介護現場において「対応不能な利用者の対応について取り上げて欲しい」というリクエストを頂戴しましたので、記事にまとめていきたいと思います。
そもそも「対応不能なのに対応していかなければならない」という時点で矛盾や違和感を感じますが、「現状の介護現場ではそういう状況が常態化している」というのも事実です。
つまり、
「対応不能な利用者であっても、アプローチ方法や介護技術で対応していくのがプロ」
「そもそも、利用者は認知症や精神疾患などの病気があるため仕方がないこと」
という状況が介護現場には往々にしてあるのです。
しかし、そういう状況を当たり前のように介護現場だけに押しつけてしまうと、
- 職員のストレス増大
- 他の利用者に迷惑が掛かったり被害が出たりする
- 職員が防御や反撃をすることで虐待や介護事件が発生する
という悪循環が発生します。
ですから、いずれにしても「対応不能(と思われる)利用者の対応や対応方法を介護現場に丸投げしてしまうことに問題がある」と言えます。
以下で詳しく解説していきたいと思います。
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対応不能な利用者の対応方法は?介護現場に丸投げするだけでは悪循環
対応不能な利用者のケースは様々ですが、例えば、
- 暴言や暴力のある利用者
- セクハラをする利用者
- 常に奇声や大声を出している利用者
- 介護拒否がある利用者
- 転倒リスクがあるのに歩こうとするなど目が離せない利用者
などになります。
要は「問題行動のある利用者」ということになりますが、こういう利用者の対応を「現場職員に丸投げ」「精神論だけで行わさせる」「人智を超えた介護技術を強いる」ということでは無理が生じます。
ケースごとに対応は異なってきますが、共通しているのは「職場や事業所や法人全体で検討して対応していくことが必須」ということです。
下記記事にも書きましたが、それが出来ていない事業所であれば職員や利用者が苦しみ悪循環が断ち切れない環境があると言えます。
対応不能な利用者の対応方法は?
ケースごとに考えられる対応方法をご紹介していきたいと思います。
前提として、職員個々がその場で考えて行う対応方法ではなく、カンファレンスやサービス担当者会議などを通して「事業所全体で検討した場合の対応方法」になります。
また、「丁寧な声掛け」「気持ちに寄り添う介護」「信頼関係を構築する介護」をしたとしても対応不能な場合は多々ありますので、その先の話になります。
①暴言や暴力のある利用者の対応方法
暴言や暴力のある利用者の対応は、現状では「職員の自己犠牲や我慢」で行われている場合が多いのではないでしょうか。
そんな状況では悪循環でしかありません。
先日も医療現場ですが、「某県立病院で精神疾患のある患者から看護師が暴行を受け、反撃したため懲戒処分となった」というニュース報道がありました。
介護現場でも同じような環境が存在しています。
もちろん、職員が反撃したり手を出してしまうことはあってはならないことなのですが、「じゃあどうするの?」という点が問題になります。
職員が人間サンドバッグのようになってきた結果が、今の人員不足であったり職場環境の悪さだったりネガティブな印象そのものと言えるのではないでしょうか。
対応方法として、
- 二人以上の職員で対応する
- 薬の処方や調整を検討する
- 医療機関への入院や退所(転所)を検討する
などになろうかと思います。
②セクハラをする利用者
セクハラをする利用者も現状で「職員の自己犠牲や我慢」でまかり通ってしまっている場合があります。
職員が我慢をしたり、「セクハラを受け入れるのがプロであり神対応」などと言われる状況であれば残念な気持ちになります。
考えられる対応方法は、
- 職員二人以上で対応する
- 同性介助をする
- 介護保険外のそういうサービスがあれば自費で利用する
- 最悪の場合は利用をお断りする
などになろうかと思います。
③常に奇声や大声を出している利用者
認知症や精神疾患などで常に奇声を発したり大声を出している利用者もいます。
程度にもよりますが、「こっちまでおかしくなりそう」という状況さえあります。
職員だけでなく周りの他の利用者も同じように思っている場合も当然あるでしょう。
対応方法としては、
- ユニットやフロアなどの生活の場を調整する(個々の状態によって棲み分けるという意味です)
- 薬の処方や調整を検討する
などになろうかと思います。
④介護拒否がある利用者
介護拒否がある利用者の介護をするのは大変手こずります。
何故なら、「利用者本人は介護をされたくないと思っているのに介護職員として介護をしなければならないから」です。
「では、介護しなくていいのでは?」と思われるかもしれませんが、
- 介護が必要だから介護サービスを利用している
