介護現場や介護業界の処遇改善を訴えていると、業界の人に限らず世間の人からも
「介護職員より過酷な仕事は他にもある」
「介護職員より低賃金な仕事は他にもある」
「どんな仕事でもしんどいに決まっている」
というご意見を頂くことがあります。
確かにそれは間違いないのですが、介護の仕事は他に類をみない「特殊性」があります。
今回は、「介護の仕事はどういう点が特殊で、他の仕事と明らかに何が違うのか」ということについて記事を書きたいと思います。
特殊性①「認知症者が相手の仕事」
人間を相手にする仕事は沢山あります。
接客業やサービス業がそれに当たります。
介護の仕事も同じように利用者という人間を相手にしています。
そういった普通の仕事との大きな違いは「介護サービスの対象者の中には認知症者が多くいる」ということです。
居宅系介護よりも施設系介護は認知症者の利用率が高い傾向にあります。
「認知症者を相手にするから特殊」と言いたいところですが、「介護職員なんだから認知症者の介護をするのが当然」と言われてしまうでしょう。
本当の特殊性は別にあります。
「介護に正解はない」と教えられるのですが「正解はないと教えられるのに不正解はある」のです。
しかもその判断基準もハッキリとしていません。
また、世間の常識から見れば普通のことでも、介護現場では「不適切ケア」と言われてしまうグレーゾーンも存在します。
つまり、「やればやるほど何が正解で何が不正解なのかわからなくなってくるのが認知症介護の特殊性」だと言えます。
そもそも、利用者本位と言うものの、意思疎通が図れない認知症者が何を求めているかなんて神様かエスパーでなければわかるはずがありません。
事業所は利用者と向き合わず役所の方向を向き、減算されたりペナルティを食らわないように運営しているに過ぎません。
とても特殊な世界だと言えます。
特殊性②「国の方針に弄ばれる仕事」
介護職員の賃金が低水準なのは誰でも知っていることかと思います。
確かに他産業のいくつかは、「医療・福祉」産業より収入が低いという統計(平成30年賃金構造基本統計調査の概況(産業別)(PDF):厚生労働省)も出ています。
しかし、これはそのまま介護職員の平均的な収入ではありません。
何故なら「医療」と「福祉」を混ぜて統計を取ってしまっているために「医療従事者の収入」も含まれてしまっているからです。
介護職員の平均的な年収は「約360万円」と言われています。
夜勤手当で水増ししながら、全産業の中で何とかワースト2かワースト3を維持している業界なのです。
今後益々介護が必要な高齢者が増えていく中で、介護職員も益々必要となってくるので、国を挙げて処遇の改善に取り組んでいます。
そういった方針は願ったり叶ったりで大変ありがたいのですが 「何故か未だに現場職員はその処遇改善が実感できていない」 場合が多くあります。
その実態の原因は
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などになります。
例えば、介護職員処遇改善加算にしてみても、介護職員の処遇を改善することを目的としているため、「内部保留」はできないものの
- どの介護職員に
- どのタイミングで
- どういう形で
- どれだけ支給するか
ということについては「事業所の柔軟な運用に委任」されています。
事前に「介護職員処遇改善計画書」というものを事業所が行政へ提出するのですが、そこには「どの介護職員にどれだけ支給するか」などの細かな項目はありません。
2019年10月から実施される「業界10年以上の介護福祉士に月8万円支給」という施策も同様です。
こういった「処遇を改善したいのか、したくないのか、よくわからない国の方針の中で弄ばれている介護職員は特殊」だと言えます。
特殊性③「専門職の中でマウントを取られやすい仕事」
介護業界が他の産業と大きく異なるのは、「多くの専門職の集合体」だということです。
他の一般企業にはあまりない構図かと思います。
- 営業マン
- 技術者
- 事務員
くらいの職種の集合体はあるかと思いますが、介護業界は
- 介護職員
- 看護師
- 生活相談員
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)
- リハビリ職(理学療法士、作業療法士等)
- 管理栄養士
- 事務員
等々の専門職が同じ事業所内に存在しています。
そして各々の「職業倫理」の中で専門性を発揮し、すり合わせを行い、ひとりの利用者のケアを行います。
各々の専門職の職業倫理が存在するのですから、意見が割れたり食い違うことも多々あります。
しかし介護職員はこれらの専門職の中で「専門性がはっきりしていないのでマウントを取られやすい」という特徴があります(職場カースト)。
最悪の場合は「無下にされたりバカにされたり」します。
直接的に利用者のケアを行っている職種なのに「専門性が可視化しづらいために他職種からマウントを取られやすい介護職員の存在は特殊」だと言えます。
特殊性④「世間からもマウントを取られやすい仕事」
介護職員は事業所内の他職種だけでなく、世間からもマウントを取られやすい仕事です。
「介護職員より過酷な仕事は他にもある」
「介護職員より低賃金な仕事は他にもある」
「どんな仕事でもしんどいに決まっている」
ということを言われ、処遇の改善を訴えることさえままなりません。
最後には「そんなに嫌なら辞めればいい」などということを言う人まで現れます。
「介護の仕事が嫌」なのではなく「介護の仕事を魅力のある誰もがやりたいと思えるような職業にしたくて言っている」のです。
恐らく、まだまだ介護の仕事のことを「奉仕やボランティアの延長の仕事」だと思っている人が多い証拠なのでしょうが、これだけ「世間からもマウントを取られやすい介護職員は他に類を見ない特殊な仕事」だと言えます。
特殊性⑤「事件が多発する異常な仕事」
介護の仕事よりも過酷で低賃金な仕事は他にもあるでしょうが、介護業界ほど職場での「事件」が多発している業界は他に類をみないのではないでしょうか。
それだけ「介護は特殊な仕事」だということを物語っていると思います。
加害者や被害者は事件によって様々ですが、必ずと言っていいほど「介護職員と利用者(入所者)」はセットで事件が発生しています。
他の過酷で低賃金な仕事ではあり得ないような事件が介護業界にこれほど多いということは 「特殊を通り越して異常」 だと言えます。
その異常さは「利用者からの違法行為は許される業界」という点にも表れています。
百歩譲って、認知症者が多いので致し方ないにしても、職員を守れる体制も保証もないために「介護現場は治外法権の世界」です。
そんな業界や産業が他にあるでしょうか。
介護業界には、言葉では言い表せない「魔物」が住んでいるのです。
最後に
今回は、他の業種や産業とは明らかに異なる「介護の仕事の特殊性」について記事を書きました。
賃金や過酷さの「ワースト勝負」や「大変さの押し売り」をしたいわけではありません。
どの仕事も大変だとは思いますが、介護業界には他の仕事には類をみない「特殊性」や「異常さ」が存在しています。
そしてその多くは、まだまだ排他的で閉塞的な業界の闇とポジティブなメッキで覆われています。
自分がやっている仕事や業界全体がより良くなっていく為に、「真実や事実を記事にして改善を訴えることで業界に寄与」していきたいと考えています。
介護の仕事より過酷で低賃金な仕事は山ほどありますが、介護の仕事ほど特殊で異常な上に過酷で低賃金な仕事は他にはないのではないでしょうか。