介護現場で発生する事故(アクシデントやインシデント)の多くが「転倒や転落」です。
こうした介護現場での事故は、介護職員がどんなに気を配っていてもゼロにすることはまず不可能であるということは、その理由も含めて過去記事にも書きました。
今回は、介護事故の中でも大きな割合を占めている「転倒や転落」に関して、事故の発生がゼロにならない最大の原因について記事を書きたいと思います。
介護現場で転倒や転落事故がゼロにならない最大の原因
以前、「入所者が複数回転倒したことでお亡くなりになった事故の裁判で、施設側に介助義務違反があったとして2800万円の賠償命令判決が出た」というニュース報道もありました。
「介助義務違反」の定義や範囲が問題となるわけですが、実際問題、介護現場においては「転倒や転落事故」は多発しています。
介助義務違反の範囲を広く捉えすぎてしまうと、「現場職員の負担が増え益々働きにくい業界」になってしまいます。
そもそも、介護職員の負担を増やしたところで事故の発生はゼロにならず、疲弊や心労によって逆に事故が多発してしまう危険さえあり得ます。
気づきや気配りは重要
確かに、介護職員の気づきや気配りによって、転倒や転落事故を未然に防げる場合もあります。
例えば、車椅子上で長時間座っている利用者は、お尻が痛くなったり背中や腰に違和感を感じてしまうでしょう。
これは、我々であっても同じで、ずっと同じ姿勢で長時間椅子に座っていれば、身体のどこかしらに違和感や苦痛を感じます。
その場合、その違和感や苦痛を和らげようとして、意図的又は無意識に体を動かして体勢を変えようとします。
その動作によって、「車椅子上でお尻が前へずれていき転落(又は滑落)してしまう」ということはよくある事故です。
この場合、介護職員が気づいたり気を配ったりすることで、早めに姿勢を整えたりポジショニングを確認したり、お部屋で横になってもらう等の対応をすることで転落事故を未然に防ぐことが出来ます。
但し、居室で横になってもらう場合は、見守りができなくなるため介護職員の目が届かず「ベッドから転落してしまう」という新たなリスクが発生してしまうことは否めません。
つまり、「ハインリッヒの法則」にあるように、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、その軽微な事故の背景には300件の異常があるのですから、介護現場では事故へ繋がる伏線が張り巡らされており、「それを全てゼロにするということが不可能」であることは理解できるかと思います。
最大の原因「利用者が人間だから」
転倒や転落事故が発生してしまう原因は、ハインリッヒの法則に鑑みると無限にあるわけですが、「24時間付き添いができない」「人員不足」「行動が予測不可能」など様々です。
そういった中で、介護現場で転倒や転落事故が発生してしまう最大の原因は「利用者が人間だから」です。
人間である以上、様々な理由で動くでしょうし転倒することだってあります。
利用者が身じろぎもせず手も足も動かさない状態であれば、転倒や転落事故は発生しません。
しかし、利用者も人間なのですから当然動きます。
本当に事故をゼロにしたければ、利用者が動かないようにしなければなりませんが、動きや行動を制限することは「身体拘束」となるため、介護現場ではすることが出来ません。
介護現場で転倒や転落事故が発生する最大の原因がわかっているのに、それを制限することも解決することもできないのです。
そもそも、仮に身体拘束をしたとしても、そのまま無理やり動こうとしたり予測もつかないような行動に出る人もいるため「新たなリスク」も発生してしまいます。
つまり、人間が動く以上、転倒や転落事故がゼロになることはないのです。
転倒や転落を受け入れる体制づくり
転倒や転落事故は人間が動く以上、回避できないことなのですから、まずはその事実を受け入れることが重要です。
そして、介護現場での転倒や転落事故によって、犯人捜しをしたり責任の押し付け合いをするのではなく、「転倒や転落をするのもその人の人生である」という考え方や体制づくりが必要ではないでしょうか。
もちろん、出来るだけ転倒しないような対策や対応をしていく必要がありますが、介護職員の故意や重大な過失がない以上、不可抗力です。
まだまだ現状では転倒や転落事故が発生した場合、介護職員に責任を押し付けたり介助不足を指摘されたりする風潮がありますが、防ぎようがない事故の責任まで負わされるのは「理不尽」以外の何者でもないのです。
最後に
今回は、「介護現場での転倒や転落事故の発生がゼロにならない最大の原因」について記事を書きました。
入所者や利用者が人間である以上、身体を動かすのは当然です。
身体を動かす以上、転倒や転落事故のリスクはゼロにはなりません。
介護現場では利用者に付き添えない時間の方が多いのです。
付き添えない代わりに、見守りや巡視などで対応を行っているのが現状です。
そういった実情を踏まえれば、転倒や転落事故の発生はゼロにはなりません。
そして、もっと介護現場の実情を世間一般にも理解をしてもらい「介護現場で転倒や転落してしまうのも人生」という考え方や体制づくりが必要ではないでしょうか。