- 介護職員が介護をしない場合「ネグレクト(介護放棄)」という虐待認定をされる可能性がある
という点から「介護をしないという判断」はできません。
対応方法としては、
- 職員二人以上で対応をする
- 介護や介助の線引きや妥協点を模索する
- 最終的に介護サービスを利用するのかしないのかの判断をして貰う(本人と家族の意向)
などになろうかと思います。
⑤転倒リスクがあるのに歩こうとするなど目が離せない利用者
自分一人では歩けない又は何とか歩けるが転倒する可能性が高い利用者など「目が離せない利用者」がいる場合は手を焼きます。
何故なら、「職員は24時間付き添いすることはできないから」です。
また、職員1人当たり複数の利用者の介護をする必要があるため「一瞬たりとも目を離さない」ということは不可能なのです。
転倒などが発生した場合の改善策に、「見守り強化」「可能な限り付き添い対応を行う」などと書かれることがありますが、非常に抽象的ですしそもそも状況によってはできない場合もあります(人員不足やワンオペ夜勤など)。
ではどうすればいいのかと言えば、対応方法として、
- 転倒する前提で家族の理解を得ていく
- 付き添いできるプラスの人員を配置する(介護補助員や手の空いた他職種など)
などになろうかと思います。
つまり、「絶対に転倒させない前提」ではなく「人間、ましてや高齢者なのだからどんな状況でも転倒する可能性があるという前提」で対応していく方が自然なのです。
介護現場に丸投げするだけでは悪循環
前述したような対応方法は、
- 法人や事業所の理解がありしっかり向き合ってくれる
- 介護現場に対応を丸投げしない職場
である前提で書いたものなので、問題となってくるのはそうではない法人や事業所の場合です。
つまり、「介護現場に丸投げして何も対応をしてくれない法人や事業所」である場合には、現場職員が対応に苦慮し苦肉の策を駆使しながら介護を行っていくことになります。
そういう状況や環境の中では、以下のような悪循環が断ち切れません。
悪循環①:職員のストレス増大
介護現場に対応を丸投げされると職員のストレスが増大します。
何故なら、「会社が守ってくれない環境の中で具体的な対応策もないまま自己犠牲と我慢をしながら働く日々だから」です。
ストレスがストレスを呼ぶストレスフルな状態となってしまうことでしょう。
そんな環境では「辞めたい」と思う職員が続出するような悪循環に陥ってしまっても何もおかしくはありません。
悪循環②:他の利用者に迷惑が掛かったり被害が出る
利用者が利用者に迷惑を掛けたり何らかの被害が出てしまうことは避けなくてはなりません。
第一に「利用者に何かあったら困るから」という当然の理由がありますが、もっと言えば「そういう状況さえも介護職員の責任になってしまうから」です。
例えば、ホテルなどで宿泊客同士のトラブルがあった場合は、従業員が関与していない場合は従業員に責任はありませんが、介護現場の場合は「介護職員が関与していない利用者同士のトラブルでも介護職員の責任になる」という特殊性があります。
そんな理不尽な環境の中では「辞めたい」と思う職員が続出する悪循環に陥ってしまうことでしょう。
悪循環③:職員が防御や反撃をすることで虐待や介護事件が発生する
暴力を振るう利用者に対して何も防御しなければ人間サンドバッグ状態です。
かわしたり相手の手を押さえたりしながら介助を行うにしても、かわしきれないこともあり得ます。
そんな状況の中で、カッとなったり条件反射で反撃をしてしまうことになれば虐待や介護事件になってしまいます。
そういうことはあってはならないのは本人だって重々承知の上で、それでもそういうことが発生してしまう可能性があり得るのが介護現場です。
そこまで追い詰められてしまったり、自分がそうなりそうで恐怖を感じている人は暫く休む(休業)か、介護職員を辞めることをおすすめします。
「介護現場から出て行け」と言っているのではなく、あなたの人生を台無しにしないためです。
介護現場に丸投げするだけでは、「辞めたくなる環境」「虐待や介護事件が発生しやすい環境」という悪循環に陥ってしまうことになります。
最後に
今回は、リクエストにお応えして「対応不能な利用者の対応を介護現場に丸投げにするだけでは悪循環に陥ってしまう」ということについて記事を書きました。
「あれ、事業所が非協力的な場合の対応方法が書かれていないぞ?」と思われたかもしれませんが、ぶっちゃけた話「苦肉の策でグレーゾーンを駆使しながら悪戦苦闘している」という介護職員もいらっしゃるのではないでしょうか(私も含め)。
ですから、なかなか明記しにくいのも事実なのですが、最終的には「自分を守りながら働く」ということを念頭において介護をしていくことが必要だと思っています。
リクエストに対する回答になっているかはわかりませんが、少しでもご参考になれば幸いです。