇は、その給付金を申請しなかったらしい。
「公平に支払えないから」とか意味不明な理由なんだけど、実際は給付金はさすがに会社が吸い上げて従業員に払わないってわけにいかないから、そうなると申請だの支払いだの無駄な作業だけ増えて、会社に何のメリットもないから、申請しないってことだと思う。
まさか国が決めた5万円も申請しないんじゃないだろうな。
つくづく介護職員をバカにした会社だと思う。
介護職の処遇が改善しないのは、介護保険の設計や社会的な風潮とかも原因だと思うけど、実際に大きな障害になってるのは、金を払いたくない会社や法人だと思う。
加算や給付金など、会社にいったん払って、会社の裁量で従業員に払ってくださいとかしたら絶対ダメだと思う。すべて会社が取り上げるだけだと思う。
例えば、介護職員の時給は2000円以上にしないとダメとか、時給レベルや年収レベルでしばりを作って、違反したら処罰されるようにしないとダメだと思う。
>デイちゃんさん
こんばんは~
コメントありがとうございます^^
処遇改善加算(手当)は事業所の柔軟な運用に任せたのが失敗ですね。
基本給や時給を最初に低く設定しておいて、そこに処遇改善を足して「基本給や時給に手当が含まれています」などとしている事業所もありましたね。
本当に足されているのかの確認のしようもないですし、結局底上げにならないですよね。。。
福岡市のニュースは私も見ました。
市も戸惑っているようですね。
公平ではなくなるとは言っても、減るわけじゃないんだから貰えるものは貰って対象の職員に還元してあげればいいのに、とは正直思いました。
介護職全体の処遇は、介護職の発言権が小さくロビー活動が弱いことが根本にあるような気がしています。
コロナのせいで、他の業種でも倒産があいつぐと思いますし、全業種の年収の平均はかなり下がると思うんですよね。
コロナの前でも、一部上場の企業は、40以上の管理職を対象に、希望退職プログラムの強制を始めていましたし。これまでのように、いったん会社に入ったら大丈夫‥ではないと思います。
医者は高給取りの代表でしたが、コロナのせいで、病院は経営がかなり苦しくなってるみたいだし、所得は下がるでしょうね。あんなに大変な思いしたのにね。
医者の給料が下がるなら、看護師とか他の医療職も下がり気味になりますよね。ボーナスなしとか。
そうなると、他が落ちてくるので、結果的に介護職の給料と差が縮まるかもしれませんね。
そして、「他の業種も大変なんだぞ」「こんなに大変な時期なんだから、介護職の給料が上がらなくてもしょうがないだろ」「他の業種の給料が下がって、介護職の給料と差がなくなったからいいだろ」とか言い出しそうですね。
>デイちゃんさん
返信ありがとうございます^^
確かにコロナ禍で経済活動が低下して多くの産業の売上も落ち収入も減少することになりましたね。
介護業界でもデイやショートなどは自粛をすることになりましたし少なからずダメージはありますね。
介護事業所でもボーナスをカットする事業所もあるようですし、コロナ慰労金の分を差し引いて支給するようなアクドイ事業所もあるようです。
労働者同士で石を投げ合うようなカオスな状況になる可能性もあり得ますね。