介護職員の給与水準が低いことを嘆いたり改善を訴えたりすると、必ず出現するのが
「介護職員の給料が安いことは初めからわかっていたことでしょ?」
「介護職員が低賃金だとわかった上で働き始めたんでしょ?」
「給料水準を上げて欲しいなら、他の仕事をすればいいのでは?」
「財源の問題があるから介護職員の給料は上がらないよ」
などというような意見を言う人です。
そこには「無慈悲な自己責任論」や「白か黒かの極論暴論」の闇が存在します。
今回は、そういった意見に対して、そうは言ってもそれでは片づけられない理由について記事を書きたいと思います。
「最初からわかっていたこと」では片づけられない5つの理由
確かに、「介護職員の給料は安い」ということは世間でも周知されている逃れようのない事実になります。
また、介護職員として働く際には、事業所と雇用契約を締結するわけですから、最初から大体の自分の給料はわかった上で働いていることになります。
それなのに、何故「最初からわかっていたことだから仕方がない」で片づけられないのでしょうか。
理由①「改善を訴え続けることに意味がある」
給料が安いことは初めからわかっていたからと言って「じゃあ仕方がない」で終わってしまうのは「ただの諦め」です。
仮に「人生諦めが肝心」だとしても、自分がそう思うのならまだしも、介護職員が改善を訴えると「何故、他人が口を挟んでくる」のでしょうか。
そっちの方が「どうかしてる」としか言いようがありません。
様々な問題が山積みで解決や改善が難しいことであっても、改善を求める権利はありますし、訴え続けていかなければ問題点や改善点も露出しないわけですから、改善するものも改善しません。
改善を訴え続けていくことに意味があるため「最初からわかっていたのだから仕方がない」では片づけられないのです。
理由②「昇給率が低い」
そもそも、介護業界以外の会社であっても「新人」や「入社直後」の時は一番低い給与水準からのスタートとなります(学歴や経験が考慮される場合もありますが)。
介護の仕事も同じで、入職する時に交わした雇用契約に提示されている給料は「一番低い水準からのスタート」だと思います。
問題は「昇給率」です。
普通の会社であれば、勤続年数や経験や能力によって昇給していくのですが、介護業界の場合は昇給率が著しく低く、いつまで経っても低水準のままなのです。
百歩譲って、最初からわかっている「給与水準」は仕方がないにしても、経験を積み能力を備えていっても「低水準のまま」というのは腑に落ちません。
「介護の仕事は将来性がない」と言われる所以です。
見合った昇給率や自分の明るくて希望に満ちた将来を確保したいと思うのは、介護職員でなくとも当然のことではないでしょうか。
自分の将来は自分で切り拓いていく必要があるため、昇給などで給料水準アップを望むことは当然で、「最初からわかっていたのだから昇給率も低いままでも仕方がない」では片づけられないのです。
理由③「1人分以上の業務負担がある」
低水準の給料は初めからわかっていたにしても、あくまでそれは「自分1人分の給料」です。
しかし、実際に働き始めてみると、人員不足のため「1.5人~2人分」の業務をしなければ現場が回っていかない状態に陥ります。
さすがにそんな過重労働が常態化していれば「労働と対価が見合っていない」と誰もが思います。
給料は1人分しかもらえないのに、1人分以上の働きを求められるため、働いた分の給料の支給を求めるのは当然の権利です。
実際に働き始めてから労働と対価が見合っていない状態に陥ることになり「初めからわかっていたことだから対価の発生しない過重労働でも仕方がない」では片づけられないのです。
理由④「誇りを持って仕事をしている」
処遇の改善や給与水準アップを求めるということは「介護の仕事に誇りを持ってやっているから」です。
そして、今後も介護の仕事を続けていきたいからこそ、改善が必要だと思っている人が殆どでしょう。
そんな人に向かって「給料が不満なら他の仕事をすればいい」と言い放ってしまうのは全くもって見当違いも甚だしいと言えます。
サッカー選手が、自分の収入を上げたいからと言って「よし、明日からプロ野球選手になろう」と思うでしょうか。
「もっとサッカーの技術を磨いてチームの連携を強化して良いプレイが出来るようにしよう」という努力をすることで自分の収入アップに繋げようとするはずです。
それと同じで、介護の仕事を続けながら給料を上げていきたいわけですから「初めからわかっていたのだから仕方がない」では片づけられないのです。
理由⑤「時代や社会情勢は変化していく」
言っても何も変わらないかもしれませんが、「何も言わないと悪化」していきます。
賃金だけに限らず、職場環境の改善についても、何も言わず上司や経営者や行政や国に流されていれば、現状維持どころか悪化してしまうのです。
何故なら、「実際に現場で働いているのは介護職員」であり「時代や社会情勢も変化している」からです。
介護職員の訴えこそが、「今現在の現場のリアルな声」なのです。
リアルな声を無視した方針では、机上の空論になってしまい、益々介護職員の給料水準や現場の状況は悪化してしまうでしょう。
今まで、そうして現場の声を無視してきた結果が、今の惨状ではないでしょうか。
「悪化していくのを何も言わずに放置している人こそ自己責任」であって、「悪化しないように、改善していけるように、声を上げ続けている人」がいるからこそ現状が維持できていると言っても過言ではありません。
介護職員の賃金や処遇や職場環境について、誰も何も言わない状況を想像してみて下さい。
そんな状況であれば、逆に陰気で閉鎖的で排他的な業界に拍車が掛かってしまっていることでしょう。
最初からわかっていたことであっても、時代の流れや社会情勢によって状況は変化するものです。
その変化に対応し、時代錯誤の考え方を指摘し、改善を求めていくことは必要なことであり、「最初からわかっていたことなのだから、後生大事に胸にしまい込んでいればいい」ということで片づけてしまって良いはずがありません。
最後に
今回は、「介護職員が低賃金なのは最初からわかっていたことなのだから、収入や処遇について改善を求めても仕方がない」ということでは片づけられない5つの理由について記事を書きました。
もちろん「ただただ高収入が欲しい」というだけの目的であれば、介護以外の仕事を選ぶ方が得策かもしれません。
しかし、多くの介護職員は「介護の仕事を続けながら、もっと収入を上げたい」と思っています。
勘違いして欲しくないのは、「今の収入を2倍、3倍にして欲しい」と言っているのではなく、「過重労働な上に夜勤手当さえ含めた収入が他産業に比べてもまだ低いという水準をどうにかして欲しい」という「とても謙虚な訴え」であることです。
この謙虚な訴えさえ許せない人や、元も子もない極論をぶつけて来る人は、きっと「介護職員の賃金や処遇が改善したら困る人」「極論の暴力で相手を論破したり制圧することを生きがいにしている人」なのではないでしょうか。